星々に向けて
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ーキャベツ集落・某所にてー
キャベツ集落の研究室で、二人の男が向き合っていた。
部屋にある光源は、背の低いフロアライトひとつだけで、お互いの顔色も判然としないほどに薄暗い。
薄明の室内で先に口を開いたのは、墜落者ギルドのギルドマスター、ランドだ。
彼はニートピアから送りつけられた捕虜の情報を受け取っていたのだ。
「それは本当かね?」
「はい、捕虜の情報によれば、大規模な攻撃の用意が進められていると――」
「宙族のカシラは超巨大地上戦車、『キング・ベヒーモス』という兵器を発掘し、今現在も修理を続けているようです」
「キング・ベヒーモス! 失われたはずの惑星級の侵略兵器ではないか……! 高い戦闘能力を持つものの、過大な環境破壊を伴うため、全ての機体が解体、あるいは無人の惑星に投棄されたはず……そうか、ここがそうなのか!」
「はい。この惑星ナーロウはテーマパークとしてテラフォーミングされる前は無人の荒野。死の惑星でした。その頃に持ち込まれたのでしょう」
「鹵獲を防ぐため、投棄された際に、ベヒーモスは武装を無力化されていたはずだ。ということは、いまは宙族の手によって修理中ということか?」
「はい。修理の進行度は70%台まで進み、足回りの耐久性と機動力、近接防護に不具合があるものの、主砲の修理は近々完了するとのこと。」
「え、早くない?」
「恐らく投棄を担当した企業が、一部を解体をしただけで解体終了としたためでしょう。書類上はそれでも解体、ということになるので」
「ひどすぎんだろ!!」
「いや本当に」
「……オホン、捕虜の情報が確かだとすると――もはや一刻の猶予もないな。もしもベヒーモスが完全に復活したら、我々には手がつけられんぞ」
「はい。巨獣が動き出す前に、こちらから攻撃を仕掛けるべきかと」
「だが、我々の戦力では、な……」
「ギルドマスター、新進気鋭のコロニーがあるではありませんか」
「新進気鋭? あぁ、あそこか」
「はい、『ニートピア』です。前回の襲撃も特に問題なく乗り切りました」
「何があったのか、詳しく説明してくれ」
「はい。彼らニートピアが前回襲撃を受けたのは、高い迷彩効果を持つ装備で忍び寄り、接近戦に持ち込むのが得意技の『宙族のステルス団』でした」
「あのチームには7つのコロニーが破壊された。それを彼らが撃退したのか」
「そのとおりです。偵察隊の報告によると、迷彩で砂の上に隠れている襲撃者を、正確無比な射撃であぶり出したそうです」
「なんと、それでどうなった」
「宙族たちは、たまらず長距離から突撃を開始しました。シールドを展開し、銃弾を弾きながら陣地に向かって突撃しましたが――」
「突如、上空から現れたグリフォンとドラゴンによって前衛部隊が蹂躙されました。ステルス団は完全に壊滅したそうです」
「圧倒的ではないか! そうか、彼らなら……」
「はい、怪物には怪物を当てるのです。キング・ベヒーモスを相手にできるのは、我々ではなく、彼らのような怪物です!」
「――!!!!」
「ギルドマスター、ご決断を!」
「……私は最初、彼を見た時、何かおぞましいモノが天から降ってきたのではないか? そんな気がしていたのだ。――それは間違いでは無かった。」
「彼、サトーは異常な性格の持ち主だが、それゆえにこの惑星の異常な環境に適応している。常人の精神力であれば、2日に1回は発狂するものだ。」
「文明人にはあまりにもこの惑星ナーロウの環境は過酷ですからね」
「うむ、暑い、寒いで発狂はまだわかる。雨に濡れて発狂、家の中に長時間いるだけで発狂、食事の時イスとテーブルがないだけで発狂。アホかと。」
「便利で快適すぎる文明社会の弊害ですね。この惑星に墜落してきた者のほとんどが、不便な生活に耐えられず、心から先に死んでしまいます」
「うむ。しかしサトーは違う。我々のように、自らの心を生き延びさせるため、限られた資源を生活の向上に費やす必要がないのだ」
「彼にとって、それは無駄なことなのですね」
「そうだ。おそらく彼は、銀河有数のブラック企業にいたのだろう。そうでなければあの精神の強さは説明がつかない」
「サトーさんなら、この惑星の状況を変えてくれるかも知れませんね」
「そうだな。我々も行動を起こすとしよう」
「ギルドマスター、計画は未だ万全と言える状況ではありませんが……」
「銀河の歴史上、完璧な準備をもってして、戦争が引き起こされた例などありはしない。それでもやるのだ。宙族が行動を起こす前に、先手を打たねばならん」
「それでは、ついに始まるのですね……!」
「うむ、数十年に渡って計画された、我々の作戦を始めるぞ。」
「長かったですね。マスター。」
「あぁ、すっかりひげが白くなってしまったが、あれは私がまだ一本の白髪もなかったときのことだ。この惑星ナーロウに降り立ってすぐ、私の無線機にはある通信が入ってきた。」
ギルドマスターは、自身の無線機に録音されているメッセージを再生する。
何度も再生を繰り返したが、電子音は当時と一切変わらない音声を繰り返した。
『墜落したあなた方に、耳寄りなお知らせがあります。以下の座標にこの星を脱出できる宇宙船が存在します。座標はII4-5I4-1K1K』
「降下ポッド、そして宇宙船の管理AIが呼応して、私の降下を感知して、脱出に使える宇宙船の存在を知らせたのだ。不幸にもその場所が宙族の拠点だったが――」
「定期的に観察している偵察隊によると、宇宙港には未だ大量の宇宙船が残されたままだそうです。ベヒーモスの部品取りにも使用していないあたり、あえてエサを残しているのでしょう」
「だろうな。あれは奴らにとっても『保険』だからな」
「保険、ですか」
「宇宙船があれば、拠点全体に無差別な攻撃は行われない。そしていざとなったらそれで脱出するつもりなのだ」
「なるほど」
「しかし、我々が新しく手に入れた武器なら違う。宇宙船を傷つけること無く、宙族だけを排除できる」
「では――」
「そうだ、これよりオペレーション、『星々に向けて』を開始する!」
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