星の地図
「ホントに地図なんてあるのかね?」
「きっとありますよ」
「まあ、サトーがそこまて言うなら手伝うけどね」
干し肉をつくる作業が終わり、冷蔵庫の中身が空っぽになった。
なので僕は冷蔵庫から発電機を外し、降下船を調べに行っているのだ。
「これがホントに電気をつくるんですの?」
「それ、あんまり揺すらないようにね……」
デンジャラス水筒をハクに持たせるのが怖かったので、今回は獣形態のクロに持たせている。
ハクに持たせると、なんか壊しそうな予感がしたからだ。
こういうのは、まだクロの方が丁寧に取り扱ってくれそうな気がしたし……。
なのでハクは今日はニートピアで留守番だ。
「見えてきました、あれですよ」
降下船は以前と変わらずそこにあった。
黒い流線型をした、デザイナーズブランドの革靴のようなシルエット。
金属なのかプラスチックなのか、ようと知れない質感をしたそれは、静かに
周囲の様子を見ても、特に何者かに荒らされた様子もない。
「あれがサトーの言う船かい?」
「えぇ。降下船。宇宙船と地上を往来するシャトルです」
「じゃあ、これがアレが動けば、アンタは故郷に帰れるのかい?」
「残念ながら無理です。これは宇宙を旅するように出来ていません。この乗り物は宇宙船と地上という短距離において、人や物を移動させるものです」
「なるほど。そう上手くは行かないか。バラしちまうのは?」
「やめたほうが良いと思います。この降下船先進テクノロジーの塊ですけど、今の僕らには手がつけられないレベルの技術なんで……」
「あーつまり、切り裂いて鉄クズにするのはもったいない?」
「はい」
「お二人の言っていることはよくわかりませんけど、すごいものなんですの?」
「えぇ。なので来ました。クロさん、発電機をアレの近くに置いてください」
「解りましたわ」
クロは猛禽類の手で握っていたデンジャラス水筒を下ろす。
さて、ココからが僕とポチの仕事だ。
「これから船内に入って作業します。見張りをお願いします」
「あいよ」
僕はこれから再び船内にはいり、MRの支援をもとに、電源を接続してシステムのハッキングと再起動を試みる。
まず最初にやったように、ブラックボックスの電源をバイパスしてドアを開く。
中に入ってみると、以前と様子は変わりなかった。
「久美子も変わりないようで何より」
床に転がっているミイラもそのまま。
さて、メインコンピューターに電源をつなげるとしよう。
「ポチ、ちょっと手伝って」
「キュイ!」
ポチに物理的に配線してもらって、MRの作業指示に従い作業する。
「……」
全ての権限にログインするには生体認証が必要かとおもったけど、僕が飲み込んでいたチップで認証が通った。
案外簡単に済んで驚いたが、それもそうか。
誰が使うかわからない降下船だ。そんな厳重にセキュリティ封鎖しないか。
ともあれ、ハッキングする必要がないのは助かった。
さっそくデータ化されたこの星の地図、ジオマップをダウンロードしよう。
「どこかにデータがあるはず……。ありゃ。細かく裁断されてアトラス化されてる。マップを構築し直さないと」
僕は船のコンピューターのデータから、この星の地上の画像データに座標、施設の概要が記された地図を探し出した。
だがデータは細かく切り刻まれてしまっている。
幸い、命名規則はしっかりしているので、追跡してつなげ直すことが出来る。
力づくの作業にはなるが、仕方が無い。
このデータはマシンが読み取るのを前提にしている。
だから圧縮効率の良い方法で保存してるのだ。
……人間が読み取るのを想定してないなコレ。
少し時間はかかったが、画像を編集して地図を統合することができた。
あとはMRデバイス。僕の喉にあるチップに地図を保存するだけだ。
「よし、っと」
僕は地図を球体の3Dモデルに貼り付け、地球儀として使用することにした。
これで何時でもこの星全域の地図を見ることができるな。
「ちょっと確認してみるか。ギリーさんは宙族が宇宙港を占拠しているって言ってたから、相当デカい場所を基地にしてるはず」
宇宙港なら赤道上にあるはずだ。
地球儀の中ほどをみると……あった!
赤道上、熱帯地域っぽい場所にグレーの地面が広がっている地域がある。
ごちゃごちゃして都市化した場所。ここがそれっぽいな。
長大な滑走路のようなものも見えるし、きっとここが宙族の拠点だ。
「ん……?」
宙族の拠点から、何か南へと伸びているラインが有る。
これは……鉄道か?
これはおそらく、都市に物資を運ぶための鉄道だろう。
惑星ナーロウは星全体がテーマパークだ。
娯楽施設と汚染を発生させる工場を分けるのは理にかなっている。
鉄道の線を追っていくと、奇怪な極彩色で染まったエリアで止まった。
巨大な建物が複数、パイプラインも見える。
ここはかなり大規模な工業地帯のようだ。
ふむ、ここが工業地帯だとすると……。
貴重な物資が眠っている可能性が高いな。
もし宙族や他の誰かがが、これに気づいていなければ、の話だが。
それにこの絵の具をぶちまけたみたいな地面の様子。
どう見ても重度の汚染に晒されている。
何の対策もなしで突入するのは自殺行為だ。
ここに行くつもりなら、ちゃんと装備を考えないといけないな。
……僕はふと思ったが、鉄道がまだ使える状態にあったらどうだろう?
宙族の拠点に鉄道で乗り付ける。
または略奪の後、迅速に退避することも可能にならないか?
ふむ、もしそうだとすると、色々前提が変わってくる。
この情報を墜落者ギルドのランドさんに売るのも面白そうだ。
いいね、この地図は思った以上に価値があるぞ。
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