墜落者ギルドに栄光あれ!


 サバンナで生活していれば、どんな自堕落な人間でも早起きが身につく。

 なぜなら、日が昇ると気温も湿度も一気に高くなるからだ。


 水平線のフチから太陽が顔を出すと、暗い青一色だった世界が幻想的な赤紫に染まり、そこからまた薄い青を広げていく。


 青空が現れると、凶悪な気温と湿気が大地を襲う。

 これによって、サバンナで生活する人々は、無理矢理に起こされるのだ。


 僕はそれでも夢の世界にしがみつこうと必死の抵抗を試みていたが、無線機の「チリチリーン」という間抜けなコール音で叩き起こされてしまった。


「うーん、こんな時間に、いったい何事だよ……」


 僕はベッドの枕元に立てていた無線機を手に取り、画面を見る。

 そして、表示されていた文字列を見た僕の喉からは不意に声が上がった。


「えっ」


 無線機の画面に書かれていたのは「支援求む」の文字。

 一体何事かと思い、回線を開く。


 どこかのコロニーが襲撃を受けて、救援を求めているのかと思ったのだ。


<ザザ……ザ>


 しかし、無線から流れてくる内容は僕の予想したものとは大分違った。


<墜落者ギルドの諸君……ついに我々の反抗の時が来た>


「うん、反抗……?」


 無線機のツマミを回すと、やたらクリアな通信が聞こえてくる。

 先日の通信に比べると、やたらに通信強度が高い。

 これはいったい……何事だ?

 

<墜落者ギルドはこれまで、宙族たちの襲撃を甘んじて受け入れてきた>


<しかし、それはもう終わりにしよう――戦いの時が来たのだ>


 無線機のスピーカーから聞こえてきたのは、間違いようもない。

 墜落者ギルドのギルドマスター、ランドさんの肉声だ。


(ランドさん? 戦いってなんだ?)


 こんな通信強度では、確実に宙族たちに傍受ぼうじゅされてしまう。

 だが、続いて無線機から聞こえてくる声で、僕は理解した。


 傍受されても構わない、いやむしろ「聞け」。

 これはそういう内容なのだと。


<我々は惑星ナーロウの廃墟を駆けずりまわり、すみずみまで探索し続けたことで、ようやく宙族と渡り合えるだけの装備を手に入れた>


<もはや、我々は宙族の攻撃を怯えて待つだけの、哀れな獲物ではない>


<我々が手に入れた兵器は、パワーアーマーの装甲を紙のように貫き、無数の暴徒の波が迫ってきても、海を割るようにして押し返す。そういったものだ>


 よく言うよ。

 ランドさんは僕たちを毒ガスの充満する廃墟に送り出して、ただキャベツ集落で帰りを待っていただけじゃないか。


 まるで自分の功績のように語っているが、真実を知る身としては、鼻で笑うしか無い。こういう上役いたなー。


 ついちょっと前の、ブラック企業時代では珍しくもないが、惑星ナーロウでもお会いできると、流石にうんざりする。はぁ。


<宙族と我々の力関係は完全に逆転した。今度は我々が攻める番だ。そして――>


<今度は、宙族どもが我々に怯える番だ>


<墜落者ギルドに栄光あれ!>


 これを最後に、通信は自動的に繰り返された。


「なんだ、思ったよりも早く始まったな……」


 近い将来、墜落者ギルドと宙族が衝突するのは予想していた。


 だが、ほんの一月もしないで状況が動くとは。

 こんなにも早く衝突するとは、流石に予想していなかった。


「まさか宣戦布告をするなんて。不十分な準備のまま、戦いを始めるかもしれないとは思ってたけど……現実になっちゃったな」


 おっと、こうしちゃ居られない。

 さっそく荷物をトレーラーハウスに運び込もう。


 なにせ戦争というものは、膨大な物資と人を必要とする。当然、ギルドは周囲のコロニーに物資や人員をたかり始めるだろう。


 そうなればただでさえ貧乏なニートピアはどん底に叩き落される。

 それを避ける唯一の方法が、持てるものをすべて持って逃げることだ。


 この戦争の間、僕らは住所不定無職となって、やり過ごす。

 自殺みたいな作戦に駆り出されたくないからね。


 なにせ、この無線が攻撃の失敗を約束している。

 奇襲をかければ良いものを、わざわざ宣言するとはアホくさい。


 おそらく、墜落者ギルドには戦いの素人しか居ないのだろう。

 それか、まともな軍人がいたとしても、意見を上げられないか……。


 ま、どちらにせよ、もう手遅れだ。

 こんなお行儀よく戦いを始める必要はない。


 本来なら、だまって毒ガスを満載した列車をぶつけて、中から出てきた宙族を拠点周囲に張り巡らせた散兵線で待ち受けて、すりつぶせばよかったのだ。


 なぜわざわざ相手に組織的抵抗をする猶予を与えるのか。

 これがわからない。


 せっかくお膳立てしたのに、ランドさんが全てを台無しにしてしまった。

 コレではお行儀の悪い事に定評のある宙族には勝てまい。


「となると……もうウチが取れる方法は、アレしかないか。」


 当初の計画通り、ニートピアは独自に動くことにする。

 墜落者ギルドと心中はゴメンだ。


 部屋を出た僕は、ハクとクロ、ギリーさんにすべての荷物をトレーラーに乗せ、北を目指すことを伝える。


 目的地は、以前訪れたあの場所――

 そう、毒の霧に包まれた、惑星ナーロウの工場地帯だ。




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※作者コメント※

サトーによるサイコパス無双、はっじまるよー!

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