これって持ち帰っていいやつ?
「さて、こいつはどうしたもんかね?」
サソリの死体にドカッと蹴りを入れ、ギリーさんがつぶやく。
うーん。
「すごい頑丈な殻だし、何かに使えませんかね? 防具とか」
「ここで
「ちょっと無理がありますか」
「そうだね。この大きさでこの硬さだと……ウチらのやり方だと、そのまま荒野に捨て置いて、骨や甲殻だけになってから回収。ってするけどね」
「ここ、遠いですからねー」
「いがいとイケるぞー? 食うか?」もぐもぐ
「わ!」
ハクがこっちにハサミの断面、肉部分を突き出してきた。
どうやらハサミの中の肉をつまみ食いしているらしい。
それを見たギリーさんが、何かに気づいたのか、ポンと手を叩いた。
「ハク。そのサソリ、外持っていって食っていいぞ」
「ホントか?」
「ああ、ただ、殻はあんまり傷つけるんじゃないよ。後で使うからね」
「おー、わかったぞー!」
ハクはそのまま外にサソリの死骸を引きずっていった。
なにかクロの「なんですのー!」って悲鳴が聞こえたきもするが……。
まあうん、気のせいだろう。
「さて、随分散らかっちゃいましたけど……」
「回収といくかね」
コンビニの廃墟にある商品や冷蔵庫はもちろんのことだが、棚も貴重だ。
持てるだけのものを持って、ニートピアに帰るとしよう。
後、忘れちゃいけないもの。
必ず持ち帰らないといけない、重要なものがここにある。
「冷蔵庫を動かしている発電機を探しましょう」
「それはアンタに任せるよ。私らじゃ見当もつかない」
「ええ。奥を見てきます」
「ここはもう大丈夫だと思うけどね……まだサソリがいたら叫びな。喉をやられたら、銃で知らせんだよ」
「ひえっ」
ギリーさんに脅かされた僕は、コンビニの裏方、バックヤードに入った。
妙に細長い空間には、商品の在庫や清掃用具がある。
空間の奥には別の扉、あとは店員のものと思しき、事務机があった。
あのサソリはここも荒らしに荒らしたらしい。バックヤードはひどい有様だ。
ダンボールの山が崩れて、中からは商品があふれている。
だが、缶詰や袋はグシャグシャにされ、中身は見当たらなかった。
「あのサソリ、ここで生活してたのかな……?」
ひどく乱雑な状況で、足元もおぼつかない。
僕はゴミをどかしながら前に進んで、コンビニの職員の机にとりついた。
「なにか手がかりはないかな?」
机は……引き出しには食いかけのチョコレート。炭みたいになってる。
流石にこれは食べるとかのレベルを超越してるな。鉱物の一種だ。
うーん、あとは筆記具と紙切れしか無いか。
机の近くの壁を見てみると、白い金属の箱がある。
救急箱ではなさそうだ。 電源とかのブレーカーかな?
僕は箱のフチにナイフを差し込んでこじ開ける。
すると、この箱に収められていたものがわかった。
「キーボックスか! いいぞ!」
色とりどりのタグの付いたカギがぶら下がっている。
幸いなことにインクが劣化しきっておらず、なんとか読める。
「発電室……機械室とかないか?」
こんな僻地にあるコンビニだ。
きっと自家発電で電力を賄っていたに違いない。
ならきっと……あった!
僕は黄色いタグに「発電室」と書かれたカギを見つけた。
これでよし、後は発電室を探すだけだ。
しかし不思議だな。
この砂漠の厳しい環境にソーラーパネルは長く耐えられない。
風力発電ならでっかいローターの付いた風車があるはずだ。
だけどそれも見当たらなかった。
このコンビニ、一体何で電気を作ってたんだ?
手当たり次第に廃墟の中の扉をガチャガチャして、僕はカギに合う扉を探す。
ガチャ、トイレ。便器にラバーカップが突き立っていて、トイレットペーパーが旗のように巻かれている。店員はゴリラか何かだったのだろうか?
ガチャ、更衣室。ロッカーの扉が全て外れている。中を見るとランチボックスが散乱している。やっぱり店員はゴリラだったのかも知れない。
お、カギがかかってる……ガチャ、電源室! ようやく見つけた!
……すごい、本当に発電機がまだ動いてる。
部屋の中には、静かにうなる円筒状のマシンがある。稼働を示す緑色のランプがゆっくりと点滅する様子は、まるでこの機械が息をしているようだ。
何かこれの見た目、アレに似てるな。ゴツめの水筒。
スポーツジャグっていうか、男の子向けのデザインの水筒に見える。
まぁ、デザインはともかく、いや、デザインの一部でもあるんだけど……。
この発電機ちょっとした問題がある。
「お、おう……うーん?」
発電機の胴体には、独特のデザインのシールが貼られている。
ピクトグラム、絵記号ってやつだな。黄色い背景に、中央には黒丸。そしてその円を取り囲むように、3方向に黒い台形が並んでいた。
問題はその下だ。
うねうねした矢印が下に伸び、骸骨のマークと、どこかへ逃げる棒人間。
これは俗に言う、「放射線マーク」だ。
数千年後、人類の言語が失われたとしても、その危険を示すためのマーク。
もし人類が滅んだとしても、僕らの後継者、あるいは宇宙人なんかに、ここには死に至る何かがありますよーって、危険を知らせるための絵記号だな。
うん、でだ。
……コレって、持ち帰っていいやつ?
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