オッチャン再び

「いよ~~~ぅ! 元気してたか、サトーの兄ちゃん!」

「おかげさまで、まだ生きてます」


 数頭のラクダと護衛を引き連れ、陽気に声を賭けてきたのは、間違いなく僕にあの<バキューン>な種を授けたオッチャンだった。


 しかしまぁ、キャラバンの様子は以前と様変わりしているな。


「ほほう……儲けてますなぁ」


「わかるかい? いまギルドは色々と入り用な物が多くてね、俺らみたいなキャラバンでも稼ぎ時なのさ」


 だからか。おっちゃんのキャラバンの護衛は、西部劇さながらの格好だったのが、第二次大戦の兵士くらいにアップグレードされている。


 1ヶ月強でここまで変わるとは、よほど儲けたのだろう。


「そうそう、オッチャンから預かったアレですが、今まさに収穫中なんですよ」


「へぇ……そいつぁ結構なことだ。ならこっちも誠意を見せないといけないな? 欲しいもんがあったら、何なりと言いな」


「それなら欲しい物があるんですが……センサーモジュールってあります? 監視カメラのスクラップとか、そう言うのでもいいんですが」


「運がいいな。つい先日在庫を入れたばっかりなんだ。他の連中に買われる前に俺が来てよかったな。ほれ、商品のリストだ」


「ありがとうございます。ふむふむ……」


 おっちゃんからもらったリストには、多種多様な電子部品が載っている。

 センサーモジュールもカメラも有るな。


 グレードは民生品だけど、タレットに使う分には問題ないな。


 あとは銃や剣なんかの武器弾薬もあるな。


 ボルトアクション式のライフルや、サブマシンガンもラインナップに並んでいるな。武器の品揃えも良くなっている。


 む、この売約済みで消されてるのはなんだろう……?


「このリストの売約済みってのはなんです?」

「それかい?化学防護服だよ。最近ギルドはこの手の装備を集めててね。入用だったらすこし融通するが、どうする?」

「あー……うちは住人分あるんで、大丈夫です」


「おや、兄さんはすでに買ってたかい。いったいどういう風の吹き回しだい」


「買ったんじゃなくて、墜落者ギルドの人たちにもらったんですよ。汚染地帯まで行く用事がありましてね」


「ほう? ……じゃぁ墜落者ギルドの売れ筋になるってことかね?」

「――かもしれませんね、確かなことはいえませんが」

「そいつぁ良いことを聞いた!」


 オッチャンはうんうんとうなずくと、にたりと笑った。

 商機を見出したんだろうな。いい性格してるわ。


「それで、何を買うね?」

「そうですねぇ~……」


 前回に比べると、リストの在庫はなかなか魅力的だ。

 オッチャンの景気も良くなって何よりだが、かえって困っちゃう。


 食料品もなかなか……ん!


「この『メンツユ』ってのは、まさかあの『メンツユ』ですか?!」


「お、さすがサトーの兄ちゃん、お目が高い。そう、その『メンツユ』だぜ」


 ――メンツユとは何か!!


 それは僕の生物学的ルーツである、『ニッポンジン』の食文化の根源に存在する調味料だ。生命の起源がウイルスや細菌なら、ニッポンジンの食文化の起源はこの『メンツユ』と『アジモト』と言われている。


 それだけ貴重な食材をこのオッチャンが持っているなんて……!


 このメンツユは非常に貴重だ。

 そのため、『隠し味』としてわずかにしか使用できない。


 しかし、ダイミョウ、オダイジンといった、ニッポンジンの支配階級は、己の権力と財産を誇示するため、この『メンツユ』をストレートで使用し、完全オーガニックな遺伝子組換えでないソバ・ヌードルを楽しんだという。


 しかし、アジモトやメンツユはその便利さゆえに、いつしか料理文化を破壊する存在とされ、1000年以上前にメンツユ禁止法が制定された。

 現代では医療用メンツユを除いて、製造と所持は完全に禁止されている。

 

 それがこんな辺境惑星で手に入るなんて……! 


 これはもう運命といっても良いだろう。

 ぜひとも手に入れなくては。


「オッチャン、まずはこの『メンツユ』それと――センサーモジュールとカメラのスクラップをくれ」


「へへへ……サトーの兄ちゃんなら、きっとこの『メンツユ』に興味を示すと思ったぜ。こいつはロハにしておくぜ。そのかわり――」


 オッチャンは視線を左右に泳がせると、サラサラとした感触の、種の詰まった袋を俺の手に握らせた。ほうほう……。


「そう言えば収穫も一段落つきましたし、畑を拡張するときかなって」

「そうかい……そりゃぁ何よりだ」


「収穫した品をとってきますので、しばしお待ちを」

「おぉ! いくらでも待つぞ、友よ!」


 そうだ、収穫した<バキューン>草は、成分をフィールドラボで精製してから、オッチャンに渡すとしよう。


 高純度のブツにすれば、草よりかさばらない。

 そのほうが荷物を運ぶオッチャンも助かるだろうしな。よし!

 


 僕が作物を取りに行くと、そこでは僕の代わりにポチが石臼いしうすを回していた。その巨体で明らかにサイズ違いの石臼を回している格好は、ちょっとかわいい。


「ポチ、僕の代わりに粉きをやってくれたの?」

「キュイ!」


 ポチの前には白い粉が詰められた袋がある。

 もうソバ粉にしてくれたのか! さすがポチだ。


「ありったけのソバの実を粉にしたんだ?」

「キュイ!」

「もしかしてだけど……ポチって、ソバ・ヌードルも作れたりしない」

「プイプ~イ!」

「僕が追加したマニュピレーターなら余裕? マジ!?」


 ……そうだ! せっかく『メンツユ』が手に入るんだ。


 おっちゃんにソバをごちそうしてあげよう!



※作者コメント※

医療用メンツユってなんだよ!?

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