コンビニ跡

「それっ!」

<ガンッ>

「もう一丁だ、ふんばりな!」

<バンッ>

「あーら、よっこいしょ!」

<ガンッ!>


 僕とギリーさんは、コンビニ廃墟のシャッターのこじ開けを試みていた。


 しかしまぁ、このシャッターがメチャクチャ手強いのだ。


 シャッターは金属の板で出来ているのだが、砂塵で表面の塗装が剥がれ、そこからサビが広がって完全に固まってしまっている。


「なー、おれがやるかー?」

「ハク、貴方がやると大事なものまで壊しそうですわね」

「えー」


「いや、ここはハクさんに……ぜぇ……おねがい」

「すると……はぁ……しようかね」


 炎天下の砂漠で運動すると、メチャクチャ体力を消耗する。

 ここはハクに任せよう……死ぬ。


 キャラバンの人が何故地図をよこしたかわかるわ。

 きっと入ろうとしたが、この頑丈なシャッターに心が折れたんだな。


「んじゃ、やるぜやるぜー!」


 <ガリッ ベリリリ! ガラガラ……>


 ハクはそのカギ爪の生えた手をシャッターに突き立てる。

 すると、鉄の板がまるで障子を突き破るみたいにして破けてしまった。


 彼女はそのままシャッターを引っ張って、べりっと鉄板を引きはがす。

 あれだけ僕らを拒絶していた鉄板は、見るも無惨なスクラップになった。


 僕らとはまるで比較にならない、ケタ外れのパワーだ。

 流石はドラゴン……。


「これでいいかー? もっとやるかー?」

「あ、うん。もう十分! ここでストップ!!」


 まだ壊し足らなそうなハクを押しとどめて、僕は廃墟の中を見る。

 ふむ……。

 ……暗すぎてなんもわからん!!!


「真っ暗で何も見えませんね……」

「外が明るすぎるから、目がそれに慣れちまってるのさ」

「なるほど」

「少しの間入り口で立って、中を見て、暗さに目が慣れるのを待つと良いよ」


 流石は砂エルフ。

 こういった廃墟を探索する時のノウハウが豊富だ。

 ぼくはギリーさんに言われた通り、入り口で少し待つことにした。


 すると、興味を持ったのか、ハクとクロが入り口に首だけ突っ込んできた。

 ……なんかこんな感じの映画みたことあるな。

 人が恐竜に襲われる、ジュラシックプラネットだったか?


「ハクとクロも入りたいの?」

「おう!」

「わ、私は遠慮しておきますわ。ほら! こういうのは逃げ道を確保するメンバーも必要ですわ」

「お、クロ、もしかしてビビってる―?」

「ビ、ビビってなんかませんわ!」


 クロは暗いのがダメなのか?

 あ、グリフォンだから鳥目なのかもしれないな?

 そんなアホなことを考えてたら、だんだんと室内に目が慣れてきた。


 お、だいぶ中がどんな様子か見えてきたぞ。

 薄暗い廃墟の中には、砂にまみれた商品棚、カウンター、そして奥には……。


「奥の方に、ドリンクをしまってた冷蔵庫みたいなのがありますね」

「扉は無事で、中身も残ってるみたいです」

「運試ししてみるかい?」

「一見無事そうに見えても……変質してるかも。やめておきましょう」


「ああ、そりゃ身を持って知ってるよ」

「根に持ってます? うちの会社のせいなんですってば」

「……やれやれだね。何がいるかわからない。慎重に行くよ」

「はい」

「おー!」


「……」

「……」

「……」


「……なにしてんだい。アンタが一番頑丈だから前に行くんだよ」

「あっ! おれかー!」


 ギリーさんに前を歩くよう指図されて、いつのまにか人の姿に戻っていたハクが前に出る。ところで服はどっから? まあいいか。

 

 その次はピストルを構えたギリーさん。で、最後が僕とポチだ。


 長い間放置されていたコンビニの中は、靴の上の高さまで砂が積もっていた。

 砂はとてもキメ細かくて、足を前に出すと、ズッと深く沈み込む。


 一見、シャッターで完全に封鎖されているように見えたが、わずかなスキマから砂が入り込んだのだろう。


 これは吸い込むと体に悪そうだ。シャツをマスクかわりにしよう。

 あっいけない。ポチが砂の中に埋まりこんでる。


「キュイ~!」

「よっ……と。お前は地面の上より、カウンターの上に居たほうが良いな」

「プイ!」


 カウンターの上の砂を払って、そこにポチを置いた。

 ポチがこっちを向いて鎮座する姿は、なんかのマスコットみたいだ。


「そこで大人しくしてるんだぞ」

「キュイ」


「完全に封鎖されていたから、生き物の類は入り込んでなさそうですかね?」

「まだわからないよ。油断しないように」

「はい」

「援護するから棚をみな。アンタが一番文明の品のことを知ってるだろ?」

「っていうと?」

「アタシらの中には、オイル缶をジュースと思って飲むバカが居るってこと」

「なるほど、じゃあ僕が見ますね」

 

 さて、商品棚の上にはお菓子なんかの食料品がおおいな。

 ポテトチップス、やチョコレート、キャンディなんかの文明の甘味がある。


 この惑星ナーロウではどれも貴重な品物だ。よく見てみよう


「お菓子の賞味期限は……印字のインクが蒸発して読み取れないですね」


「なるほど、お楽しみってわけだね」


「お苦しみの間違いじゃないです? 砂糖の塊のキャンディなら食べられるかも。砂糖と塩には賞味期限が無いって聞きますし」

「サトーのかたまりかー?」


「さとう、ね。ハクはお砂糖って知らない? 甘くて、白い粉」


「そーいえば、甘いものは毒だって聞いたことがあるぞ!!」

「槍の先に塗ったらイチゲキになるか?!」


「その発想はなかった、かな」

「ふふん!」


 さて、缶詰の類もあるな。


 ためしに振ってみると、何かが入っている感覚がする。

 どうやら腐ってドロドロ……って事にはなってないようだ。これも持ち帰ろう。


「おい、サトー。これを見な」

「はい?」


 棚の上を物色していると、ギリーさんから声をかけられた。

 珍しく顔が笑っている。


「あっちのガラス扉、触ってみな」


 そういって彼女はドリンクの詰まったガラスドアの冷蔵庫を、ピストルの銃口で指す。まさか――!


 僕は冷蔵庫に駆け寄って、扉に砂でザラザラの手を乗せる。

 ああ――


「……冷たい!」

「あぁ。コイツはまだ生きてる。電源もね」


 僕とギリーさんは顔を見合わせる。そして共に声が重なった。


「「ニートピアに冷蔵庫がつくれる!」」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る