スクラップを集めに


「うん、まぁこんなもんで良いかな?」


 トレーラーハウスの設計をした後、僕はもう一つ、大事なモノを設計をした。

 設計台の上でくるくると回っている3Dモデルは、四脚の台座の上にマシンガンが乗っている。


 これは「オートタレット」という機械だ。


 オートタレットは敵を補足すると自動的に発砲する自動砲台で、敵対的な人間を探知するセンサーを装備している。包丁を持った元社員がやってくるブラック企業の玄関には、大抵10数台は置いてあるものだ。


 文明社会ではごくありふれたホームディフェンス用品で、中学校の工作の事業では、テーブルタップ電源と一緒に、9ミリピストルを搭載したオートタレットを作ったっけ。


 良い文明の条件とは、全ての人間が、お互いを抹殺できる武器で武装した文明だとは、よく言ったものだ。


 人はお互い棍棒を持たないと無礼になる。


 SNSが流行っていた3000年くらい前は、ネット回線を通して悪口が飛び交い、毎日のようにケンカが起きて、人々の心は腐敗しきっていたという。


 それもこれも、相手がそう簡単に暴力をふるわない事に人々が慣れてしまったから。暴力と疎遠になったことで、人々は他人の痛みに鈍感になり、過度に暴力的になってしまったのだ。


 何と皮肉なことだろう。


 そういった意味では、この惑星ナーロウは倫理、文化の面において、かなり文明的な世界と言える。礼儀正しくなければぶっ殺されるからだ。


 電気がないことを除けば、ほとんど文明世界と変わりがないかもしれない。



※作者注※

 サトーはサイコパスです。実際、こんな考えをしているサトーは、この作品中の文明世界でも、完全な異常者として扱われます。ご注意ください。




「タレットを設計したは良いけど、センサーモジュールが無いなぁ。」


「上に乗せるマシンガンは、以前、ゴブリンたちから奪った重火器ででっちあげられる。だけど、タレットの目に当たる部分は、流石にどうしようもないな……」


「よし、なければ取りに行くしかないか!」


 僕は設計台と食用加工機が並んだ母屋を出て、ポチを探す。

 ポチは戦車の腕に桶を持ち、畑の作物に水をやっているところだった。


 お、種から芽が出て、ちょっと育ってる。植物も気持ち成長が早いな。きっとこれも改造されてるんだろうな。


「やぁポチ。作物の様子はどうだい?」

「プイプイ、キュー!」

「調子は良いけど、肥料がもっと必要かぁ……考えとくよ」

「キュイ!」


 MRで作物の様子を見ると、詳しく様子がうかがえる。

 ピーナッツと、バカイモ、アレな草も順調だな。うんうん。


 バカイモは多分、バカでも育てられるっていう意味でつけられたイモなんだろうけど、本当に育つのが早い。最初に収穫できそうだな。あとは……アレ?


 キャラバンのおっちゃんからもらった種の袋に、別の作物の種が混じっていたようだ。俺のMRの表示には「蕎麦そば」の表示が浮かんでいる。


(蕎麦……! まさか蕎麦が手に入るなんて!!)


 まさかこの辺境惑星で、なじみ深い名前の食材に出会えると思ってなかった僕はちょっと感動してしまった。……ありがとうオッチャン!!


(蕎麦が収穫できたら、キャラバンのオッチャンが来たときに、蕎麦をごちそうしてあげよう。ふふふ……楽しみだなぁ!)


「キューイ?」

「あ、ごめんごめん。ちょっと考え事してた……っと、せっかくポチがいるんだ、これを渡さないと」


 脚をうまくつかって、体ごと小首をかしげたポチに向けて、僕は作業台で作った設計図をMRを通してポチのメモリーに転送する。


 3Dをデータを受け取ったポチは、バンザイをするみたいに両手を上にした。

 表情が無いぶん、全身をつかって喜びを表現しているのだろう。カワイイ。


「キュイキュイ!」

「喜んでもらえてよかったよ。それで、一応聞くんだけど……今ニートピアにある資源で、この機械を作れそうかい」


「プ~イ……」

「やっぱ難しいかぁ……」

「プイプイ、プーイ」


「うん、ポチの言う通り、タイヤを手に入れないと、トレーラーを作るのは難しいね。どこかに自動車の残骸でもあればいいけど……」


「うーん……」


 惑星の3Dモデルを出して見てみるが、さすがに惑星まるごとの地図では、自動車の残骸だけを見つけるのは難しい。


 工場地帯で探すのも大変だしなぁ……近場にないもんか。ハクとクロ、それにギリーさんはこの辺を旅していたはずだ。彼女たちに近くに自動車の残骸がなかったか、聞いてみるか。



「自動車の残骸、ねぇ……何に使うんだい?」


「今後のことを考えて、オートタレットっていう防衛用の機械や、ポチに引かせる寝床付きのトレーラーがほしいんですよね」


「ふーん……よくわからないけど、防衛用の機械は良いね。遠出するたびにオークを毎度呼びつけるってわけにもいかないからね」


「えぇ。長い時間移動出来るようになれば色々と探索にも都合がいいですし。」


「たしかにね。ただ、残念だけどアタシに心当たりはないね。ハクとクロに空から自動車の残骸を探してもらったらどうだい?」


「なるほど、その手がありましたね! ただ……」


「自動車ってなんだー?」

「自動車ってなんですの?」


 そう、この問題がある。


 ハクとクロに空を飛んで自動車の残骸を探してもらおうにも、彼女たちは自動車が何かわからないからなー。


 いや、これを解決する方法が、ひとつだけあるな。


「……ポチ、空の旅をしてみないか?」

「キュ、キュ~?!」

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