アリだー!


「アリだー!」

「見ればわかりますのよ!」


<グシャ! バキ! ザクッ!!>


 地下へ向かう階段から登ってくる無数のアリたち。

 ハクとクロの二人は階段の上で、そいつらと互角以上の戦いをしていた。


 防護服を破らないよう転化してないので、今の二人は人の姿のままだ。

 この姿は獣の姿に比べると、力が大きく劣る。


 だけど、二人が人の姿を取り続けるのは、大きな利点がある。

 道具を使えるのだ。


 クロはサソリの殻を使った篭手、ハクはハサミの槍を使っている。 

 戦いの様子を見るに、サソリの殻はアリのそれよりも強度があるらしい。

 振り下ろされたハサミは大した抵抗もなく、アリの頭部を砕いた。


 ハクが振り回すサソリのスピアによって、殻に入ったアリの肉がバキッっと断ち割られる。そのたびに、アリの血がコンクリートの壁を緑灰色に染めた。


「おんどりゃー!」<ベシッ!!>


 わぁ……アリの手足や生首がこっちまで飛んできた。


 僕は防護服の切れ目を手で塞いでいて、戦いに十分に参加できない。

 今は彼女たちが頼りだ。


「なんて数だい、いくら撃ってもきりがないね」


<ズガンッ!!>


「ウシャァーッ!!」


 ギリーさんは二人が戦っているアリの後ろ、おかわり連中をライフルで撃って、先に排除している。彼女の言う通り、連中の数は半端じゃない。


 倒しても倒しても、アリたちは新鮮な肉を求めて俺たちに迫ってくる。


 頭を潰されたアリの数を考えれば完全に赤字だと思うが、一体何がこいつらを前に進ませるんだろう?


 地下へ向かう階段の終わりにある部屋の空間を見ると、ゲーミング汚染物質の光に照らし出されたアリの姿が見えた。


 手榴弾か何かあればイチコロなんだが……。

 重要な施設があった場合、それも傷つけてしまうな。


 それに、ここは狭くて地形が悪い。

 僕らの中で最大の火力を出せるポチが戦いに参加できていないのが痛いな。


 ポチのガトリングの火力なら、アリを一掃できるはずだが、下へ向かう階段の入り口あたりでボディがつっかえてしまう。


 現状、ポチは何も出来ない状態にある。

 階段の入口から、顔だけ突き出しているポチに僕は尋ねてみた。


「ポチ、お前も戦いに参加できる方法はないか? お前の火力が必要なんだ」

「キュイ! プイプイ!」

「なるほど……やってみてくれ」

「キュイ!!」


 ポチは一度奥に引っ込むと、バチバチと音を立ててコンクリートの壁を解体する。そしてドカッっと音を立てて空いた空間に巨体をすべり込ませると、マウントしているガトリングガンを階段に向け発砲した!!


<ヴィィィィィンッ!!>


 弾雨の嵐がアリたちの間を吹き抜けていった。スコールの大きな雨粒が家の屋根を叩くときのように、バチバチという音をさせてアリの肉が弾ける。


<ビシッ! バチチッ!!>


(すごい。圧倒的な暴力だ!)


 アリたちはこの攻撃に動揺したのか、階段を登るのを諦め、七色に光る部屋の奥に引いていった。


「すっげー!!」

「アリたちが穴だらけですわ」

「勝った、のか?」

「どうかね? いったん態勢を整えただけかもしれないよ」


「なら、相手が弱気になった今がチャンスです。このまま攻めましょう」


「お、わかってるなサトー! 戦いは調子に乗ったもんが勝つんだぜ!」

「ハクは普段から調子に乗りすぎですわ……」

「だろー?」

「褒めてませんの! もっと落ち着いて戦いなさいな!」


「ポチは……行けるかい?」

「キュ~イ……」


「このデカブツが降りていくのは難しそうだね」

「うーん、確かに」


 僕たちの前にある階段は、ポチが降りるには小さすぎる。

 それを知ってアリたちは下がったのか?


 もしそうだとしたら、不気味なくらい頭がいいな。


「プイ!」

「無理はしなくて良いよ、僕たちだけで先へ行ってみるから」

「キュイ……」


 ハクとクロを先鋒として、僕たちは階段を降りていった。

 だが……。


「うっ、ゴホッ、ゴホッ……」

「サトー、大丈夫かい?」

「あまり大丈夫じゃないですね」


 防護服の切り裂かれた部分から、スーツの内部に有毒ガスが入り込んでいた。

 急がないと手遅れになるな。


 階段を降りきると、地面は7色の蛍光色でギラギラ光っていた。

 床はゲーミング廃棄物でいっぱいだ。

 その光と言ったら、松明が不要になるくらい明るい。


「まるでクリスマスだ」

「なんだいそれ?」


「一年の最後の方にあるお祭り、ですかね。――こんな風に色んな色で光るライトで家や街を飾るんです。もちろん、それに毒はないですよ?」


「あんたらはこんなのを家に飾るのかい? ニートピアでは遠慮願いたいね。目がチカチカしちまうよ」


<グシャ! バキ! ガリッ!>


「ん……?」


 七色の光が届かない暗闇の奥から、何かを咀嚼そしゃくする音が聞こえた。


「ハク、あっちに光を」

「おー?」


 ハクが松明を高く掲げ、暗闇をオレンジ色の光で満たす。

 すると、ぼんやりと光る青い薄羽をもった、巨大なアリが奥に居た。


 まさか、女王アリ? だけど――


 奴は骨ばった手でアリを引きちぎり、中の肉を、血を、吸い付くようにしてたいらげている。周囲には先程戦っていたアリたちが頭を下げて控え、まるでそれを待ちかねているという感じだ。


 これは……一体、何が起きてるんだ?


「アリの女王、自分の仲間を喰ってる、のか?」

「共食いかー?」


「なにか、とても嫌な感じがするね……今のうちに片付けたほうが良いよ」

「そうですね、あ――」


 女王アリの体に異変が起きた。メリメリと音を立て、背中から女王アリの体が裂け始めたのだ。なんだ、中から、何かが出て来ているぞ……?


 出てきたのは人間の女性。しかしそいうは体の各所がアリと同じような甲殻で覆われていて、背中の薄羽も女王アリと同じようなモノのままだ。


 まさか、こいつもハクやクロと同じ存在なのか――!


『我らの聖域を犯すものに災いあれ……者共、汝らのアゴで、奴らを食いちぎれ』


 頭の中に直接響くような声を、女王が発した。

 ここはヤツの巣穴なのか! 闇の中から無数のアリたちが這い出てきた。


<シャァァァァ!!><シシシシ!>


 怒りを感じさせる甲高い音をアリたちは発した。

 いつのまにか、階段の上にも既にアリがいる。

 そして、完全に包囲の輪が閉じた。

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