ニートピアの特産品

「ニートピアとしては基本、戦いの前面には立ちません。そうですね……表向きは『不介入』で行きます」


「危険な戦いは極力彼らに任せ、僕たちは間接的なバックアップ、物資や技術の支援に回ります」


「そんなことしたら、アンタは墜落者ギルドの連中に置いてかれるんじゃないか。 この星を脱出したくないのかい?」


「いえ、その心配はないです。戦いに参加せずとも、僕は宙族と戦える力をギルドにもたらしたんです。貢献は十分にしています。」


「長年探索を諦めていた工場地帯を探索して、色々持ち帰ったわけですから」


「なるほどね」


「むしろ困っているのは、ギルドマスターとその側近じゃないでしょうか。彼らは自分の命を張って戦わない限り、なかなか尊敬を取り戻せませんから」


「ハハッ! そりゃそうだ。連中の恨みを買ったかもね?」


「遠くの親戚で良かったです」

「ちがいない。」


「宙族と墜落者ギルドの戦いを待ちます。ですけど、しばらくそれは起こらないと思うので、その間はニートピアの特産品、これの準備ですね」


「へぇ、どんなのを作るんだい?」

「それは――」


 僕とギリーさんが井戸端で会話していると、上空からバサッと羽ばたきの音が聞こえてくる。どうやら戻ってきたようだ。


「サトー! かえったぞー!」

「いっぱい取ってきましたわ!」


<ズゥゥン……ッ!>


 ドラゴンとグリフォン、獣の姿を取った彼女たちが舞い降りた振動で、ビリビリと井戸の囲いが震える。


「おかえり、おぉ、状態もよさそうだ二人共ありがとう!!」


「フフフ、礼には及ばずですわ!」


 ハクとクロが両手にわんさと持っていたのは、とある花だ。

 夏の空みたいな青い花弁を持ち、柑橘かんきつに似た芳醇な香りを放つ植物。


「へぇ……これが『キュア・ブルーム』?」

「だぞー! うちだと『いやし草』って呼んでた!」

「うちだと『なおし草』ってよんでたね」


「なんかビミョーに効き目に不安を感じる名前ですね……」


「そりゃしょうがない。うまく使わないと、自然と治ったのか、それとも草の効果だったのか……区別がつかないくらいだからね。」

「うーんこの……」


「見た感じだと、薬効はあるみたいですね」

「そうなのかい? まぁ、サトーが言うなら確かなんだろうけどね」


 MRで成分分析をしてみると花弁には止血剤、降圧剤と類似した成分が含まれている。ぶっちゃけ毒草に片足突っ込んでるが、うまく使えば強力な薬になりそうだ。


「これを使って『医薬品』を作るんだね?」

「はい。あれはそのための機械ですから」


 僕が工場で組み立てて持ち帰ったフィールドラボは、医科大学や研究機関なんかで使われる、実験用の機械だ。


 素材の化学分析と調合ができ、サンプルを混ぜ合わせ、何かこう……良い感じにしてくれる。そうMRの説明には書いてある。


 ぶっちゃけ使ったこと無いから、言いなりになって使うしか無い。

 なにせ、僕は化学者でもなんでもない。わかるはずないからな!


「あんた医者でもないのに、薬作って大丈夫なのかねぇ……」

「作るのは僕じゃなくてこの機械なので、まあ大丈夫ですよ、多分。」


 僕はヒールブルームの花弁、そしてアロエをサンプルとして機械に投入する。


 サンプルの入ったラボは「ヴォヴォッ!ヴォン!」と喘ぎ声みたいなのを上げる。うわ、シンプルキモい。


「なんかゲロはきそうな声だしてるぞー?」

「お薬を一気にのみこむからですわ」


「初めて使うから、これが異常なのか正常なのかわからないな……」


 とくに警告みたいなのは出てない。

 まあ大丈夫、ということにして進めよう。


 サンプルを投入した僕は、ラボを操作する。

 しかし、何がなんだかよくわからない。


 基剤と主薬を選択、パラパラ何とかアミンとかピロピロフェミンとか言われても、わかるはずがない。MRの解説も難しすぎてよくわからない。


「うーん、これは思ったより難航しそうだな……ポチ、これって薬効から逆引きして作るものを選べたり出来ない?」

「プイ!」


 ダメ元でポチに聞いてみると、何やら機械の設定をいじってくれた。

 すると、製造のメニューが一新されている。


 高血圧、糖尿病、心臓病、外科的損傷、などなどから薬の調合を選べるようになっていた。読める! 僕にも読めるぞ!!


「プイプイキュ~イ!」

「なるほど、研究用、いわゆる上級者用モードになってた。って感じ?」

「プイ」


「ありがとうポチ、助かったよ!」

「キュイ!」


「ふむ……じゃあ最初に作るやつはどうしようかな」


 まず作るのは、日常的に需要がある薬にしよう。


 手頃なところだと、頭痛薬、解熱鎮痛剤とかかな? お薬といえば、やっぱこれが一番に必要になるだろう。


「えーとレシピをセット、と。実行!」


<ヴォエッ! ヲロロロロロロロ!!>


「うわ、ばっちぃ! なんか吐きそうだぞ!」

「袋! 袋はないですのー?!」


 機械が発した迫真の嘔吐音で、生態系の頂点、ドラゴンとグリフォンがワタワタしている。ドラゴンすらパニックになる音ってなんだよ?!

 

「なんでうちにある機械って、こう……」

「まともに動いてるけどまともじゃないんだろうね?」

「プ~イ」


 鎮痛剤の次には、止血剤を作ろう。戦闘では必ず必要になるはずだ。


 機械に製作を指示すると、取り出し口から小さな注射器が出てきた。

 注射器部分はどこから?! ま、まぁこの際、気にしないことにしておくか。


 僕は薬をひとまとめにして、小さな箱に入れる。

 

 よし、第一号が完成したぞ。

 ニートピア特製「メディキット」ってところだな。


 これはブーブーボゥイの人たちにお土産として持たせてみるか。

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