お買い物とバリケード

「これとそれと……あとアレも!」


 僕の作った薬で一命をとりとめたオッチャンは、とってもフレンドリーになった。

 そのおかげもあって売買交渉はニートピアにとって非常に有利に進んだ。


 オッチャンの「ご厚意」により、タレットに製作に必要としていたスクラップはもちろん、様々な武器弾薬もおまけとして買い込むことができたのだ。やったね!


「お買い上げありがとうございます! まだ欲しいものはございませんか!」


「うーんと、じゃあその防弾チョッキもください!」

「はい、喜んでー!!!」


「あ、ハクとクロにお菓子も買ってあげようかな。その砂糖菓子もください」

「はい合点!」


 ――とまぁ、こんな感じだ。

 欲しいと指差せば、それをゆずってくれる感じだった。



「良い買い物が出来ましたね、ギリーさん」

「ひどいものを見たけどね」


 たくさんの資材と物資を抱えた僕たちは、荷物をひとまず宿舎の中に下ろした。


 商品の支払いは例のアレ――白い<バキューン>なレンガだけですんだので、スクラップは目減りしてない。これなら問題なく「アレ」を作れるな。


「資材も全て集まりましたし、さっそく作業に取りかかりましょう!」

「嫌な予感しかしないけど……今度は何をつくるんだい?」

「防衛設備です。詳細についてはお楽しみってことで――ポチ、よろしく!」

「プイ!」


 ポチは資材の山をり分け、必要なものを取り出して山をつくると、いつものように手の先から火花をだして作業を始めた。


「おっと……相変わらず目茶苦茶眩しいね」

「ギリーさん、どうぞ。」

「……サングラス? アンタ、こんなものまで買ったのかい」

「ええ。モノのついでに」

「別に悪い買い物じゃないから、良いけどね」


<バチバチバチッ!!>


 おぉ。このサングラスいい具合だな。

 ポチの手元を見ていても、あまり眩しくないぞ。


 ポチはガラクタを溶接してゴツめの三脚を組み立てると、その上に銃器をマウントしてトリガー部分を組立てていった。


「これは……機関銃座かい? ちょっと背が低すぎるんじゃないかね……あれ? これ、手で握る所も、引き金もないじゃないか」


「その通りです。これは人間が銃を撃つものではないので」


「人間が撃つものじゃないって? でも引き金すら無いんじゃ、人間はもちろん、ゴブリンだって使いようが無いんじゃ――」


「はい、この台座についた銃は、この銃自身が狙って撃ちます。」

「えぇ……? 大丈夫なのかいそれ?」

「もちろん大丈夫です、設計上、ちゃんと味方を撃たないようになってます」

「サトーの『ちゃんと』だから不安なんだけどねぇ……」


 むむむ、我ながら信用がないなぁ。


 だけど不安はもっともだ。言葉だけでなく、実際に見せないとな。タレットが完成したら、実際どう動くのか。実演してみるとしよう。


「作業は順調そうだね」


「プイ!」


<バチバチバチ!>


「おぉ、だいぶ形になってきた……」 


 ポチは三脚に乗った機銃の上部分、本来ならスコープが搭載される部分に、監視カメラのオバケみたいなのを載せた。


 ちょっとサイズ感がおかしいけど、スクラップを利用すればこんなものか。

 機銃の上にある、この巨大なカメラが、タレットの頭脳にして目だ。


 このカメラにはレベルの低いAIが搭載されている。

 AIは視界に入った存在を敵か味方か判断して射撃する機能がある。

 つまり、無人の警備員というわけだ。


 AIの性能はあまり高くないので、乱戦になると誤射も発生してしまう。

 だが、基本的には問題ないはずだ。


「キューイ!」


「よしよし、これで完成だね。ギリーさん、これがタレットという機械です。敵が現れた時、その姿を捕捉して、自動で迎撃してくれます」


「へぇ、自動ってことは……留守番役はもうコイツで良いってことかい?」


「タレットは自分で動けるわけじゃないので、限界もありますけどね。」


「なんだい。地面に根っこを張った見張りってことかい?」


「そうですね。それでも、何もないよりはずっとマシなはずです」


「で、そのセンサーとやらはどう動くんだい?」


「ちょっとやってみますか」


 僕はタレットのIFF(敵味方識別装置)の設定を調整し、薬をいれていた空き箱をほうり投げた。すると――


<タタン!>


 短い銃声がして、空中で空き箱が引き裂かれ、バラバラになった紙片が乾いた土の上に散らばった。


「うん、正常に動いてますね」

「こいつはすごいね。大した反射神経だ」


「プイ!」


「タレットは近づかれると弱いので、あとはバリケードと組み合わせればいいですね。そうすれば守りは万全。多少の敵が来たって跳ね返せます」


「最初は何もない所だったんだけどねぇ……どうでもいいけど、戦闘力や防衛力ばっかり上がってないかい?」


「確かに……」

「プーイ」


「ま、悪い事じゃないけどね」


「今のニートピアなら、宙族が1ダースやって来たとしても、びくともしないでしょうからね。ポチにタレット、そして榴弾砲――」


<ビー! ビー!>


 その時だった。


 ズボンのポケットに突っ込んでいる無線機から、警告音が鳴り響いた。

 本能的な危機感をかき立てる、不快な電子音。……これは、一体何だ?


 無線機を取り出してみると、無線機に付属しているごく小さな画面に、さきほどの警告の具体的な内容が書かれていた。


 無線機の画面には、僕にとって、あまり嬉しくない文字列が並んでいる。


「襲撃……!?」

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