汚染地帯


<ブォォォォォンッ!!>


 僕たちはニートピアをオークに任せ、地図を頼りにサバンナを爆走している。

 汚染された領域はもうすぐのはずだ。


「地図が確かなら、そろそろ見えてくるはずです」

「周りの様子が変わってきたね」

「……ここにある木は、みんな死んでいますわね」


 クロが言うように、このあたりの樹木や草はみんな立ち枯れている。

 地面もガソリンをぶちまけたみたいになっていて、雲の間から差し込む日の光に、複雑な虹色の光を返していた。


「……なんかスッゲーくさいぞ!」

「もう限界みたいですね。みんなで防護服を着ましょう」


 墜落者ギルドから託された防護服を全員に配ってその場で着る。

 黄色のスーツは服の上からでも着れるサイズだが、通気性が皆無なので暑苦しくてたまらないな。


「なんだいこりゃ、えらい蒸し暑いね」

「ゴワゴワして、着心地もよくありませんわね」

「おもしれー!」<ブカブカ>


「服を着た後は、このマスクっていう部分を口に当ててください。そうしないと空気の中にある毒を吸い込んでしまいます」


「ふがふが」

「噛み付いちゃダメですわよ」


「暑い上にすごく息苦しいね。防護服とか言ったっけ、これを考えたやつは自分で着たことがないんじゃないか?」


「ですね……しばらく我慢するしか無いです」


 せいぜい着てられるのは30分くらいだろう。

 それ以上は限界だ。


 だけどこの防具服は後で脱ぐことができるはずだ。

 これだけの汚染を吐き出す工業地帯なら、大抵「アレ」があるはずだから。


「ポチ、全速前進!」

「プイ!」


<ブゥゥゥン!!>


 さらにポチに乗って進むと、さらに荒廃した光景が広がっていた。

 地面は泡立ち、空気は7色に変化している。

 ……ゲーミング汚染地帯とかちょっと新しいな。


「すっげー! 空気がピカピカしてるぞ!」

「地面が赤、青、緑……何とも形容しがたいですわね」


「遠くに何か見えるね。あれが工業なんとかってやつかい?」

「きっとそうですね」

「この星にやってきた連中は、ずいぶん好き勝手してくれたね……」

「ですね……もう人が住める場所じゃないですね」


「だけど、あの連中だけは、話が違うみたいだね。――見てみな」

「ん?……わぉ。」


 サイとブタを足したような見た目をした、4足歩行の動物が遠くにいた。

 背中に不潔な黄緑色のふくろをその動物は持っていて、ふくろは呼吸するようにうごめいている。


「背中のあれ、なんですかね?」

「あれは毒袋かね。あの袋に毒をためて、それで身を守ってるのかも」


 なるほど。邪悪な毒スカンクってところか

 

「ここの毒を利用する生物か。おっかないのがいますね」

「あぁ、手を出さないほうが良さそうだ」


 さらにしばらく進むと、ポチが声を上げる。

 ようやく目的地に到着したって事を、知らせてくれているのだ。


「プイプイ!」

「着いたみたいです。ここが……失われた工場地帯ですか」

「でっけー!」

「こりゃ、想像以上だね」

「村にあった崖よりも大きいですわ」


 僕らの目の前にある工場の群れは、鉄とコンクリートで出来た山脈だ。


 なにせ衛星地図でもわかるくらいの規模の工場地帯だからね。その大きさときたら、神話の天国にある、神々の神殿のようだ。


 もっともここから出てくるのは、乳と蜜の流れる川でも、木の実でもなく、触れた瞬間に肌を焼く汚水と、肺とノドを腐らせ、ボロボロにするガスだが。


「とにかく中に入りましょう」


 工場の一つに近寄って、ドアを探すが……これはダメだな。


 見つけたドアは防爆のエアロックで、継ぎ目も何もないときた。

 ロックは電子錠だし、手がつけられない。


「ドアはダメですね。封鎖されてます」


「あっちのシャッターは? 砂漠にあった店にあったのと似てる。あっちなら力づくで何とかなりそうだよ」

「なるほど、見てみましょう」


 僕らはシャッターの方へ行った。しかし、こっちも堅く閉じられていた。


 目の前にあるシャッタ―は、形こそコンビニのそれに似ていたが、サイズがあまりにも違いすぎる。


 コンビニのシャッターは、人が二人並んで通れるかな?

 それくらいのサイズだった。


 でも、いま目の前にあるのは、ジェット旅客機でも通れるくらい巨大だ。

 こんな物、こじ開けるとかいうレベルじゃない。


「さすがにこれは……人の力でどうにかなるもんじゃないですね」

「やるかー?」

「おまちなさいハク、あなたが転化したら、その服が破れちゃいますわ」

「そうだった!」


「ここはポチに任せるか」

「プイ!」


 ポチは戦車の腕を突き出す。

 すると、手の先端からまばゆい光を出して、シャッターを溶断し始めた!


<ジジジジ……バチバチ!!>


 カスケットの腕に、もともとこんな機能ないよね……。

 確実にポチの手で改造されてない?


<ベキ……バタン!>


 シャッターの金属が溶断されて、僕たちが通れるだけの穴ができた。

 よし、これで中に入れる。


 中は……うん、思ったとおりだ。外に比べると汚染が進んでいない。


 人の手で操作するコントロールパネルがいくつか見える。

 ってことは、この工場はロボットだけじゃなくて、人もいたはず。


 ってことは、間違いなく「アレ」が存在する。


「じゃあ、さっそく家探しに取り掛かるかい?」


「まず探すべきものがあります。それを見つけましょう」

「ん、なんだいそりゃ?」


「室内の汚染の除去装置です。まずはこれを探します」

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