留守番役

「ポチのおかげですぐ帰ってこれましたね」

「ほんとに何なんだい、こいつは……」

『キュイ!』

「ポチすっごいなー!」

「えぇ、皆様を乗せてこんな早く走れるんですのね」

『プーイ♪』


 僕らはポチに乗ってキャベツ集落を後にした。


 ポチはその6つの足の先についたタイヤでサバンナを爆走し、キャベツ集落へ行くのにかかった半分の時間でニートピアに戻った。


 ギリーさんは急に多脚戦車となったポチのことに困惑していた。

 一方のハクとクロは、ポチの変化を普通に受け入れている。


 たぶんだけど、彼女たちも似たような事ができるから、ポチの姿が変わったとしても、大した違和感がないんだろうか。

 なかなか興味深い文化の違いだ。


「ニートピアは変わりな……ん?!」

「ありゃ、畑に動物が入り込んでるね」


 留守にしている間に入り込んだのだろう、畑の近くに動物がいた。

 真っ直ぐな角が生えたシカみたいなやつだ。あれは何だろう?


「ギリーさん、あれなんです? シカにしちゃ角が真っ直ぐだ」


「あー、ありゃガゼルだね。畑の新芽を食いに来たね」

「えーー!!」


「さっさと追い払――」<ギャンッ!!>


 僕が「追い払いましょう」と言う前にハクが石を投げてガゼルを仕留めた。

 ちょ、判断が早いッ?!


「今日はお肉だなー!!」

「ツイてますわね~」


 二人はそういって石を頭に喰らって即死したガゼルを持っていった。

 さすが蛮族……。


「しかし、困りましたね」

「ん?」


「工場地帯に行くのはいいんです。むしろ行きたいくらいなんですが……」

「なら、行きゃあ良いんじゃないかい?」


「ですけど、その間このニートピアは空っぽになっちゃいます。留守番を出来る人手がないと、数日かかるような遠出は不安ですよ」


「たしかにね。動物が畑を荒らすくらいならまだいいけど……放火とか泥棒されちゃたまんないね」


「はい。なので……留守番を任せられる人が必要ですね」

「そうだねぇ」


「そうだ、あいつらはどうだい? オークたちさ」

「オークさんたち……うん、アリかもしれませんね」


 僕がこの惑星ナーロウに降り立って初めてあった人(?)たち。

 ブーブーボゥイのオークたちは柔和で平和的だった。


 彼らなら留守番を任せても良さそうだ。

 問題は彼らとコンタクトを取る方法だな。


 文明社会と違って、ここでは電話一本でデリバリーという訳にはいかない。


「そういえばオークさん、無線機がなんとかって言ってましたね……」

「あぁ、無線機か、ウチにはないね」


「素朴な疑問なんですが、電気は無くても無線機はあるんですか」


「あんたらが上から落ちてくると、大体無線機と一緒に入ってるからね」

「あぁ、なるほど。なぜか僕の場合は無かったですけど……」


 僕の場合は、何故かオモチャの電話だったもんな。

 あのクソブラック会社め!!


「ギリーさん、無線機を使わずに、オークさんたちと連絡を取る方法って何かありませんか?」


「それはオークを傭兵として雇うってことでいいのかい?」

「うーん、留守番ですけど……そうなるんですかね」


「そんなら、古くからある方法が使えるね」

「へぇ、どんな方法です?」


「遠くからでも見れる狼煙のろしをあげるのさ」

「のろし、って、煙をあげる、あの、のろしですか……?」


「その狼煙のろしさ。サバンナは見通しが良いからね。風の弱い日なら、けっこう遠くまで届くもんさ」


「じゃあ、さっそくたきぎを取ってきて煙を上げますか!」


「待ちな。アンタ、ただ燃やせばいいと思ってるね? こういうのはちゃんとしたやり方ってもんがあるんだ」


「ちゃんとしたやり方……ですか?」

「狼煙は燃やすものが重要でね。ただ木を燃やしても煙が散っちまうのさ」


 なるほど。


 言われて思い出したが、カマドの煙もお空のなかで消えてたっけ。

 ここはギリーさんの言う事をちゃんと聞いたほうが良さそうだ。


「のろしには、一体何を燃やせば良いんですか?」

「これが、ちょっと面倒なもんを用意する必要があってね。狼のフンさ」


「狼のフン……ウンチを燃やすんですか?!」

「そうだよ。火の中に肉食獣のフンを混ぜると、煙が真っ直ぐ立ち上るようになるんだ。何でそうなるかまでは知らないけどね」


「へぇ~……ってことは」

「そ、狩りの時間さ」

「やっぱり?!」



「しかしウンチ狩りですか」


「僕の人生に『犬のウンチを探しに行く』ってイベントが起きるなんて、全く予想もしてませんでした。」


 普通、犬のウンチとか、わざわざ探すもんじゃないからな。

 今回探すのは狼だけど。


「ならその貴重な経験で本でも書くといいよ」


 僕とギリーさんは、ポチに乗ってサバンナを進んでいる。

 ポチの走破性能なら、道路がなくても大した問題にならないな。


「……止めな!!」

「ポチ、ストップ」

「キュイ!」


<キキーッ!!>


 ギリーさんの一声でポチを停車させた。

 何だ何だ?


「見てみな……獣の死体だ。まだ新しいよ」


 ギリーさんが黒革の指出しグローブからピンと伸ばした指の先を見る。

 指の先には、地面に赤黒い血をふりまいて、まだ肉の付いた骨を散らかした動物の死骸があった。


「もっと詳しく見てみよう」

「はい」


「……この死体の骨についた牙の跡。ふむ」


 死体に近づいて驚いた。動物の死体はゾウみたいに大きい。

 ちょっとまって、こんな大きい動物を狩る狼なんているのか?


「牙の跡、犬歯のサイズからすると、大人の狼だね。二つのサイズ。どうやら襲ったのはつがいみたいだね」


 いや、狼の牙っていいますけど、斧で傷つけたみたいなサイズですよ?

 それにこの動物の骨って、大きさが僕の胸の高さくらいまであるんですが……。


 死体の骨を見た後、ギリーさんは近くの地面を注意深く調べる。

 そして何かに気づいたのか、声を上げた。


 地面にある足跡は……人の頭くらいの大きさがある。

 これはまさか、ウサギと同じパターンなのでは……?

 

「この足跡、間違いないね。狼のものだ」

「えーと、それは何よりですね」


「ああ。足跡を追いかけて、『フェンリル』の糞を取りに行くよ」


 フェンリ……、ん?

 今なんて、ぱーどぅん?

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