換気装置を求めて

「汚染の……なんだって?」

「汚染の除去装置です。防護服なしで部屋に居られるようにする機械です」


「へぇ、そんな便利なもんがあるのかい」

「確実にあるはずです。じゃないと作業どころじゃないですからね」


「この服を脱げるなら何だって良いさ」

「ですね」


 このあたりはスモッグに覆われていて、サバンナよりも気温は低い。

 それでも防護服はキツイ。早めになんとかしよう 


「まずは電気を復活させましょう」

「プイィ……キュイ!」


「また騒ぎ出したね。なんて言ってるんだい?」

「ふむふむ……太くて束になっているケーブルを探そう、だそうです」

「プイ!」

「相変わらずなんて言ってるかわからないね……」


 ポチの言葉は、ボクの喉の奥にある制御プロセッサで翻訳されている。

 彼(?)が言うことは、こんな感じだ。


「プイプイ! プーイ!」


(工場は大抵、外部から電源を引き込むために巨大な高電圧ケーブルを使用します。そのケーブルをたどっていけば、分電盤にたどり付けるはずです)


「分電盤? 発電機じゃなくって?」


「プイ~」

(各工場には、非常用の発電機があるかもしれませんが、一時的なものです)


「非常用発電機を動かせば、それでよくない?」


「プイ~キュキュイ!」

(それでも良いのですが、確実に施設を稼働させるなら、工場に供給されている電源を分電盤で供給し直すべきです。こちらの方が安定的に動かせます)


「うん? この工場地帯の発電所は、まだ動いてるって言うこと?」


「プイ!」

(はい。このスモッグが存在するのが何よりの証拠です。この汚染は有毒発電機、トキシックジェネレーターによるものです)


「げ、有毒発電機?! そんなものまで持ち込んでたのか……。あれって僕たちの文明世界では、とっくの昔に禁止されてるのに」


「キュ~イ……」

(その通りです。あれは無限に発電しますが、深刻な汚染を吐き出し続けます)


 トキシックジェネレーターは燃料を補給しなくても発電し続ける機械だ。

 無限のエネルギー、人類の夢。

 だが、世の中そんなうまい話はない。


 有毒発電機の別名が示す通り、この発電機は周囲を化学的に汚染し続ける。

 その汚染の酷さは、化石燃料や原子炉事故の比じゃない。


 そのため、大抵の惑星では使用が禁止されている。

 使っても良いのは、元々人が住めないような荒廃した星だけだ。


「なんで惑星ナーロウにこんな物が……あっ、そうかテラフォーミング……」


「キュイ! プイプイ」

(そうです。この惑星はテラフォーミング。つまり居住不可能な状態から居住可能な惑星に代わりました)


「プイ~」

(惑星ナーロウが居住不可能な時に許可を取り、有毒発電機を建築する。その後、居住可能になってからも、こっそり使い続けていたのでしょう)


「ムチャクチャするなぁ。でも実際、ポチの推測が正しそうだ。」


「キュイ、プイプイ」

(ありがとうございます、サトーさん。ここまでの情報をまとめましょう。)


(有毒発電機は工場地帯の中央で管理されていて、電源は供給されている。)

(ケーブルをたどり、分電盤のブレーカーを操作して、電源を供給する。)


「そして汚染の除去装置を稼働させる、だな。有毒発電機を使っていたなら、従業員のための汚染除去装置があったはずだ」

「プイ!」


「……あんたらが何を話してたのかさっぱりだけど、何かわかったのかい?」


「はい。ポチが教えてくれました。機械から伸びているあのケーブルが見えますか? あれをたどって行けば見つかるはずです」


「よし、さっさと済ませるよサトー。このままじゃ暑さでブッ倒れるよ」

「同感です」


 機械から伸びている太いケーブル見つけた僕たちは、その先をたどっていった。

 

 僕たちがたどったケーブルは、他所からも一本一本、黒くて細いケーブルが寄り集まってきて、どんどん横に広がっていく。

 まるで小川が集まって、大きな川をつくっている光景にも見えた。


「集められたケーブルは、どうやら下に向かっているようですね」

「地下か……暗くて嫌な感じだね。」

松明たいまつつくるかー?」


「うん、おねがいするよ。ここにオイルもあるし」


 僕は機械の整備に使うオイルの缶を取った。

 確認するが……うん、安物の燃えやすいやつだ。危ないなぁ。


 ハクは近くにあった手すりをバキンともぎ取ると、ささっと布を巻き付ける。

 そして僕が開いたオイル缶の中に鉄の棒を突っ込んだ。


「ポチ、火を頼む」

「キュイ!」


 ポチに頼んで、バチバチと火花を出してもらいそれでたいまつを着ける。

 そうしたら、真っ暗だった工場の中がオレンジ色の光で明るくなった。


「お、明るくなったぞ―!」

「ケーブルは地下に向かっていますね」


 だがその時、僕らの耳に何かが動く音が入ってきた。


 <カサカサカサカサ……!>


 何かがコンクリートの上を歩く音だ。

 とても嫌な予感がして僕は反射的に叫んだ。


「――待って、何かいる!!」

「なんだー?」


 ハクがのんきに地下へ向かう階段の下に向かって松明を掲げると、茶色っぽい緑色の塊が部屋の中でひしめきあって動く姿があった。


 一つ一つの影は人間大でかなり大きい。これは……アリか?


 アリはなたみたいに大きなアゴを振り回し、地面の何かを口にしている。黄色いドラム缶からこぼれ出していたそれは、七色にひかる汚染物質だった。


「まさか、こいつ汚染物質を食ってるのか?」

「サトー! くるよ!」


「シュシュシュ……」


<ザシュッ!!>


 階段をものすごい勢いで登ってきたアリが、カミソリのように鋭い前脚を振るう。暗闇の中でブンと音を立てた大鎌は、僕の防護服の胸の部分を切り裂いた。


「不味い、服に穴が……!!」


 このままではアリに倒される前に、汚染物質でやられてしまう。

 何とか電源を復帰させないと……!

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