フェンリルの◯◯◯

 フェンリル。


 フェンリルと言えば、元は神話にでてくる巨大な狼の怪物だ。


 そして、ナーロッパ物語において強大な狼と言えば、大体「ケルベロス」か「フェンリル」のどちらかが選ばれる。


 俺が読んだ物語のフェンリルの描写はたしか……。


 人の言葉を喋り、気に入った人間、つまり主人公には従順だが、敵には容赦ないっていう感じだったな。


 あと首の下あたりが柔らかく、触るとモフモフしてて、お肉が好き。

 そんなところだろうか?


 まぁ、コレはあくまでも「ナーロッパ物語」のフェンリルだ。


 この惑星ナーロウのフェンリルが、どこまでナーロッパ物語の再現をしているかがわからない。なんせこの星を開発した企業はトチ狂ってるからな。


 ジャッカロープ、ウサギが燃え盛る隕石を落とすんだ。

 口からビームを吐くフェンリルとか、そんなのが出ても驚かないぞ。


 ま、そんなのだったとしても、今なら戦えるはずだ。

 今のポチは完全武装のキリングマシンと化してるからね。


 背中にはスラグカノンとガトリングガンが1門づつ搭載されている。

 もしフェンリルが襲ってきても、対等以上に渡り合えるだろう。


「近いね、やつの存在をピリピリ感じるよ」


「ささっと取って帰りましょう」

「キュイ!」


 僕らは死体の調査を終え、ポチの上にもどる。

 するとポチは気合を入れ直すみたいにエンジンを吹かした。


「行け、ポチッ!」

「キュイ!!」


<ブォォォォンッ!!!!>


 勢いよく走り出した慣性で、グンッ! とポチの背中に体が押し付けられる。

 6本の足を持つ白い影が、砂煙を上げながらサバンナを駆け抜けた。



 ポチのタイヤはしっかりと大地をつかんでいる。

 砂利を蹴散らす小気味よい音を聞きながら爆走していた。


 ふと、少し先の空で白い煙が立ち上っているのが見えた。


「ん……?」

「焚き火だ。……誰かいるね。フェンリルを見てないか聞いてみるかね」

「そうしましょう。ポチ、ストップ!」

「プーイ!!」


<キィィィッ!!>


「ワーッ!」<ドサッ!>


 急ブレーキでポチが急に止まったもんだから、僕は前に投げ出されてしまった。

 こりゃシートベルトが必要だな……。


「サトーは腕力無いねぇ」

「イテテ……」


 ギリーさんはポチの体を掴んだままで、あの急ブレーキでも落ちてなかった。

 握力の違いか……。くっ!


「あのー、大丈夫ですか?」

「ケガはないか、兄さん」


 僕に声をかけたのは、焚き火の前にいた男の人と女の子だ。


 ラフな造りの毛皮の一枚布と、骨をボタンにしたなめし革の上着とズボン。

 格好からして、蛮族の人たちかな?


「だ、大丈夫です、なんとか。あなた達は?」


 二人は顔を見合わせ、少し間をおいて答えた。


「まぁ、旅のもんさ。アンタは?」


「あ、狩りをしてまして。フェンリルの痕跡を追ってきたんです」


「――ッ!」


 身を守る用に体をすくめる女の子。

 男の人は、そんな彼女の前に手を出し、僕らの前に立ちはだかるようにした。


 なんかえらい警戒されてるけど……。


 あ、ひょっとしてフェンリルって、この人たちが信仰してる部族のシンボル。

 神獣みたいなポジションだったりするのかな?

 それはちょっとまずいな。彼らの誤解を解かないと。


「それは本当か?」


「はい。どうしても必要なんです」


「フェンリルは強大な獣、人の手に余る存在だよ。危険を犯してまで、フェンリルを狩る……いったい、何のためだい?」


「それは……どうしても欲しい物があるんです。コロニーを守るために」


「フェンリルの毛皮、骨は高く売れる。それが目的かい?」


「あ、そういうのは別にいらないです。」


「え?」

「じゃぁ、お兄さんはなんでフェンリルを追いかけてるんです?」


 動きを止めた男の影から、女の子が疑問の声を上げて身を乗り出した。


 ふわっとした雰囲気の銀髪の女の子は不思議そうな顔で僕を見上げてる。

 まあ、別にこれは言っても大丈夫か。


「それはですね――」





「ウンコがほしいんです。フェンリルのウンコが」


「「…………、」」


「「へ、変態だ――――!!!」」

「?!」


 何かえらい誤解をされた!!?


 僕は変態の疑いを晴らすために、狼煙のろしのことを二人に説明したが、女の子のほうは男の人の影に隠れてでてこない。


 そこまでエンガチョしなくても……まだウンチは拾ってもいないのに。


 くすん。




「し、失礼した。まさかその、クソを集めてるとは……」

「……」


 ウンチ集めのことをカミングアウトしたら、めっちゃ女の子に睨まれてる!!

 なんで?!


「その、フェンリルのウンチなんですが……。」


「わかった、お願いだからそれ以上言わないでくれ、鳥肌が立つ」


 ひどくない?!


「確か……フェンリルはこの先を行った所にある、人によく似た形をしたサボテンが2本並んでいるところで


「おぉ! ありがとうございます!」


「もしこの近くに住んでいるなら、こんどウチに来てください。この近くにウチのコロニーがあるんで。ニートピアって言うんですけど」


「そ、そうか……。機会があれば、な」



 なんだろう。

 フェンリルのウンコ集めるのって、そんなに変なことなんだろうか。


 異星、それも辺境の文化は難しいな。


 旅人と別れた後、僕らはサバンナをぐるぐる探し回った。

 そして、ようやく求めていた「それ」を見つけた。




「狼のフン、ゲットだぜ!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る