工場めぐり


「さて、ここらの工場を回ると言ってもなぁ……」

「大砲を使ってるアトラクションを探すかい?」

「それしか無さそうですね。でも、そう都合良くそんな物があるはず――」


 僕はふっと、空を仰ぎ見た。


 ポチが進む道の左右には、背の高い工場が立ち並んでいる。立ち上がった工場の黒い影に切り取られた緑色の空は、ひどく窮屈な印象を僕に与える。


 するとその時、仰ぎ見ていた小さな空の端っこに、ひとつの看板が空に浮かぶようにして佇んでいるのが目に入った。


 その看板には右上にゴツゴツとした書体で「サベッジ・ビシージ」と書かれており、平原をにらむ城壁(?)の上に立った子どもたちが、弾けんばかり笑顔をこちらに向け、壁に並べられた大砲をぶっ放してサムズアップしている。


 大砲は緑色のビームを砲口から吐き出しており、ビームは平原の向こうから迫りくる牛頭の怪物、ミノタウロスに命中していた。


 その威力は凄まじく、看板には緑色の粘液をき散らしてミノタウロスが上半身を爆発させる様子が克明に描かれていた。


「うん、あったわ。」

「あったね。」

「プイ!」

「あの牛の肉、食えるのかー?」

「ハク、ここは焼肉屋じゃありませんのよ!」


 うーん……ドラゴンにとっては、あの牛男も肉扱いか。

 プラズマを受けて粘液化してる肉は食べないほうが良いんじゃないかなぁ?


「そういえば、あの看板に描かれているミノタウロス、惑星ナーロウでこれまでに一度も見たことがありませんね」


「そりゃそうだろうさ。なんせ――」


「美味いからな―!」

「牛の人は見つけたら大体、食べられちゃいますものね」

「えぇ……」


 ミノタウロスの姿を見ないと思ったら、美味しすぎるせいで絶滅してたのか。

 なにそれコワイ。

 

「と、ともかく、工場の中に入ってみましょう」

「プイ!」


 道路に面している工場のシャッターは、固く閉ざされていた。


 だが、改良されたポチのマニピュレーターには関係ない。指先からバチバチっと火花を出せば、鉄のシャッターの表面がオレンジ色になって、あっという間に溶断されていく。少し待っていると、僕たちが乗るハウストレーラーでもすっと入れるだけの開口部ができあがった。


「よし、前へ」

「プイ!」

「あのアリみたいな連中がいないと良いけどね」

「あっ確かに。さっさと換気装置を動かさないといけないですね」


蛮族の城攻めサベッジ・ビシージか……中は一体どうなっているのやら」


 工場の中に入るって中を見ると、大量の大砲が鋼鉄製のパレットの上にストラップで固定されて並んでいた。お、はやくも目的のブツを発見か?


 僕は大砲に駆け寄って、それを調べてみる。


 大砲の見た目は数千年前の「大航海時代」と呼ばれる時代に、帆船で使われていた大砲によく似ているな。


 拳を握って表面を叩いてみると、僕の手に硬い感触が返ってくる。どうやら本物の金属で造られているらしい。


 ってことは機能面でも本物なんだろうか?


「ポチ、どうだい?」

「プイ!」


 ポチが大砲に近寄ってきて、マニピュレーターで大砲を調べ始める。砲口、そして大砲に点火する火門まで調べたところで、ポチは情けない声を上げた。


「プ~イ……」

「この大砲は――なんだって?」

「何て言ってるんだい?」


「この大砲は、射撃に必要なパーツがまるっと抜け落ちていて、もぬけの殻だそうです」


「なんだい、出来上がってるわけじゃないのかい」

「みたいですね……」

「これ、棍棒にいいかもなー!」

「流石に重すぎませんかしら」


 ハクとクロはパレットに乗っていた大砲を平然と持ち上げて、素振りしている。しれっと棍棒代わりにしてるけど、100キロじゃすまない重さだよね……?


 うーむ。さすがは蛮族。

 凄まじい膂力りょりょくだな。


「仕方がない。工場の中を探すとしようか」

「おー!」


 最近は銃を撃つ戦いばっかりで、ハクとクロの出番はまるでなかった。

 だけど工場の中を探るとなると話は別だ。

 この狭い場所では、彼女たちの助けが大いに役立つからな。


「工場の中には、前戦ったアリみたいなのが居るかもしれない。気をつけてね」

「おー!」


 大砲の抜け殻しかない工場の入り口を後にして、僕たちは奥へ進んだ。


 この工場は、作っているものが「大砲」と大きいだけあって、以前探索した工場よりずっと広い。


 ポチが体を壁にこすらずとも、前に進む事ができるのは助かるな。


「何ですのこれ?」 

「お、なんかあるぞー!」

「む……」


 目の前の光景を見た僕は、内心「なんじゃこりゃ。」と、なった。


 工場の中を進んだ僕たちの目の前には、コンクリートのブロックが並んだ大きな空間があった。灰色の床には三角コーンが群れをなして並び、床には黒と黄色のツートンの塗装が帯のように伸びて壁の縁やコンクリートの柱を囲んでいる。


「これは……ロボットの試験場か?」


 これと似たような施設を、僕は一度見た記憶がある。


 あれは確か……数ヶ月に及ぶ出向案件だったな。

 ココと似たような施設で、自動で食料品を配達する宅配ロボの試験をしたっけ。


 なんでも『ユーザーには幸せを、強盗には死を配達します』というコンセプトで、全自動迎撃火器を装備した宅配ロボをテストしたのだ。


 しかし、制御チップの納品が間に合わないままテストを強行したので、試験機は施設を脱走し、街で暴走を始めてしまう。


 最終的にロボットは、無関係な市民を100人以上、対処に当たった武装警察を50人以上殺害した後、破壊されて停止した。


 その戦闘能力の高さから、配達ロボは戦闘ロボとして開発を続けることになったが、問題はその後の方が大きかった。


 開発企業は被害家族に対してのお見舞いとして、10個集めるとお見舞い果物セットと交換できるチケットを7枚支給するという、挑発としか思えない行動を取ったのだ。当然、企業は市民による焼き討ちと警察による爆破テロを受けて倒産。

 ロボットもそのまま販売されること無く、お蔵入りとなった。


(ここにいると、あの時のことを思い出すな……でも違うこともある)


 この場所は、ただのロボット試験場ではない。

 そう、灰色の床の上に、大量のアリの死体が転がっているのだ。


 そしてさらに、試験場の中央に異様な存在がいた。


 右手に「大砲」を持ち、左手にはサーベルを持った、ブリキの兵隊の格好をしたロボット。アリを蹴散らしたのは、あいつの仕業か。


 しかし異様にデカイな。ブリキの兵隊の身長は3メートルはある。さらにノッポな帽子のせいもあって、工場の天井に頭をこすりそうになっている。


「アリの死体の一部が、緑色になって弾け飛んでるって事は……あの大砲、ひょっとして生きてる?」


「プイ!」


 アリの死体は、サーベルで斬られたモノ、ロボットの鉄の足で踏み潰されたようなモノの他に、緑色の粘液になっているものがある。


 ってことは、大砲はまだ生きてるってことか。

 なんとかして、無傷で手に入れたいな。


「ポチ、狙撃であのロボットを仕留めてくれ」

「プイ!」


 ポチは背中のスラグキャノンを水平にすると、そのままぶっ放した。

 青白く光る弾体が僕の目を焼き、残像を残して飛んでいき、そして――


<ガィンッ!!!>


 金属の甲高い音が試験場に響いた。


「……マジ?」

「ありゃ。」


 ポチの放った弾は、ブリキの兵隊が構えたサーベルで弾かれていた。青からオレンジに色を変えながら、いまだチリチリと燃える弾体を踏み潰した兵隊は、サーベルを高く掲げてこう言い放った。


『ゆけ、ゆけ戦士! 死こそは我が身の運命ぞ!』


 これは不味い。

 この異常な反応速度と言動、明らかに戦闘ロボットの挙動だ。


 いや、なんでこんなもんがテーマパークにあるんだよ!!!

 ふざけんな!!!!

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