インタビュー
「撃つな、降参する!」
「そのまま動くな!」
車を止めた宙族は、白旗代わりのボロ布を振り回して降参の意思を示していた。
しかし、まだ反撃の可能性もなくはない。僕がハウストレーラーの天板から重機関銃を向けると、ひぃ、という情けない声が上がった
「手を上げて車から出ろ。手の平はこちらに見えるように」
「わ、わかった! 撃つな、撃つなよ!」
(こんな
くだらないことを考えていると、3人の宙族が、のそのそと車から出てきた。
「よし、何が目的か言え。情報を吐けば、命までは取らない」
「…………」
「お前たちは三人いる。意味はわかるな」
「わ、わかった、全部言う!」
「よしいい子だ。」
「俺たちはカシラに命令されて、この先の工場地帯に行かされてたんだ……」
「カシラ……宙族のカシラか。それで、何を欲しがっている」
「…………」
<ドンドンッ!>
僕の放った重機関銃の弾丸が地面を掘り返す。
巻き上げられた土と火薬カスの匂いが入り混じり、喉の乾きを強くするなんとも言えない匂いが、僕たちの間にたちこめた。
「わかった、止めろ、止めてくれ!」
「なら、続きを言うんだ」
「カシラはキング・ベヒーモスっていう、超デっけぇ戦車を掘り起こして修理してるんだ。だけどパーツが足りなくって……」
(な……キング・ベヒーモス!?)
宙族の語った「キング・ベヒーモス」という名前に、ハッとした様子を見せた僕を不審に思ったのだろう。ギリーさんが疑問の声を上げた。
「何だいそりゃ。 サトー、アンタなにか知ってるのかい?」
「えぇ、まぁ……」
うむ。
男の子だったら「キング・ベヒーモス」の事を知らぬ者はいないだろう。
なにせキングベヒーモスといえば、夢の兵器。ロマンが形になった地上戦艦として有名だ。高い運用コストに軍が耐えられず、ほんの数隻の記念艦を残してすべての艦が退役したが、その人気はいまだ根強い。
なつかしいな。僕が子供のころ、プラモデルをつくったっけ……。
当時の僕はぶきっちょだったから(いや、今でもそうだけど)1ダースくらいのパーツを無くしたり、折ったりしながらも、完成させたんだっけ……。
そのキング・ベヒーモスが、この惑星ナーロウに存在するなんて!
ヤバイ、ちょっとワクワクしてきた。
「……気味悪い顔してないで説明しな」
「あっ、すみません。」
「キング・ベヒーモスっていうのは陸上を走る戦艦で……えーっと、ギリーさん、戦艦って何かわかります?」
「バカにするんじゃないよ。フネだろ? なんでフネが陸を走るんだい」
「そう、それ! そこが最高なんですよ! 核融合ジェネレーターによって、都市一個分の電力を内蔵してるのに、そのほとんどは重量を軽減するための重力操作に費やされるというバカバカしさ!! 普通にレーザー砲やプラズマ砲を搭載すればいいのに、火薬式の主砲を搭載するという時代錯誤! キッチュでアナクロすぎる設計思想はもはやパンクロックという評価があってですね――」
「すごい早口だね」
「好きなもので」
「つまり、宙族どもはバカでっかくて強力な兵器を持ち出しているが、整備不良で動かせない。だから部品取りに手下を使っている。ってことだね?」
「はい、そういうことです」
「ならそう言いな」
「もっと説明したかったのに……」
「そういうのは、ちゃんと場を選びな」
「はい。」
「あっ、さてはブーブーボゥイを襲ったのも、パーツ取りのため?」
「かもしれないね」
「へへ……」
まさか宙族たちが、そんな超兵器まで持っていたとは思わなかった。
これは厄介なことになったぞ。
なにせ、僕の知識が確かならば、キング・ベヒーモスは、核、生物、化学兵器を完全防御できるからだ。
真正面からベヒーモスの装甲を貫けないなら、汚い手を使うのが普通だ。
当然そういった事に対する対策をしている。
何とかしないといけないな……。
化学弾頭が効かない相手がいるというのは、厄介だぞ。
「ベヒーモスの修理状況はどうなってるんだ?」
「大体6割から7割って聞いてるぜ。副砲のパーツを流用して、とりあえず主砲を動かせるようにしたんだ」
「なんだって、副砲のパーツを? 自分のパーツで共食い整備したのか」
「あぁ。だって無いもんは仕方ないだろ? 早く動かせるようにしろって、カシラがうるせぇし」
「じゃあ、主砲はもう使えるようになってるのか」
「あぁ、近々試し打ちをするって話しだったのに、そこでお前らのボスの宣戦布告だ。今頃は――」
(そうか、キャベツ集落が危ない! ……ま、いっか。)
「墜落者ギルドはもう攻撃に出ているからな。お前らの拠点を攻め落とせすことができれば、家が燃やされようと、大した問題じゃない」
「うっ……」
「さぁ、どこへなりと行け。武器以外の手荷物は持っていってもいいぞ」
「サトー、こいつらを始末しないのかい?」
「情報を吐けば、命までは取らないって約束しましたからね」
「宙族どもを甘やかしても、良いことはないよ?」
「それは承知の上ですが……もう一つの理由もありまして」
「うん?」
「降参すれば命だけは助かると知れれば、宙族の士気が下がりますから」
「なるほど。ちゃんと下心があるなら、それでいいよ」
「さぁ、早く行け!」
「へ、へへ……」
宙族をサバンナに追い払った僕は、次は宙族の自動車をポチに分解してスクラップにしてもらう。エンジンや予備のタイヤといった貴重品も手に入った。
道草を食ったが、宙族の今の状況が知れてよかった。キング・ベヒーモスが戦闘に現れるのも時間の問題だ。一刻も早く、工場地帯に向かわないと。
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