戦闘機械

 僕たちは捕虜にした宙族たちを野に返したあと、サバンナに放置していた榴弾砲を回収して、再び工場地帯に向かう。


 そのまま進み続けると、ただでさえ少ない草木が姿を消し、窓越しに見える周囲の景色には、緑色の霧がかかってきた。


「この辺りは相変わらずですね」

「そうだね。いつか普通の土地に戻るときがくるのかねぇ」

「どうでしょう。発電機が動き続けている限り、それはないと思います」


 ポチのセンサーから送られて来た情報が、僕の視界に重なるようにして表示されている。これによると外の環境は生物にとって致命的で、保護具がない状態ですごしていると数分で死に至るそうだ。


「生身でいたら、数分で死亡する環境汚染か……これのお陰で今も略奪から守られているわけだけど、ちょっと複雑だね」


 お、線路が見えてきたぞ。地面の上を真っ直ぐに走る線路は、ぽんっと定規を置いたみたいで、歪みや傾きのひとつも無い。


 ポチは線路に並走するためにタイヤの向きを切ったが、車体が描くカーブはその一切が無駄に膨らむこと無く、トレーラーは線路にピタリと並走した。


(おぉ、さすがポチ、芸術的なハンドリングだ。)

 

「よし、このまま線路を辿ってまっすぐ行こう」

「プイ!」

「このままいけば、列車の場所まで一直線だね」

「いえ、一旦、作業機械が置いてある工場を目指します」

「ん、車両基地には行かないのかい?」


「はい。宙族から得た情報で思いなおしました。まずはポチの強化を目指します」

「キング・ベヒーモスってのは、そんなに強いのかい?」

「えぇ……今のポチで戦えるかどうか……ちょっとわかりません」


 あの宙族の捕虜から得られた情報は、かなり重要なものだった。


 もし何も知らないまま戦いを進めていたら、何の対抗手段を持たないまま、宙族の拠点で「キング・ベヒーモス」と鉢合わせた可能性がある。


 今のポチは、歩行戦車の姿を取っている。でもこれはパワーアーマーのパーツをツギハギにしただけの、でっちあげでしかない。


 本物の戦闘機械であるキング・ベヒーモスと戦ったら……。

 うん、数秒でポチはスクラップにされるだろう。


 ベヒーモスと対決する可能性を考えたら、ココにあるものでポチをさらに強化することは、絶対に必要だ。


「プ~イ……」

「そんな落ち込まなくていいよポチ。ここで強くなればいいんだ」

「キュイ!」


「で、実際どうするんだい?」


「前回でわかった通り、この惑星ナーロウのテーマパークでは、アトラクションに軍用レーザー銃を使ったり、ちょっと頭がおかしい事をしてますからね。アトラクションに関係する工場をあたれば、ポチが強化できるかもしれません」


「なるほど、そりゃ道理だ。」

「プイ!」


 アトラクション関係の工場を見つけるのは、それほど難しくない。

 ちゃんと工場に看板が出ているからね。前回行った工場の上の方を見ると、脳みそを破裂させるゴブリンと光線銃の絵が書かれている。

 いや、デザインとして、いくら何でもそれは無いやろ……。


 …………。

 ちょっと見て回ったが、色々ありすぎて困るな。


 オークを轢き殺す戦車が描かれた「エキサイトタンク」の看板に、エルフの村を爆撃して焼き払う「バーニングジェット」の看板が見える。うーん……。


 ロクなもんがねぇな。

 おもに倫理面で。


「うーん、ポチ的にはどの工場が良さそうかな?」

「頑丈にするのか、パワーを強くするかで全然違うんじゃないかい?」

「それもそうですね。ここは火力? いや、装甲も捨てがたいな」

「プ~イ……」


 うーむ、ポチも迷っているな。


「ポチ的には、キング・ベヒーモスを倒すには何が必要だと思う?」

「プイ、キュイキュイ!」


 僕たちが乗ったトレーラーを牽いたポチは、こちらに背中を向けたまま、身振り手振りを交えて話し(?)始めた。


「プイプイ、キュ~イ」

(キング・ベヒーモスの装甲は、3000年前の水上艦に相当します。エンジンや弾薬庫といったバイタルパート、重要区画を守る装甲は、水平部では最低でも1000ミリ。最も厚い正面部分では、300ミリ以上の装甲を持っています。)


「プーイ……」

(残念ながら、今の私の武装では、この装甲を貫通できません)


「今のポチのスラグキャノンじゃ、まるで刃が立たないってことかい?」


「プイ……キュキュ!」

(その通りです……。スラグキャノンはパワーアーマーに対して効果的ですが、それはあくまでも着弾時の衝撃によって内部の人員を殺傷する事によるものです。)


「そうか、確かに今の装備じゃ倒せないね」


「キュイ~」

(ベヒーモスに対抗するには、高い貫通力を持つ強力な大砲が必要です。火薬燃焼式の古式砲では巨大になりすぎますので、できればプラズマ砲がいいですね)


「なるほど……ベヒーモスを倒すには、今装備しているキャノン以上の大砲が必要だけど、それを支えるボディも必要になるよね」


「キュイ! ププイ♪」

(その通りですサトーさん! 大型砲を搭載するなら、電力ユニット、衝撃吸収ユニット、もろもろを収めるスペースが必要になりますね)


「色々必要になるな……よし、作るか!」

「プイ!」


「何言ってるかわかんねーなー」

「本当ですわね!」

「ホントだよ。結局、何が決まったんだい?」


「ポチの武装の強化ですね。ここらの工場を回って、ポチの新しい主砲を作ることに決めました」


「なるほどね……余り物が出たらもらってもいいのかい?」


「ちゃっかりしてますね。いいですよ。トレーラーハウスが動かなくなるくらい、持って帰ろうってなると困りますけど」


 よし!

 ポチの戦闘機械ウォーマシン化計画の始まりだ!

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