180度ひっくり返す

「どうやら後ろも塞がれたね」

「前もギッチリだなー!」


 僕たちはアリに完全に包囲された。

 この状況からどうするか……。


「どうしますのサトーさん?!」

「さて……ゴホッ!」


 考えろサトー。


 周りを見よう、何か使えるものがないか?


 足元、周囲にある物で目立つのは、汚染物質の入った金属のドラム缶だ。

 ドラム缶はこじ開けられたり、切り開かれたりして内容物をこぼしている。


 七色に輝く汚染物質はギラギラと光っていて、とても健康に悪そうだ。


(ん……何か変だぞ?)


 僕は足元に転がっているドラム缶、それの奇妙な点に気づいた。


 ドラム缶には、それぞれ使用している工場の文字がプリントされている。

 だが、よく見ると工場の名前はバラバラだ。


 工場の名前も違うし、サイズや形状、規格が違うものまで混ざっていた。


 これは明らかにおかしい。


 ここが外に面した倉庫なら、これがあるのはわかる。だが、階段をつかって行き来する場所に、これだけの量の廃棄物を持ち込むだろうか?


 ポチがここまで来る事ができないのと同じように、フォークリフトみたいな機械は、階段の上を走れない。つまり、自分の手で運ぶしか無い。


 こんな効率の悪い処分方法をとる必要がない。

 なぜなら、工場の外にはいくらでも荒野が広がっているのだから。

 

 ドラム缶を大型車両に積んで、外に捨てればいいだけの話だ。

 有毒発電機を使ってるくせに、そこで良心を発揮する必要がどこにある?


(そうか――!)


 このアリたちが掘り起こして、ここまで持って来たってことか!

 ゲーミング汚染物質が、アリたちにとって重要なモノなら、もしかして……!


「一刻も早く電源を探しましょう! こいつらは、それでいなくなるはずです!」

「何だって?」


「こいつらは自分たちでこの汚染物質をここまで運んできてます。つまり、コレは奴らにとって必要不可欠な何かを含んでいる」


「俺たちがこの汚染された空気では生きられないのとは逆です! コイツらはこれがないと生きられないんです!!」


<キシシシ……シャァ!!>


 僕の声に何かを感じとったのか、アリたちが、包囲の輪を狭めて襲って来た!


「どりゃー!」


<バキィッ!!>


 ハクが目の前のアリの首を飛ばす。


 急いで電源を探さないと。

 上から来たケーブルは、一体どこにつながってる?


 ……アレか!!


 黒いケーブルの川は、アリの女王の後ろにある、大きな機械につながっている。あれがこの工場に電気を送り込んでいる機械にちがいない。


「ハク! アリの女王の後ろの機械まで、アリを切り開いてくれ!!」

「わかったぞー!!」


「クロは後ろから来るやつを頼む!」

「任されましたわ!」


<ズガッ! ベキッ!!>


 だが、いくらやっつけても中々前へ進めない。

 アリの数があまりにも多すぎるのだ。

 だが、ゆっくりだが確実に前には進めている。これなら――


『えぇい! たった二人相手に何をしている……ナイトを出せ!!』


 俺たちが倒れる様子がないのにイラついたのか、女王アリが叫んだ。

 すると、アリたちの中でも、ひときわ大きいサイズのそれが現れる。


「あれがナイト……特別なアリってことか!」


 アリの騎士は他のアリに比べると色が黒い。

 そればかりか、手には創意工夫でつなぎ合わされた工具のランスを持ち、もう一方の腕にはフェンスや鉄板をつなぎ合わせた盾を持っていた。


<ガキンッ!!>


「うお! すっげー硬いぞこいつ!!」


 ハクがアリのナイトを突いたが、奴の装甲はサソリの爪を防ぐらしい。

 武器は互角。しかし体格差がどうしようもない。


<キンッ!ガキン!>


 ナイトから振り下ろされた攻撃は、やつの上背のぶん、ハクよりも強力だ。

 次第に壁際に彼女は追い詰められていった。


「お前デカすぎてずりーぞ!! 」


「シュシュシュ!」


 あざけるような音を立て、ナイトはランスで串刺しにしようとする。

 しかし、ハクはそれを待っていた。避けるのではなく、むしろ向かって言って、ランスの軌道をそらし、壁に突き立てたのだ。


「ギジュジュ!?」


「お前バカだな―!」


 ランスを引き抜こうとするナイト。

 しかしそのスキをハクが見逃すはずはない。

 トン、トン、とナイトの体をのぼっていって、上体の背中に回った。


「お前の甲殻は槍でも貫けないけど、首が回せるってことは、そこは柔らかいってことだよなー?」


「シュシュ!?」


 二抱えもありそうなナイトの首を持ったハクは、それを180度回転させる。

 アリは中枢神経を完全に破壊され、数秒バタバタ動いた後、絶命した。


「サトー!」

「……ッ! よし今行く!!」


 ナイトの死体の上を走って、僕は機械まで走る。


「届いた!!」


 ナイトの死体が邪魔になって、アリたちは僕を捕らえる事ができなかった。


 とりついた機械のフタを開くと、電源ブレーカーを片っ端からパシパシ弾いていって、この工場に文明の火、「電気」を入れる。


 ガコンと何かの音がして、どこからともなく、空気がうなるような音が聞こえてくる。空気の浄化装置が動き出したのだ。


「終わりだ、アリンコ!!」


『おのれクソ虫がぁぁぁ!! グアァァァァッ!!』


 アリたちはもだえ苦しみはじめる。

 そしていつしか、部屋の中に静寂が満ちた。


「……虫はそっちだろ」

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