弾丸列車(文字通り)


「こんなもんでいいかな」

「ほとんど、ポチがやってただけどねぇ」

「プイ!」


 工場の廃墟でプラズマ砲を手に入れた後、僕らの計画は次の段階に進んだ。

 つまり、宙族の拠点を攻撃するための最終準備だ。


 この工場地帯には、いたるところに大量の化学弾頭が備蓄されている。

 あのレーザー銃を作っている場所だけではなく、プラズマ砲を作っていた工場に化学弾頭があったのだ。


 これから推測するに、どうやらアトラクション用機材や土産物の製造はカモフラージュで、この工場地帯の目的は、化学弾頭や兵器類を製造することだったんだろう。その辺りのことは、以前見つけた書類と符合する。


(この書類、本当に暴露しても大丈夫かなぁ……僕の命がやばくなりそう)


 僕が以前工場地帯で手に入れた書類は、惑星ナーロウを舞台に、いろんな企業が違法行為に加担したという動かぬ証拠だ。もし暴露したら、暗黒メガコーポをダース単位で相手にすることになる。


 うん、絶対ヤバイ。 


「……プイ?」

「いや、何でも無いよ」

「キューイ!」


 ふぅ、ポチもすいぶん僕の顔色を繊細に見るようになった。

 機械なのに、そこらの人間よりもうまく、僕の心を見透かしてるみたいだ。


 さて、ポチの作業も大詰めだ。列車の車列の最後尾、屋根も壁もない、台だけのコンテナ用貨車にブーブーボゥイからもらった大砲をポチが固定した。そしてポチと僕らがここまで乗ってきたハウストレーラーはこの後に接続される。


 大砲が乗った貨車の前には、大量の化学弾頭を載せた貨車が並んでいる。

 うん、文字通りの弾丸列車の完成だな。


 僕の計画では、2段階の攻撃を予定している。

 まずは機関車を自動運転のまま進めて、ある程度の場所まで進む。


 そして、宙族の拠点に大砲の射程ギリギリまで近づいた時点で、化学弾頭を載せた貨車を切り離して、荷物をお届けする。


 化学弾頭を積んだ列車には、それぞれの車両に起爆タイマーを設定した通常の砲弾を紛れ込ませてある。えげつない話だが、今の大砲の弾って不発弾に見せかけて、時限式で爆発する機能があるんだよね。今回はそれを利用する。


 そして、列車の突撃を援護するため、大砲を、弾を残さず撃ち尽くす。

 化学弾頭の炸裂の後、拠点に突撃するわけだから、弾を残していく意味はない。

 なので全部使うわけだ。


 大砲で狙うのは、おそらく宙族たちが居住区として使用しているであろう、ホテルやカジノにする。これでそれなりの数を減らせるはずだ。


 まぁ、懸念がないわけでもない。


 宙族のカシラがそれなりに頭の回るタイプだったら、武器弾薬、ふっとばされたら困る重要な物資は、ほとんど宇宙港に回しているだろうな。


 この計画がうまく言ったとしても、宙族のエリート部隊は残るだろう。

 宙族の戦力を、1,2割減らせれば上出来かな?


「おっと、事後報告と行くか」

「事後報告? あぁ、墜落者ギルドに伝えちまうのか」


「ギルドに無駄足を踏ませたくない、というの理由もあるのですが、もっと大きな理由は、探索のために戦力を分散してほしくないんですよね」


「ああそっか。ギルドは宙族に宣戦布告しちまったわけだからね。いつ襲撃が来てもおかしくないのに、部隊をわけちまったら良いカモになるだけだ」


「そのとおりです。さすがギリーさん。長年この荒野で生き延びているだけありますね」


「褒めても何もでやしないよ」


 彼女は大規模な戦闘を俯瞰できる視点をもっている。下手をすれば、ランドさんよりずっとリーダー向きかもしれない。


 まあ、戦時のリーダーと平時のリーダーは要求される資質が違うから、これを見てランドさんがリーダーとして相応しくないかというと、それはそれでまた話が違うんだけどね。


<ザ、ザザザ……ガピー!>


 無線機の周波数をいじるが、全然だな。

 ノイズが酷くて何が何だか。

 

「うーん、無線機の感度が悪いですね。毒ガスに重金属が含まれでもして、それが障害になってるのかな? ポチ、頼むよ」


「プーイ!」


 ポチが左手で僕の無線機のアンテナを掴み、右手を天に伸ばす。

 お、多少マシになったぞ。何か人の声が聞こえてくる。

 どうやらギルドのオープンチャンネルにちゃんとつながったみたいだ。


「もしもし、サトーです、聞こえますか?」

『ザザ……その声はサトー君か・ザッ…‥』


 かろうじて会話ができるが、ノイズが酷いな。

 内容は手短に伝えるとしよう。


「宙族の拠点に対して、先制攻撃をかけます。方法は例のアレです」

『ザッ何……だがもう――手遅れだ』

「なんですって?」

『―・部隊を集結しているとき・ザッ・襲撃を受けた……』

「襲撃を? 宙族の襲撃を受けたっていうことですか?」

『ザー・そうだ…負傷者が多数――』


 いわんこっちゃない。


 どうも会話の内容から察するに、ランドさんは宣戦布告の後、周囲のコロニーから野原に兵力を集めていたんだろう。そして、ボケーっと到着を待っているところを、宙族の突撃部隊に襲われたようだ。


 続くランドさんの通信によると、墜落者ギルドは兵力を消耗してしまい、とても今すぐ攻撃にかかれるという状況ではないそうだ。


 あーもうメチャクチャだよ。


「わかりました。ランドさんは部隊の再編成を急いでください。こちらはこちらで、宙族に攻撃を仕掛けます」


『ザザッ・何、それは無謀だぞ……』


(どの口で!?)


「ここまできたら、もう弾丸列車の運行は止まりません。それじゃ――」


 通信機の向こうでランドさんが何かをわめいているが、気にせず無線を切った。


 墜落者ギルドが早くも脱落してしまったのは予想外だが、これはこれで横槍のない、クリーンな状況で戦いを始められるってことだ。これはこれで良い。


 宙族がギルドの戦力の集結地に対し、部隊を出したということは、宙族の本拠点はいくらか戦力が引き抜かれたということを意味する。


 これはむしろ、攻撃のチャンスだ。


「ポチ、今すぐ列車を出そう。」

「プイ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る