狼煙とブーブーボゥイ
「今日は……よさそうですか?」
僕がそう尋ねると、ギリーさんは指を口にふくんで湿らせ、風を見る。
「うん、これならかなり遠くまで見えるだろうね」
僕たちはフェンリルのフンを集めた後、風の弱い日を探していた。
煙が強風で流されてしまっては、フンを集めた苦労が台無しになるからだ。
数日の間待ったが、3日目にしてようやく求めていた無風の日が来た。
僕たちは、事前に目星をつけていた場所に向かう。
ニートピアの近くにあった、周囲より少し高く、平たく広い場所だ。
ここで
「こんなもんでいいですか?」
「ま、こんなもんか。火を起こしていこう」
脂っぽいフンは焚き火の炎であぶられると、白くて色の濃い煙を上げる。
立ち上った煙は空高く登ってもなかなか消えない。
青い空の高みへ向かって、真っ直ぐな煙が送り込まれていった。
「おぉ~! 本当に煙が真っ直ぐ立ちますね」
「アタシの言った通りだろ? このまま煙を並べていこう」
・
・
・
狼煙を上げ始めて、しばらくのことだ。
サバンナの水平線の向こうに砂煙が上がっているのが見えた。
おぉ! あれは見た記憶があるぞ!!
次第に煙が大きくなってくると、それが見えてきた。
馬に乗った3人のオークたちだ。
おお、いつぞやのボス(仮)もいるじゃないか!
「狼煙が届いたみたいですね」
「まったく、仕事熱心な連中だね」
<ヒヒーン!>
「どうどう。久しぶりだナ、えーっと……」
「サトーです。ニートピアのサトー。また会えて嬉しいです」
「そう言えバ……名乗ってなかったナ。ブーブーボゥイのバンだ」
「あと後ろのハ……サン、カン」
バンの紹介で、馬上のサンとカンが手をふった。
彼らの名前は――バン、サン、カン、というのか。
なんだろう。どこかで聞いたような気がするんだが……。
まぁいっか。
「それで、一体何の用デ呼んだんダ?
「いえ、それが実はですね……」
・
・
・
僕たちはオークと一緒にニートピアに戻った。
そして、オークと僕の間で若干のトラウマとなっている場所。
食料加工機のある部屋で、僕はオークと交渉を進めている。
これからしてもらいたい事は、ニートピアに戻りな柄説明した。
しかし、話を聞いたバンさんは、どうにも半信半疑、と言った様子だ。
「遠征ニ出かけていル間の……留守番? そんなので良いのカ?」
「はい。今、ニートピアには余分な人員がいないので、遠征の間コロニーを守っていてほしいんです。」
「フーム。報酬は何ダ?」
「もちろん用意してます。この武器でいかがでしょうか」
僕は自分の背後にある物体。それに掛けられていた布のカバーを外す。
すると、カバーの下から『ガトリングガン』があらわになった。
「ガトリングガンです。大量の弾丸を吐き出すことの出来る重火器です」
「ほう、これはこれハ……」
オークたちに見せたのは、キャベツ集落で宙族から奪った武器の一つだ。
人間の力ではとても扱うことは出来ないが、彼らなら話は違う。
「持ってみてモ、良いのカ?」
「はい、どうぞ。」
<ガシャン>
バンはガトリングガンを持ちあげると、その重さを確かめているのか、立ったまま構えたり、膝立ちになって構えたりをしていた。
オークの力はやっぱ半端じゃないな。
僕が真似しようものなら、持ち上げた瞬間にプチっと押しつぶされるだろう。
「悪くなイ。少し重いガ……」
「流石ですね。使い方はわかります?」
「アァ。でも、留守番デこんな良いものを貰っテ、本当に良いのカ?」
「はい。ガトリングガンはまだ2台ありますので、使ってください」
「……すごいナ」
「でもボス。それジャ、ブーブーボゥイの名がすたル」
「そうダそうダ。留守番するなラ、コロニーの仕事手伝ウ。」
「何も、そこまでしていただかなくても……」
「サトー、そういうわケ、いかなイ。傭兵、信頼トテモ大事」
……ナーロッパ物語のオークって、ウォォーって斧を振り回して戦争、戦争、また戦争っていう連中なんだけどなぁ。
この惑星ナーロウのオークはおかしい。
マジの聖人だ。
留守番をお願いしたオークは、ただの留守番じゃ悪いってことで、畑に水をまき、雑草をその太い指で一個一個つまんで草むしりまでしている。
一体何がどうしてこんなことになったんだろうか。
人間、宙族の方がずっとオーク感あるぞ。
「ともかく、これでなんとか留守番役の問題は解決しましたね」
「これでアタシらが留守の間、オークたちが代わりにニートピアを守ってくれるはずだね。しかしあれだね。作物の世話に関しちゃ、オークはサトーよりも上だね」
「ウッ……鉢植えならまだしも、畑のことなんては知りませんから」
「アンタら、どうやって飯食ってたんだい?」
「ボタンを押すと出てくるので」
「そういう意味で言ったんじゃないんだけどね……」
「あとは僕たちが墜落者ギルドに託された用事を済ませるだけですね」
「汚染された工業地帯に飛び込んで、テクノロジーのお宝を見つけて持ち帰る。とても一筋縄ではいかないだろうね」
「はい。ですが他の人に最初の一歩を踏まれるよりかは良いかなと」
「違いないね」
僕らが今から行こうとしている場所は、まだまだ数多くのテクノロジーが保存されているはずだ。もしかしたら、これが大きく今の状況を変えるかもしれない。
宙族と墜落者ギルドの間に広がっている技術力の差はとても大きい。
その差が埋まってしまえば、宙族だってうかつに手を出せなくなる。
そうなれば脱出までの時間も短くなるだろう。
これは墜落者ギルドだけでなく、僕らにも大きなメリットがある冒険だ。
心して行こう。
「よし、準備をしたら、さっそく出発しよう!」
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