よかれと思って
<ガァァァ!>
<ガルルル!!>
「うわー……」
「えげつないね」
光の泡に包まれながら突進してきた宙族たちは、カラテの心得があるようだった。というのも、サイドアームにヌンチャクや棒をもっていたからだ。
「イヤー!」「グワー!!」
だが、カラテの達人であっても、圧倒的なフィジカルの差は覆せない。
ドラゴンは人間のカラテを、その腹筋だけで跳ね返せるのだ。
ヌンチャクは人類のカラテを平均24倍に増強する。
しかし、ドラゴンには通用しない。
人間のカラテはあくまでも人間のものだからだ。
神話的存在であるドラゴンに人間のカラテなど通用するはずもない。
同じく神話的存在であるサムライやニンジャでも無い限り、カラテで戦うことはできないのだ。
その事を理解してなかった宙族の襲撃部隊は、ニートピアの乾いた大地に血潮を染み込ませることとなった。
地面に倒れ伏している宙族の中には、まだ僅かに動いている連中もいるが、放っておけば、絶命するのも時間の問題だろう。
さて、どうしたものか……。
「半分死体の連中が結構残ったね」
「えいってしたら、すぐ倒れたぞー!」
いやぁ、どうみても「えいっ」で済んでないよなぁ……。
ハクとクロのふたりは、ぶん殴った宙族に「ドグシャボキッ」って、とても人間の身体が出すとは思えない音を出させていたからな。
人間打楽器のアンサンブルが奏でられる光景は、だいぶR18Gだったぞ。
「まずは生き残っている連中を治療して、捕虜にしましょう。地面に散らばっている戦利品の回収は、その後で。」
「おいおいサトー、捕虜を置く場所なんて無いよ?」
「ですので、そのままキャラバンに引き取ってもらおうかと。」
「あんたもだいぶ馴染んできたじゃないか」
「あまり嬉しくないですけどね。とにかく治療して回ります」
オッチャンを死の淵から呼び戻した奇跡の薬を、僕は宙族にぶっ刺して回る。
どうせタダみたいなもんだし、これで蘇生すれば、それだけで儲けもんだ。
「うぅー、いでェー……ウデガー!」
「人間には2本の腕があるんです。一本もげたくらい、平気ですよ」
<プスッ>
「ウォォォォーー! ピャー!!」
うんうん、さすが奇跡の薬。効果は抜群だ。
痛みに苦悶していた宙族が、バイブスを上げてパーリィタイムに突入した。
ちょっと人体の神秘を感じさせるポーズで踊っているが、好きにさせておこう。
後は放っておくだけで良い、そのはずなのだが……。
治療が受けた宙族全員が、陸に打ち上げられたエビのように仰け反ってピチピチ跳ねている。だいぶ正気が削られる光景だ。
治療を受けた本人より、これを見せられる治療者に副作用のダメージが来るな。
「サトーさん!! 無事でしたか!!」
「そちら、キャラバンも無事なようで何よりです、戦いは終わりましたよ」
戦いの巻き添えを避けるため、隠れていたキャラバンが帰ってきた。
同じ墜落者ギルド所属なんだから、一緒に戦ってほしいという気持ちもあったが、ギルドとしてはキャラバン隊を維持することのほうが重要なんだろう。
こればっかりは、僕がワガママを言っても仕方がない。
「命の恩人の危機に隠れるだけとは……かたじけねぇ!」
だが、オッチャンもこれには思うところがあるようだった。
その気持ちだけでも有り難い。
「そうだ、オッチャンに引き取ってほしいものがあるんです」
「おっ戦いの戦利品だね? 戦いに参加できなかったぶん、サービスするぜ!」
「さっきの以上にサービスされたら、何も残らないんじゃないですか?」
「それはそれよ。 で、何を引きとりゃ良いんだ?」
「あそこでビチビチ跳ねているイキのいい宙族の捕虜です。彼らを売りたいです。尋問して情報を集めるなり、謎の機械を回す奴隷にするなり、ご自由にどうぞ」
「おぉ、ひぃ、ふぅ、全部で10人ばかしか……さすがにこれに見合う支払いは、今の手持ちでは難しいですぜ」
「では、こちらからのサービスということで、ツケではいかがでしょう?」
「さすが兄弟、そりゃ助かるぜ!」
「こちらも、オッチャンが持ってきたスクラップで助かったようなものなので、ここはまぁ、お互い様ということにしましょう」
「おぉ……サトーの旦那はまるでこのナーロウに舞い降りた天使だ!! 墜落者ギルドは、もっと旦那に感謝するべきですな!」
「僕は新参者なので、そんな恐れ多いことは」
「その謙虚さも素晴らしい! まさに聖人だ!」
何か言えば僕のことを褒めるって感じになっちゃってるな。
僕が使った薬は、まだオッチャンの精神に強い影響を及ぼしているようだ。
ということは、この奴隷も従順さには定評がある、ということだ。
きっと彼らは墜落者ギルドのお役に立ってくれるだろう。穴をほったり壁を作ったりに捕虜を役立ててくれれば、ギルドの発展の役に立つ。
うん、また良いことをしてしまったな!
僕が何の気なしに送り出した、宙族の捕虜たち。しかし、彼らが持っていた情報が、この惑星ナーロウの情勢に大きな変化を与えることになる。
この時の僕は、まだその事に気がついていなかった。
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