とっておきの設計

 せっかく留守番をしてくれたブーブーボゥイの人たちだ。彼らにお土産を渡そうと探していると、ちょうど彼らは帰り支度をしているところだった。


「バンさん!」

「どうしタ? まだ何かあるのカ」


「はい。ぜひこれをお持ちください。ニートピア特産品の『医薬品』です」


「ム……一体どうやってこんなものヲ。かなり良いものダ」


 僕が手渡した医薬品の中身を見たバンさんは、とても驚いた様子だ。この辺境惑星でちゃんとした薬を手に入れるのは僕が思う以上に大変だろうからな……。


「探索で、薬を作るための道具が見つかったんです。それでようやくニートピアの周りにある薬草を精製できるようになりまして」


「なるほド。そのために探索に出掛けたのカ」


「本当の目的は別にあったんですけどね。運良く、ついでに持ち帰ることができました」


「タダでもらって良いのカ?」


「えぇ。その代わりと言ってはなんですが……使ってみて具合がよろしかったら、宣伝をお願いします!」


「ちゃっかりしてるナ。」


「ニートピアの周りには薬に使える植物の生育地があるので、こういった薬をうちの主力商品にしようと思ってるんです」


「良い考えだと思うゾ ナーロウで医者を見つけるのは難しいからナ。拠点にもどったラ、みんなに教えてやろウ」


「ありがとうございます!」


 ふふふ……!

 これが僕の考えた、ニートピア生存戦略のひとつだ。


 ニートピアに、優れた医薬品があると宣伝する。そして、このことによって周囲の人々にニートピアの重要性を認識させ、守らせるという計画だ。


 もし、ニートピアが襲撃を受けたりなんかの危機に面した時、周囲のコロニーが援軍を送ってくれるだろう。


 医薬品製造を始めたもう一つの目的はこれだ。


 メインの目的は特産品を作って、スクラップを稼ぐためだが、もう一つの目的は、ニートピアの安全のためだ。


 なにより「医薬品を作ることに専念してますぅ~!」って言えば、墜落者ギルドも無理に徴兵したりしないだろう。医薬品の供給が止まるわけだからね。


 僕が医者なら軍医として戦闘に連れて行かれるだろうが、薬剤師ならそうはならないだろう。連れてったって何の役にも立たないし。


 ふふ……完璧!

 安全の為なら、何だってしてやるぞ!


 しかし、ニートピアの位置も良かったな。地図上では、宙族の拠点から見ると、ニートピアはやや奥まったところにある。


 もし医薬品の供給をとめようとして、こちらに突出してきても、他のコロニーから打って出た戦力に、側面を突かれることになる。


 少し頭の回る指揮官なら、この状況だけで侵攻を思いとどまるはず。ニートピアが後方基地としての役割を持つというのは、それだけ大きいことなのだ。



「また何かあったラ、呼んでくレ」


「はい!」

「またですのー!」

「またなー!」


 その後、僕たちははお土産を持ったブーブーボゥイの人たちを見送った。

 いやはや、本当に良い人たちだった。


 拠点に傭兵が入ってくると、普通は荒れ果てるもんだとおもうんだけど……。

 ニートピアの中は、何もかもが行き届いていた。


 畑はちゃんと水を撒かれて、しっかりと草むしりがされてる。

 乱雑だったロッカーの中身は整理整頓され、銃と弾薬が分かりやすいようにキレイに並べられて、武器にはオイルまで引かれていた。


 ……傭兵じゃなくて、家政婦さんだったのでは?

 用がなくてもまた留守番を頼もうかな?



 さて、それはそうと次の仕事に取り掛かるとするか。


「よし、ポチに渡す設計図を、設計作業台でつくるとするか」

「キュ~イ?」

「何を作るかって? そりゃ、作ってのお楽しみだよ!」

「プイ!」


「すみません、設計の作業のためにしばらく部屋にこもりますね」


「あいよ、ニートピアの仕事は任しときな。……っても、オーク共のおかげで、やることがなくなっちまったけどね」


「じゃー昼寝するかー!」

「ハク、あなた昼寝ならいつもしてるじゃありませんか」

「ばれた!」


 作業台に取り憑いた僕は、さっそく設計作業を始めた。

 何を作るかはもう決まっているし、アイデアもそろっている。


 なのでやることは手を動かす。ただそれだけだ。

 こうなってると、な酔いなくてが動くので、作業が早く終わるんだよね。


 会社でやっている時は、いちいちチェックなんかの横やりが入ったり。お客さんのふんわりとした要望の反映とか、営業がねじ込んだ無駄な機能盛り込みとか……いろいろ面倒な事が起きて、なかなか作業が進まない。


 こんなサクサク作業ができるのは、学生の時分以来かも。

 イェーイ! 自分のために作るって、最高だね!!!


 僕はホログラムを粘度のようにいじくって、段々と形を作っていく。


「うーん、走破性を考えると、タイヤはそれぞれ独立して動くほうがいいよな」


「内部には寝台と収納スペースを追加して……おっと、ちゃんとトイレも作るか」


「これなら、水用のタンクは2つに分けたほうがいいな。一方は飲用用途、もう一方は雨水を集水して、トイレに使用するタンクにしよう」


「……できた!」


 僕の眼前で、設計の終わった車両がくるくる回っている。


 我ながられする設計だ。


 箱にくっついた、それぞれ可動域が独立した6つの車輪。そして牽引用の接続部分と、通常の車両よりも強化されたサスペンション。


 そう、これはトレーラーハウスの設計図だ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る