スペシャル・デリバリー
僕たちは工場の廃墟で眠りについていた機関車をサバンナに駆り出すが、すでに日が傾き始めていた。
サバンナの夕暮れは、オレンジ色に染まった空と大地が一体となり、静かな美しさと切なさを感じさせる。
炎のように赤く染まった空の下、大地は静かに息をひそめていた。動物たちは夕暮れの時間を知っており、水場や巣穴に戻っている。僕たちの乗った機関車の他に、地上を動くものは見当たらない。
機関車は黒い煙と共に、最後の戦いのために線路をひた走っている。進行方向の先には、地平線に消える線路と陽炎しか見えなかった。
大地は――サバンナは人の営みなんか気にしていない。
どこまでも平和だ。
本当にこの惑星に宙族がいるのか、本当に戦争なんかしてるのか?
疑わしくなってくる光景だ。
「眠くなってきたぞー!」
「ですわねぇ。ふわぁ……」
「静かだなぁ―。機関車はうるさいけど」
「プイ!」
「嵐の前の静けさ、ってやつだね。」
ポチとトレーラーは、榴弾砲が固定された台車の後に連結されている。
僕たちは、トレーラーから台車の上に移って、そこで目標地点への到達を待ち、まだ太陽の熱が残る、
僕はMRで地図を表示して、アプリの支援でもって現在地を測定する。かなり大雑把な推定になるが、もう少しで宙族の拠点が射程に入るかな。
「もう少しで目的の座標に到着ですね。」
「ようやくかい……で、戦う前になんだけど、さ」
「はい? なんでしょう」
「宇宙船が手に入ったら、アンタはお空のお星さまに帰っちまうのかい?」
「まぁ……たぶん、そうなるんですかね」
「そうかい。ま、短いような長いような付き合いだったね」
「ですね。ギリーさんも銀河の中央に行きます?」
「ハッ! 冗談にしても面白くないね」
「ちょっと本気だったんですけどね」
「アンタみたいな『文明人』がゾロゾロいる世界なんて、ゾッとするよ」
「あー……確かに。それは否定できませんね」
「だろ?」
「僕たち『文明人』は、たしかにちゃんと服を着て、お金を払って、毎日仕事にいって、犯罪をしない。そこだけ見れば、確かに文明的かも知れません」
「それくらいのこと、オークだってやってるよ」
「そうですね。ただちょっと違うのが――」
「お題目を立てたら、いくらでもやるってトコかねぇ」
「はい。」
「この惑星ナーロウで戦いって『宙族』VS『墜落者』ですから。ぶっちゃけると、コレ、『文明人』同士の争いなんですよね」
「蛮族、オーク、エルフ、ゴブリン、そいつら同士、全く争いが無いってわけじゃないけど……あんたらほどは徹底的にやらないね」
「でしょうねー。」
「まったく。文明だか何だか知らないけど、上等なオモチャを作って振り回すことに頑張って頭を使うんじゃ、無いのと同じだよ」
「うーむ、耳が痛いですね」
「ま、そんなわけでアンタはお家にかえんな。こっちはこっちで上手くやるさ」
「はい。」
「サトー、家に帰るのかー?」
「寂しいですわね。でも、同じようにサトーさんの群れの家族が待ってますわ」
「そっかー」
(いやー……それはどうかなぁ)
実際、僕は実の両親、家族と会ったことがないからな。
家族と出会ったことがないというのは、この銀河では別に珍しくもない事だ。
宇宙を移動する時、僕らは冷凍睡眠技術を使って移動する。
だから、人間の寿命に数百年のズレが発生して、自分の孫、そして祖父が同時に存在するなんて事もザラにある。
そうなると、家族の関係はかえって、かなり希薄になる。
あぁ、遺伝的に同一性の高い個体ね。くらいだ。
今の時代、血縁による家族という絆を大事にしているのは、昔ながらの生活を宗教的信念から続けている、ちょっとカルトじみた連中しかいない。
銀河中央で家族といえば、実際に仕事や生活を共にしているパートナーのことを指すからな。
そういった意味では、文明世界に僕の家族はいない、と言い切っても良い。
(いや、むしろ――)
ニートピアで一緒に生活していたギリーさんやハクとクロ、そしてポチか。
これまで、彼女たちとやってきた事の方が、家族らしい生活といえる。
(本当に帰って良いもんかな……?)
「プイ!!」
僕の思考は、僕の背後にいるポチが上げた鳴き声で中断された。
MRを確認すると、なるほど。
目標の座標に到着したことを教えてくれたらしい。
「っと、目標の座標に到着したみたいですね」
「サトー。」
「なんです、ギリーさん?」
「
「――わかってます。全て承知の上です」
「そんならいいよ。こっちも取り分はしっかりと頂くからね」
「本当にちゃっかりしてますね」
「ハハッ! 全部終わって、要らないもんがあったら全部引き取るよ、あぁ。あの発電機と冷蔵庫がいいね」
「あ、ずるいですわ!」
「うちだってヒエヒエが欲しいぞ―!」
「まぁまぁ、落ち着いて。宙族の拠点に同じのがあるかもしれないからね」
「そっかー?」
「うーん……ですの」
「もっと大きいのがあるかもよ?」
「じゃあそっちをもらうか―!」
「もう! まだあるとは決まってませんわよ!」
「あったらもらう!」
「ですの!」
「やれやれ、戦いを始める前から山分けの話が始まっちゃったよ」
「……負けるかも、そういうのは、一切考えないんですね」
「サトー、考えてもみな。アタシらはこれまで一度も宙族に負けてないよ」
「そうでした」
「そ、だからきっとうまくいくさ。始めな」
「――はい。 ポチ、始めよう!」
「プーイ!!」
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