託すといえば聞こえは良いけど


「ランドさん、こちらが回収したかったものは全部拾いました」

「よし、話がある、君一人でこちらに来てくれ。」


 えぇ、一人で?

 まさかいきなりバキューンってことはないだろうけど……。


「不安ならあと一人連れてきても良い。危険を伴う話だからな」

「……なるほど」


 僕はギリーさんを呼んで、彼女にも立ち会ってもらうことにした。

 ハクとクロにはちょっと荷が重いからね。

 

◆◆◆


 僕はランドさんに連れられて、さっき会談に使った研究用の部屋に入った。

 幸運なことに、ここに砲弾は落ちてこなかったようだ。


 まあ、壊されこそしなかったが、それでも大変なことになっている。

 バラけた書類が床にひっくり返り、乱雑そのものだ。


「楽にしてくれ」

「手ひどくやられましたね」

「うむ……それだ」


「宙族の襲撃で大きな被害を受けた。このキャベツ集落はしばらく機能しない」

「その間、コロニーのことを手伝えとかですか?」

「いや、サトー君、キミには別のことをしてもらいたい」


 ん、別のこと?

 

「あの地図の場所、工業地帯を君たちに調べてもらいたいのだ」

「え、あの場所を?」

「そうだ。今の我々にはそう多くの時間が残されていない」


「宙族があそこまで強力な戦力を送り込んで来たのは、これが初めてだ」


「今回は君たちの助けで撃退できたが、もし君たちがいなかったら、キャベツ集落はそのまま廃墟になっていた」


「まぁ、それは確かに。ギルドの武器はまるで通用してませんでしたね」

「アタシらの武器も、表面で弾けるだけだったけどね。あれが爆弾と白兵戦に弱かくて助かったけど……」


「生き残りは逃げちゃいましたから、次は対策してきますよね」

「まともに準備されてこられたら……ヤバイね」


「その通りだ。我々も技術開発を急いでいるが、連中はずっと先のテクノロジーを持っている。まともに来られたら勝ち目がない」


「なぜこんな急に激しく攻めてきたんでしょうか。何か理由が?」


「わからん。だがあるとすれば……我々の技術と装備が次第に整ってきた事か。我々を石器時代に戻そうとしているのかも知れない。」


「強盗の理屈なんて考えても、何の役にも立たないよ」

「その通りだ。まず大事なのは、自分や仲間の身の安全を守ることだ」


「それで、工業地帯の調査、ですか」


「あぁ。もう悠長にイチから研究しているヒマはない」


「そこにあるハイテク機械で使えるものなら何でも良い。それを持ち帰ってきてほしい。それを使って、これからの戦いの役にたてよう」


「ですが……工業地帯は重度に汚染されています。致死的な毒ガス、汚染された水源……数日で死に至るでしょう」


「銅像を建てられたってゴメンだね」


 ギリーさんが僕の言葉に合いの手を入れる。

 ランドさんはしばらく沈黙していたが、急に立ち上がったかと思うと、部屋の奥にあったロッカーを開いて、何かを取り出した。


「……わかっている。だからこそ、これを君に託そうと思う」


「これは……!」


「化学防護服だ。これを君たちに託す」


 ランドさんが僕らに手渡したのは、全く継ぎ目のない黄色いビニール製の服に、ガスマスクがくっついている「化学防護服」だ。


 墜落者ギルドはもうこんな物を持ってたのか!!


「これは砂エルフが回収したものを、我々が買い取ったものだ」


「へぇ、それってそんな大したもんだったのかい」

「これってもしかして、ギリーさんが回収したものですか?」


「まぁね。こうと知ってたら、もっと吹っかけてたよ」



「この防護服は全部で4着ある。これをサトー君、キミに託したい。」


 託すと言えば聞こえは良いけど……。

 ぶっちゃけ押し付ける、のほうが正しいですよね?!


「墜落者ギルドの未来は君たちにかかっている。頼む受け取ってくれ」


 いいえと言ってもなんだかんだ押し付けられるやつだな……。

 仕方ない。それでランドさんの気が休まるなら受け取ろう。


「わかりました。お受け取りします。」

「そうか! ありがとう!!」


「コロニーに帰ったら、折を見て、工場地帯を調べてみます」

「うむ、急かしたくはないが、できるだけ急いでくれ」


 僕はランドさんから化学防護服を受け取った。

 予想もしてなかったが、これで工業地帯に行く道は拓けた。


 あとは実際どうするか、だな。

 拾ったものを墜落者ギルドに渡すか、それとも自分の取り分にするか……。


 というのも、ギルドの戦闘能力は、僕が思った以上にショボかったからだ。


 それもそのはず、墜落者はそのほとんどが一般人。 

 ギルドの素人同然の兵士10人にハイテクアーマーを着せる意味、あるか?

 あの戦いぶりを見ると、ちょっと頑丈な的になるだけだ。


 それよりも、ハクとクロにエリートクラスのハイテクアーマーを着せて、スーパーウェポンを持たせた方が何十倍も強くなるし、生き残る人間も増えるはずだ。


 いっそのこと、貴重品は独り占めしてしまうのがいいか?

 これは十分選択肢に入れても良いはずだ。


 だがそれをすると、墜落者ギルドは僕らが裏切ったと受け取るな。

 ……うん、かなり危険な選択肢だ。


 でも、この星を脱出できるかどうかは、多分この選択にかかっている。

 墜落者ギルドがうまく技術を活用できる保証は何もない。


 ニートピアに戻ったら、もっとよく考えよう。

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