畑をつくろう

 ――次の日。

 朝のご飯が終わった後、僕はニートピアの皆を井戸の前に集めて演説をすることにした。話したい内容はもちろん、「畑」についてだ。


 僕は井戸の前に立ち、みんなに向かって大声で呼びかけた。


「皆さん、お集まりいただきありがとうございます! 今からすこし、みなさんに向けて、話したいことがあります!」


 ざわざわドカドカとみんながあつまってくる。


 ちなみにクロとハクはドラゴンとグリフォンのままだ。

 僕は完全に二人に見下される形になってる。


 はたから見ると多分、これからイケニエにされる図にしかみえないだろな。


「キュイ!」

「おー? なんだなんだ?」

「またなんか変なことを始めだしたね?」

「サトーさんたち墜落者さんは、ホント変わってますよねえ」


 集まった皆の反応は、ううん、散々な言われようだ。

 ちょっと泣きそう。


 まあやってるのは演説台も何もない井戸の前だし、そもそも僕に威厳も何もあったものではないので、まぁこれは仕方がない。


 うん。

 悲しみを乗り越えて続けよう。

 涙の数だけ強くなれるって誰かが言ってたし。


「このニートピア、色々と足りないものがありますが。何よりも足りないものがあります。それは食べるものであります!」

「そうだなー」

「ちょっと物足りませんわよねぇ」

「プイプイ!」


「はい!!なので私サトーは畑作業の着手、農業を始める! これについて提案するわけであります」

「やるのはクロとおれだけどなー!」

「ですわよね? 普通にお願いしてくれればやりますのに」

「墜落者っていうか、人間どもはね、ああいう演説ってのが大好きなのさ」

「なんでだー?」

「あんたらドラゴンやグリフォンは特に上下を気にしないけど、人間はそうしないと気がすまないのさ」

「そうなのかー」


 こら! そこ! それ人間差別ですよ!!


「お、おほん! そういうわけで畑を作ろうと思います! 狩りに行くのも大変なので、ニートピアでお野菜を育てます!!」

「キュイ!」


 演説が終わると、パチパチとまばらな拍手が僕に捧げられた。

 なんかビミョーに白けた空気がただよっている。

 うん、やんないほうがよかったかもしれなかった!!


 でもこう……ほら、ちょっと指導者っぽい事やってみたかったんだよ!


「つまり畑を作るってことでいいんだね?」

「おー?」

「サトーさん。わたくしたちは畑を作ることには慣れてますわね。ただ……」

「え、えっと……なにか?」

「このサバンナで畑にはあまり期待なさらないほうが良いと思いますわ」

「だな!」

「というと?」


「土地が痩せているので、収穫まで時間がかかるのですわ」

「それに暑すぎてすぐヘタっちゃうんだよなー」

「そうだね。ここはちょっと厳しいね」

「なるほど……」

「そんな難しい顔をなさらないで。作物を選べば良いだけですわ」

「クロのいうとおりだぜー!」

「ほうほう?」


 さすが現地人。

 こういうのは頼りになる。


「まずジャガボチャは難しいですわね。あれはオアシスみたいな水が豊富な場所でないといけませんので。豆類が良いと思いますわ」

「結構遠い所まで取りにいったからなー!」


 いやあほんと……その節はどうもお世話になりました。


「では豆をおもにして育てますか」

「私もそれに異論はないね」

「いいぞー!」

「昨日の落花生の残りを植えるとして……他にもなにか、栽培に適したものってあります?」

「そうですわね……バカイモかしら?」

「すごい名前。なんですそれ」

「細くて赤いおイモで、粉を丸めて煮ると、美味しいお団子になりますの」


 へー!

 その加工法はなんか聞いた記憶がある。タピオカだっけ?

 タピオカの材料は何かのイモだって聞いた記憶がある。

 バカイモとやらは、それに似たものっぽいな。


「お団子……いいですね、ではそれも育てましょう!」

「「おー!」」


 さっそく農作業が始まった。

 畑にする場所、土選びは栽培のプロである、ハクとクロに任せることにした。


 彼女たちは頭を地面に近づけ、匂いを嗅いでニートピアの回りを注意深く見て回る。すこしして、どうやら目星をついたらしくクロが明るい声を上げた。


「このあたりが良さそうですわね」

「だな! やるかー!」


 彼女たちが選んだのは、母屋の裏だ。


 結果からぶっちゃけると、この農作業、僕たちは邪魔にしかならなかった。

 なにせハクとクロの二人は人間を遥かに超える大きさと力を持つドラゴンとグリフォンだ。そんじょそこらのトラクターより力強い。


 っていうか、彼女たち、トラクターくらいだったら軽くひっくり返すよね。

 いや、そういう問題じゃないか?


 ともかく、ハクは僕がむしった跡がいくつか残るアロエを、根っこごと鋭い爪で掘り起こしてひっくり返すと、豪快に土を起こしていく。


 そしてハクが荒っぽく地面を返していった場所に、クロは空気を含ませるために土を拾って盛りなおす。

 これは作物を植えるためのうねを作っているそうだ。


 あっという間に母屋のうらは立派な畑(何も植わってない)になった。

 ……この二人がいれば、フツーに機械とかいらなくない?


「最初はまあ、こんなところですわね」

「すごいですね、こんなすぐにできちゃうなんて……」

「ふっふー! すげーだろ!」


 ハクがふんと鼻息荒く自慢して吹き飛ばされそうになった。

 いやー、ほんとにスゴイと思いますよ、はい。


「ちょっといいかいサトー? 問題発生ってわけじゃないんだけど」

「はい? 何かありました?」


 畑を作る間、見張りをしていたギリーさんが僕に話しかけてきた。

 見た感じ危険が差し迫ってる様子はないけど、なんだろう?


「向こうからキャラバンが来てるみたいなんだけど、どうするね?」


お、まさか……初めてのお客さん?!

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