空の旅

「それでは、行ってきますわね!」

「おー!」


 僕は付近の偵察のために、ポチをクロに持たせた。

 ハクだと何か……絶対落としそうだったし。


 バッサと羽根を打ち鳴らし、クロは青い空に向かって舞い上がる。そして、MRを通して僕とリンクしたポチの視界が流れ込んで来た。


「おぉ……これはすごい! VRなんか目じゃないな」


 ポチのセンサーを通じて僕に届けられる、惑星ナーロウの景色。


 眼下に広がる世界はすっかり乾いていて殺風景だが、草木の乏しいサバンナでは、岩が地面に作る、興味深い陰影がはっきりと見える。地上にあるものを探すなら、こちらのほうが好都合だ。


「いいね、これなら思ったよりも早く、自動車の廃墟が見つかるかも」

『キュイ!』


 僕がそう呼びかけるのに対して、ポチは無線で答えてきた。

 僕が飲み込んだチップを通し、ポチから様々なデータが流れ込んでくる。


 ポチッて建築用ロボじゃなかったっけ?

 なんで環境の調査とか……ああ、工場のAIも空気の清浄度とか調べてたか。

 きっと、それと同じような機能に違いない。


「ポチから送られてくるコレは……空気の環境データか。ここらへんはやたらに有機物が多いな。きっとあの工場地帯の影響かな?」

『プイプイプーイ!』


「なるほど……惑星ナーロウの特定の動物の活動が生態系のバランスを崩している……? 普通、動物の活動って良いものなんじゃないの」

『プイ!』


『プイプイ、キュ~。キュキュ!』


「へぇ……毒発電機の汚染物質を生分解しても、高分子化合物マイクロプラスチックになって、自然に残り続ける。これが塵となって空気中に漂うことで雲の生成を抑制する……それでこのサバンナができたってことか。」


『キュイ!』

「はぇー…テラフォーミングって難しいんだなー」


 せっかく人が住める土地にしたっていうのに、自分達でブッ壊してしまうとは。

 なんとも諸行無常感がある。


 ま、それはそうと地上の監視を続けよう。

 何か、まとまって自動車が残されている廃墟がないかな……。


 自動車工場でもあれば最高だけど、レンタカー会社とか、駐車場でもいいぞ!



「ふわぁ~、思った以上にこの辺、何もないなぁ」

『そろそろ戻っていいですの?』

『キュイ!』


 飛び続けていたクロも、流石に帰りたがっている。

 うーん。残念だけど、今回は空振りだったかぁ……。


 ここら一帯のサバンナに、目立つ廃墟はない。

 次はもう少し足を伸ばすか、別の方角を偵察してみるか……。


「ん……あの砂煙はなんだろう」


 もしかしたらオークか? いや、妙だな。

 大地に立ち上っている砂煙は馬がつくるものより大きく、長い。


 ポチが気を利かせて、煙の根本に視覚センサーをズームする。

 すると、そこに写っていたのは――自動車だ!!


 4台の自動車が砂煙を上げて、サバンナを爆走している。


「……まさか、まだ動いてる自動車があるなんて!」

『キュイキュイ!』

「わかってる。二人共、あれを追いかけてくれ」

『わかりましたわ!』


 自動車の残骸を探していたら、稼働する本物を見つけてしまった。

 アレを運用しているのは、いったい何者だろう。


 翼を斜めにしたかとおもうと、クロはゆっくりと旋回して、地面を這って進む自動車の後ろについて、追いすがる。


「もっと情報がほしいな……クロ、砂煙を上げているアレに、もう少し近づくことが出来ないか?」

『やってみますわ!』


 クロの飛行する速度は、ポチの情報によると時速50キロから70キロ。急降下をすれば余裕で時速300キロ以上でるが、水平飛行では自動車の速度にやや勝る程度だ。ゆっくり、しかし確実に近づいていく。


 クロは翼を広げて風を打つと、グッと加速して自動車の一団に食いついた。

 ポチはその機を逃さず、センサーをズームして僕にそいつらの様子を見せた。


「まぁ……やっぱり連中だろうとは思ったよ」

「キュイ!」


 自動車に載っている連中は、間違いなく宙族だろう。


 トゲの生えたフットボール用のプロテクターを着込んでいる墜落者ギルドの住民なんて見たことないからな。わかりやすくて助かる。


 そして、連中が乗っている自動車は、明らかにドライブ用途ではない。

 車両前面には装甲板が追加され、フロントグリルにはトゲトゲの付いたすきみたいなのがついている。アレで轢かれたらミンチより酷いことになるぞ。


 銃を構えたまま、ワゴン車に箱乗りなってサバンナを進んでいる連中は、まっすぐ何処かへ向かっているようだ。


 連中が向かうこの先にあるのは確か……そうかッ!


「この先はオークたちの集落がある。あいつら、ブーブーボゥイのコロニーを狙ってるのか!」

『プイ!』

「どうするんですの、サトーさん?」


 ブーブーボゥイの人たちにガトリングガンを渡したが、あの武器は対人用途に使うもので、装甲化された車両には、流石に通用しないだろう。


 このままではオークたちが危険だ。


「ポチとクロ、二人共いったんニートピアに戻ってきてください。ブーブーボゥイの人たちの救援に向かいます!」

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