お医者さんは居ませんか(色んな意味で)
「オッチャン! しっかりしろ!!」
「ギギギ……」
「いったい何の騒ぎだい?」
「あ、ギリーさん! キャラバンのオッチャンが急に苦しみだして……わぁ。カニみたいに泡を吹いちゃってますね」
「あんたね……毒のあるもんを食わしたんじゃないのかい」
「いや、僕も食べてますから……これは食中毒じゃなくて、アレルギーです!」
「アレルギー? なんだいそれ」
「えーっと、他の人が食べても平気なものが、毒になる病気です」
「あぁ、動物の乳がダメな奴はたまにいるね……それと似たようなやつかい」
「それです、それ。」
「どうすんだい? ビクンビクンしてるけど」
「さすがにこのままじゃ不味いですよね。」
「当たり前だろ。ニートピアで出された食べ物を食べたら、悶絶して死んだ。そんなことがよそに知れたら、キャラバンが寄り付かなくなるよ」
「うーん、仕方がない……これを使いますか」
僕はお菓子の箱からしまっていた注射器を取り出した。
ついさっき作ったばかりの、できたてホヤホヤの先端医薬品だ。
「なんだいそりゃ?」
「いまさっきフィールドラボで作った先端医薬品です。以前作ったものよりも強力なので、致命的なアレルギーの発作にも効果があるはずです」
「それ、大丈夫なのかね……」
「使わなければ、確実な死が待っています。命が救われるかどうかは不確かでも、ここはせめてもの治療を試しましょう」
「それ、ただの人体実験……」
「ぷすっとな」<ブスッ!>
「やっちまったよ!?」
「グッ……ウォォォ!!!」
「おいおい、なんか様子がおかしいよ!?」
「ん~? まちがったかな?」
「キ……キモチイイ!!! ウォォォ!!」
「「「うわ、キモッ!」」」
オッチャンは陸に上がった魚みたいに飛び跳ねる。「キモチイイ」を連呼しながら腹を揺らして踊る中年男性の姿は悪夢の具現化のようだ。
医学の発展に犠牲はつきものとはいえ、こんな姿は見たくなかった。
「オンロロロロローン!!」
「……おぉ、顔色が良くなってきましたよ」
「それ以外は最悪だけどね」
反応は激しいが、クスリの効果はしっかりと出ているみたいだ。
赤黒い紫色になっていた顔色は薄桃色になり、呼吸と脈拍も落ち着いてきた。
しばらくすると、オッチャンは意識を取り戻したようだ。
鼻から鼻水と一緒にソバが垂れているが、まぁ気にしないことにする。
「オッチャン、気が付きましたか!」
「俺は……うぐぐ……いったいどうなっていたんだ?」
「すみません。オッチャンの体質にソバが合わなくなかったようで……ソバアレルギーで重度のショック症状を発症してたんですよ」
「ソバ・アレルギー?」
「いやぁ、治療が間に合って良かった」
「サトーの兄ちゃん……あんたってやつは――いや、あなたが神か!!」
「へ?」
「その死んだ魚のような目は、この世に生きるすべての不幸なものを見定める目。その貧弱な体は、原罪を償う痛みの現れ。俺にはわかってたぜ――」
「はぁ。」
「いや、良いんだ! わかってる! アンタがこの世に降り立った天使で、神で、仏様なのはわかってる。ああ俺はなんてアホなんだ! 目の前のイエス様に気が付かなかったなんて!!」
(んー、だいぶ意識が混濁してるなぁ)
~~~~~~~~
説明しよう!
サトーが投与した先端医薬品には、多種多様な薬効成分が含まれている。
ケガや病気はもとより、キャラバンのオッチャンが陥ったような、アレルギーで発生するショック症状にも効果が高い!!
しかし、先端医薬品の薬効は、<バキューン>な草の成分を多く含んでいる。
すなわち、治療成分には非常に強い幻覚作用もあるのだ!
一度でも使えば、この世のものとは思えない
そのパリピ効果は、なんと一般的なパーティドラッグの3000倍!!
これにより、オッサンには目の前のサトーがこの世のバイブスをぶちアゲにする救世主、もはや尊すぎでキャパすぎ。サトーしか勝たん。となっているのだ!
~~~~~~~~
「あぁ、サトー様ぁ……!!!!」
「なんかちょっと……別の世界に意識が飛んでないかい?」
「ちょっとばかし副作用が強かったですね」
これは僕たちで使うのは止めておこう。
目の前の相手を救世主と思い込む幻覚作用があるようだ。
いや、まてよ?
フーム……もしかしたら、だけど。大怪我をした捕虜に使って、仲間にひきこんだりするのに使えるんじゃないか?
「この先端医薬品、どうやら強い麻酔の副作用で、目覚めたとき、目の前の相手に対して心酔してしまうようですね」
「なんつーモンを作ってるんだよ、サトー。」
「こんな副作用がでるなんて、よもや思いませんでしたので……」
「……ま、治ったから良かったとしようか。死人が出るよかマシだ。」
「そうですね、後は、やることをやっておきましょうか」
「うん?」
「おっちゃん、買い物するから、値引きよろしくね!」
「えぇ!! もちろんですぅぅぅぅぅ、サトー様ぁぁぁぁ!!」
(さ、最悪だコイツ!!)
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