蕎麦


 オークたちから榴弾砲を譲り受け、一ヶ月経った。


 現在の榴弾砲はというと……ニートピアの広場に鎮座して、その砲口は天空をにらんでいる。


 ポチが搭載するには、この大砲はちょっと重すぎる。なのでニートピアの中央に置かれるだけとなっていた。

 まぁ、いざ戦いともなれば火を吹くだろうが、今のところその予定はない。


 そして、遺伝子操作されていると思しき謎作物は、この一ヶ月で花を咲かせ、実をつけている。おイモもピーナッツも、蕎麦も収穫できるようになっていた。


 ――そして……あの<バキューン>な草も。


 あの草をフィールドラボで精製すれば、ただの薬草をつかったものよりも、高い効果をもつ医薬品が作れそうだけど……どうしたもんかな。


 依存性のある医薬品が出来上がっても困るし、それは止めとくか。

 ま、ともかく収穫だな。


 ニートピアの中央に置かれた榴弾砲の横を通り抜け、僕は畑に向かう。


 つい先々週まで白い花を咲かせていた蕎麦は、それを黒い実に変えている。

 これが蕎麦の実というやつか。


「さて、早速収穫しようかー」

「はいですの!」

「まかせろー!」


 このニートピアでまともに農業ができるのはハクとクロだけだ。


 農業の知識と技能がサッパリの僕が収穫しようとしても、せっかく成長した作物を水の泡にして台無しにする事しかできない。


 なので僕は二人のサポートに回る。

 具体的に何をするのかと言うと――収穫を倉庫に運ぶだけだ。

 今は何もすることがない。悲しい。


 ハクとクロはサソリの甲殻から削り出したナイフを使い、蕎麦の茎を根の方から切る。そして切った蕎麦を束ねると、大きな袋を使い、その中に叩きつける。


「そいやー!」

<バサッ! バサッ!>


「二人共、それは何をしてるの?」

「大きな袋に叩きつけて、実を落としてるんですのよ。蕎麦の実はポロポロ落ちやすいから、こうするだけで実が取れちゃうんですの」

「へー……」


 確かに言われた通りだ。袋の底に蕎麦の黒い実が集まっていく。ドラゴンとグリフォンに作物の収穫方法を教えてもらうってのも中々新鮮な体験だな。


「これでお蕎麦が作れるんだ?」


「いえ、全然ですわね。この後干した後はゴミや石を取り除いて、実から殻を取り除くアレやらコレやらの作業が山程ありますわ」


「農業って面倒くさいんだなぁ……」

「お蕎麦は日持ちしますけど、食べられるようにするまでが面倒ですわね」


「イモは楽だからなー!」

「掘り起こして焼けばすみますし、一月は持ちますものねぇ」


「むむむ……ひょっとして蕎麦って、作物としては不人気?」


「そうですわね……何ぶん、食べられるようにするまでが面倒ですので」

「マメとかイモなら、さっさと食えるからなー!」


 むーん。言われてみればそれもそうか。

 おイモと比べちゃうと、蕎麦にあんまり人気がないのがわかる。


 そうだ……!

 こんな時、ポチなら! ポチなら何とかしてくれるはず!


「ポチ、ヘールプ~ッ!!」

<キキーッ!>

「プイ!」


 ニートピアに響いた僕の叫び声を聞きつけたポチは、甲高い急ブレーキの音を立て、僕の横に止まった。はやぁい!


「ポチ……ちょっとしたお願いがあるんだけど」

「プ~イ?」


「お蕎麦を今すぐ粉にして食べられるように出来る機械。そんな都合のいい道具はございませんかね~?」


「プイ!? キュ、キュー!」

「あるにはある……? ならポチ様、それをこの私めに!」

「キュ~……」


 何か気が進まんなぁ、ってなかんじで、6本の足を交互に前に動かして、ポチはとあるモノの前まで進む。


 ふむ?


 ポチの行く手には石の塊があった。

 一体何をするつもりだろう。


<チュイーン! バリバリバリ!>


 ポチが火花と石の破片を飛び散らした後に出来上がっていたモノは、短い円柱の形をした石の塊が、ふたつ積み重なっている石の道具だ。


 上の石には短い取っ手があり、回せるようになっている。そして、その石の中心には穴があって、すり潰したいものを注ぎ込むようになっていた。


 ……これは、間違いない。――石臼だ。

 昔話でしか見たことがない石臼を実際に見た僕は、何か少し感動してしまった。


「これでスリスリして、すりおろせと?」

「プイ!」


 まさかこんな古代の道具が出てくるとは。

 しかしこの惑星ナーロウに、電気モーターを使った脱穀機なんてあるわけ無いか。これを使うしかあるまい。


「ふたりとも、収穫した蕎麦をもらっていいですか?」

「お、石臼じゃーん!」

「もう挽いちゃうんですの……? サトーさんがしたいなら、良いですけど」

「うん! 一刻も早くソバが食いたいんだ!」


 僕はここ最近、文明の味に飢えている。


 なにせ干し肉、マメ、イモ、といった、THE固形物。

 簡単な食事が続いているからね。


 そろそろ文明の香りがする、文化的なものが食べたい。

 この蕎麦から作られるソバ・ヌードル、麺類は唯一の希望……救済なのだ!


<ゴリゴリゴリゴリ……>


 僕は一心不乱に蕎麦の黒い粒を石臼の穴に注ぎ込むと、石を回してすりつぶし、粉に変えていく。


 黙々と作業していると、ふとギリーさんがよってきて声をかけてきた。

 おや、なんだろう?


「サトー、そのままで聞いとくれ、ちょいと良いかい?」

「なんです?」


<ゴリゴリゴリゴリ……>


「ホントに手を止めないやつがあるかい」

「何かクセになるんですよね」


「……まぁいいや、以前うちに来たキャラバンの連中がいただろ? そいつらがまた来たんだよ。ま。定期便ってやつだね」


「おぉ! そいつはタイムリーですね! ぜひ拠点に通ししてください!」


 なんていいタイミングだ!

 今のニートピアは懐が暖かい。


 <バキューン>な草が収穫できたところだし、つい先月、ブーブーボゥイを襲った宙族から奪ったスクラップも豊富にある。


 ニートピアでいま必要とされているのは、タレットに使うセンサーモジュールだが、これはまだ入手出来ていない。


 よし、キャラバンが持ってきた在庫をチェックしてみるか!

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