宙賊サイド
「武器庫のカギ、ですか?」
「ウム……こっちに来イ」
バンさんは僕に大きなカギを握らせると、そのままブーブーボゥイの拠点の中央にあったガレージに連れて行った。
「開けてみロ」
「はい」
僕はバンさんの真意を訝しみながらも、言われたとおりにする。
ガレージのドアの扉は鎖でもって封印されている。幾重にも巻かれた鎖の中心を留めているのは、鉄の塊としか形容できない頑丈な錠前だ。
僕は手に持ったカギをその錠前の穴に差し込んで回す。
カチリと音を立てて錠前が傾く。
すると、緊張を解かれた鎖が扉をこすりながら地面に崩れ落ちた。
鎖の封印が解かれても、ガレージはその重厚な扉で僕の侵入を拒んでいる。
バンさんがその巨体を使って扉を力いっぱい引くと、その中にあったのは――
「これは……大砲?」
入り口から差し込む陽光に照らし出され、長い鼻先の上部を薄黄色に光らせていたのは、近代的なフォルムのバカでっかい大砲だった。
僕の視界に重なるMRの表示では「LeFH200mm榴弾砲」とある。
表示されている解説を見ると……連邦の植民地海兵隊が使用する榴弾砲らしい。
オークたちは本格的な大砲まで持っていたのか……。
これが宙賊たちに奪われなくてよかった。
でも、これを見せたってことは?
「サトー、こいつを持ってケ。」
「この大砲を……?」
「次の襲撃がきたら、俺たちはこれを守れなイ。お前が使エ」
えぇ~?
いや、守れないってのは……それはそうだろうけど、こんな大砲を持ち帰っちゃったら、ニートピアが立派な軍事基地になっちゃうんだけど?!
アカン! そんなことになったら、絶対宙賊に狙われる!!
ニートピア後方地域化の夢がガラガラと音を立てて崩れてくぅ……!
「コレを宙賊に持っていかれるよりはマシ、ダ。」
うーん、悩ましい。
宙賊にもっていかれると、コレの弾がうちに飛んでくるわけだしなぁ。
しゃーない、持って帰るしか無いかぁ……。
すくなくとも、このままよりは、ウチにあった方が安全だもんな。
トレーラーハウスをニートピアに持っていったら、回収するとしよう。
「わ、わかりました……いただきます」
「ウム。頼んだゾ」
・
・
・
◆◆◆
サトーがブーブーボゥイの拠点から大砲を持ち帰った数日の後。
宙賊の拠点では珍しく部下を叱責をするカシラの姿があった。
「――馬鹿者! それで報告をするためだけに帰ったのか!」
「も、申し訳ありません。何ぶん手持ちの装備も乏しく……」
「貴重な車両を4台失って、それだけではないか。」
「は、はい……」
「お前たちは、自分たちの価値をわかっているのか? なぜお前たちが銃を握れる? なぜお前たちが奪う立場にいれるとおもっているのだ?」
「カシラが我々が戦えると信じているからです」
「そうだ。ならばかくあれば良いだけだ。失敗した、ダメでした。ただそれだけの言葉を口にするだけなら、物乞いと変わらん」
「はい……ですが、敵は戦車を保持しておりまして、その――……」
「出来ませんでは良心がない。」
「はい、必ずや。どんな手段を取ってでも」
「よろしい。期待している」
「ハッ!!」
かつての癖で敬礼した宇宙海兵隊上がりの宙賊は、慌ただしく彼の部屋を後にした。カシラはその後姿を見よう振り返りもしなかった。
ただ、壁一面がガラス張りとなった部屋の窓から、眼下の世界を見下ろすだけだった。彼の視線の先にあったのは、うずくまった鋼鉄の怪物――
「キングベヒーモス」だ。
「イゴール。あの怪物が装備している兵器の稼働率は?」
「60%というところですな。腹八分にも遠い有様で、ピィピィ泣いております」
「仕方がない、か。」
「すべての武装は必要はない。主砲塔の280ミリ砲が動けばそれで良い。装備をいくつか潰しても構わん、とにかく主砲を復活させろ」
「そりゃぁまるで、タコが自分の足を食うようですな。足を全部なくしたタコは、果たして自分でエサをとれるのですかな」
「……近接防御火器、短距離砲が使えなくなるだろうが、それで構わん。カスケットを装備させた奴らを立たせ、そいつらに護衛させれば良い」
「それは名案ですな! いっそのこと、砲塔をとっぱらって、代わりにやつらを穴にハメこんでみますか」
「道化のお前が名軍師に思えてくるようでは、後が無いな」
「へぇ。あっしは常に前しか見えませんで。背中が曲がってると、寝違えずに寝ることが難しいんでございますよ」
「……そういえば、墜落者ギルドに送り込んだ、『草』の報告はどうだ」
「へぇ。それが噂によりますと……どうもギルドの連中は、防護服を買い集めてるとか。何十着も集めているようでございますよ」
「何、防護服を……? いったい何をするつもりだ?」
「
「考えられるのは……工場地帯を探索するつもりか? もっと詳しい情報が必要だな。『草』をキャベツ集落も含めて各地を回らせて情報を集めさせろ。もし必要ならば、
「へぇ、確かに承知いたしました。」
「気取られるなよ」
「それはもう……畑に雑草が紛れ込むのはつきものですからな。お任せください」
◆◆◆
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