白黒つけよう

「なー?」

「なんですの?」


 藤のベッドの上で転がるハクは、横のベッドのクロに、何かを尋ねるように話しかけた。クロは寝返ってハクの方を見る。


 だが、彼女は直ぐに質問の内容は言わず、一度ふわと大あくびをした。


「すずしいな―」

「そうですわね」


 元倉庫、現宿舎のここでは、とある新顔が幅を利かせていた。


 冷蔵庫だ。


 彼はその体を開き、冷気という名の慈愛を宿舎内に振り撒いている。


 肉を全部干し肉にして、空っぽになった冷蔵庫はサトーによってクーラーとして使う許可が降りたので、こうしてフルオープンされているのだ。


 ハクは声をひそめると、クロにある提案を投げかけた。


(バチバチをとっちめるって話はもうよくね?)

(何言い出すんですの?!)


(だってさぁ、フツーにココにいたほうが幸せじゃん?)


(それはそうですけど……)


(おっちゃんも悪いやつじゃないけど―ケチだしなぁ)


(気前っていう部分ではサトーさんの方がいいですわね)


(まぁ、ここ、何もねぇけどな!)

(ですわね!)


(だからもう星王のおっちゃんの頼みはべつにいいかなーって)


(ここに住んで、あの方たちとは縁を切るってことですの?)


(元々そんなんじゃなかったしなー)

(まぁゴハンと引き換えに戦うってだけでしたですものね)


(ここってベッドも臭くないし、酒飲みは朝から晩まで騒がないしな~)

(シャブ食ったジャンキーが撃ち合い始めたりもないですものねえ)


(あっちって空気にすすが混じってたり、なんか油の浮いた水しかないもんなー)

(ここは井戸の水も、空気もきれいですものねぇ……)


(クロはまだあっち住みたいかー?)

(いえ、そう考えたら……勝てる要素、何もないですわね)


(だろーぉ?)

(貴方に言われると何かムカつきますわ)


(ひとまずバチバチと星王さまの依頼については忘れる。でいいと思いますわ)

(おー)


(そういや何週間かで出ていくって約束してたけど、あれはー?)

(サトーさん、あれでイイ加減ですし……大丈夫だとおもいますわ)


(たぶんサトー、もうわすれてるよな!)

(ええ、何も言わずにいたら、たぶんそのまま居着けると思いますの)


(サトーだしな!)

(サトーさんですし)


(じゃ、そういうわけで!)

(どういうわけですの……あら、もう寝てしまってますわ)


(でも、ハクの言う通りかしら?)


(何かサトーさんには、私達が知っている人たちとは違う聡明さがありますもの)


(ひとまず、これは壊さずに、そのまま見守ることとしましょう)


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る