おいでませキャラバン隊

「どれどれ……」

「ほら、アンタの目で見えるかな?」

「うーん……あ、あれかな!」


 僕はギリーさんとニートピアの外に出て、サバンナの水平線を見る。

 すると遠くに何か動いているのが見えた。


 目を凝らしてみてみると、2頭のラクダに荷物を載せ、カウボーイハットを被って歩いている人たちが見える。人数はえーっと……全部で5人か。


「ラクダに荷物を載せて歩いてる人達が見えますね」

「ふん。規模からすると、そんな遠くまで行くキャラバンじゃないね」

「見ただけでわかるんですか?」

「まあね。墜落者ギルドのコロニーを行き来している、定期キャラバンだね」

「お、墜落者ギルドの人達なんだ。何かいい物売ってないかな」

「アンタね……どうやって買い物するつもりだい。売るもんなんか無いだろ」

「あっ」


 そうだった。

 うちのコロニーには今のところ、生肉しかない。


 ――生肉をベチャッと素手で渡して取引する図を想像してしまった。

 うん、これはちょっと……かなりキビシイ。


 もっとこう、なんか取引に使えそうなの……うーん。

 いや! ある、一応あるぞ!


「ギルドマスターに餞別としてもらったスクラップと、あとはゴブリンから奪った武器がいくらかあるので、それで買い物できませんかね?」

「銃や弾は取っといたほうが良いと、あたしは思うけどねぇ」

「むむむ」

「ま、サトーの好きにしな」


 たしかにギリーさんの言うことも一理あるな。


 そもそも、何を買うかの前に、相手が持ってる商品もわからないんだ。

 キャラバンがニートピアに入るまでじっくり考えて待つとしよう。



 僕はやってきたキャラバンの人たちをニートピアに迎え入れた。

 ちょっと安心したのは(?)彼らは宿泊希望じゃなかった。

 

 水を補給して、今日のうちに出ていくらしい。なので買い物するなら今日のうちに決めてほしいと言われた。


 で、商品はこんな感じだった。


リボルバー拳銃が2丁(なんか古い)

オートマチック拳銃が一丁(引き金を引くと、キシキシいう)

50発の拳銃弾が入った箱が10個(埃っぽい)

医薬品(箱がコゲてる)

干し肉・ドライフルーツ

薬草の種ひと袋

鉄のスクラップ

電子部品のクズ


 ふむふむ。

 武器と食料、あと素材。まんべんなく持った交易商って感じだな。

 商品の質に関しては、正直な話、良いのか悪いのかわからない。


「まあうちの商品を見てくれよ。欲しいもんがあったら何でも言ってくれ」

「色々ありますね……おすすめは?」

「こいつだな! オートマチック拳銃だ。弾をこうやってケツから入れて上のスライドを引けば……後は引き金を引くだけで弾が出る!」


 そういってキャラバンのおっちゃんは、目の前で実演してくれた。

 ゴトンっていって、弾倉が一回地面に落っこちたのは見なかったことにしよう。


「新型銃なんですか? ここらへんの人達が使ってるのは見ないですね」

「そうとも! コイツは新型だ。リボルバー拳銃の5倍は良いぞ!」

「ほうほう」


 何が5倍なのか、まるで理屈は分からないが、すごそうだ!!


「お前がどんなオモチャを使ってるかしらんが……本物の男ならこれを選ぶ」

「本物の男……!」


「それに、だ。兄さんがこのコロニーのカシラだろ?」

「わかります?」

「おうとも! なら、いい武器は目についた時に買うもんだ」

「ほうほう、それは何故です?」


 よくぞ聞いてくれた、という風におっちゃんは満面の笑みをする。


「良い武器が良いコロニーの条件だ。よく言うだろ?

――『いい社会ってのは、よく武装された社会』ってな!」


「人ってのは、お互い銃を持ってると礼儀正しくなる。ってことよ」


 ズキューンッ!!!


 オッチャンの熟練のセールストークに、僕の心は見事撃ち抜かれた。


 うわぁい! ええやん!! ええやない!!!


 もう完全にアレだ。RPGゲームに出てくるシブい店主そのものだ!

 オッチャンの口上に、僕はキュンとしてしまった。

 男の子はこういう、ちょっとカッコイイ感じの格言に弱いのだ。


 うん、実に良いものを見させてもらった。

 これは買わなければ失礼に当たる。


「じゃあこれを……あいたっ」


 ついオッチャンの熱意に負けて、スクラップを取り出そうとしたその時だった。

 僕はギリーさんにスパン!!と後頭部をひっぱたかれた。


「アンタに買い物を任せるのが間違いだったね」

「うぅ…」

「おや、なんともお美しい奥様で!!」

「やめとくれ、そんなんじゃないよ」

「これは失礼しました、して、何をお買い上げで……?」


 ふん、鼻をならしたギリーさんは、胸を張って商品を指さした。


「薬草の種の袋をもらおうかねぇ。あとは拳銃の弾を一箱。それくらいかね」

「へい! 毎度あり!」


 さすがはギリーさんだ。

 僕と違って、すごい順当な買い物をした。


「薬草があれば、ケガの手当はもちろん、熱冷ましに虫下しにつかえるからね」

「そんなに万能なんですか?」

「ああ、少なくともベッドに横になる時間は減るよ」


 ギリーさんはさっそく、薬草の種を畑に持っていった。すると、それを見計らっていたかのように、キャラバンのオッチャンは僕に手招きをした。


「まだ何かあるんです?」

「まぁまぁ。兄さん、ちょいとばかし深い話をしようじゃないかい」


 オッチャンはとてつもないヒミツを今から話すぞ。

 そんな風に声を潜めた。なんだなんだ?


「まあなんだ。ものは相談なんだがね?」

「聞くだけ聞きましょうか」

「ちょっと育てて欲しい作物があるんだけどねぇ……どうかな?」

「ほうほうほう」

「兄さん、あの姉さんとたのしみたくはないかい?」

「そういうやつですか」


 オッチャンはシーッっと指を口の前にやる。

 そして腰を激しく前後に振る。まあお下品!!


 ほうほうほう……そういうヤツですか。実に興味深い。


「いやいや、そういうヤツかどうかは分からんね?」


 そう言って、種の入った小袋を僕に見せるオッチャン。


「まあ育ってみないと、種だけじゃ、何の作物かなんてわかりませんからね」

「兄さん、見かけによらず、話がわかるね。で、どうだい?」

「見返りは?」

「ウチのキャラバンが通るたびに買い取るよ」

「ギルドマスターはどうなんですかね」

「そうだな。もう歳だからなぁ……耳がだいぶ悪くなったらしい」


 ……ふぅーむ。つまり、ギルド関係なしに個人的に勝手にやってると。


 ちょっと考えてみたが、普通にアリな気がする。


 ニートピアの特産品として、この<バキューン>な草を育てる。

 悪い話じゃないが、まるで問題がないわけじゃない。


 そう、この草を育てることで、ニートピアはどうなる?

 マフィアの抗争的なものに巻き込まれると困る。


 だが、断るのも下策だ。

 タレコミを警戒して、オッチャンがこっちを消しに掛かる可能性もあるからな。


 うーん、悩みどころだが、乗ったほうがお得だな。

 オッチャンも全部わかってて、僕に話を持ってきている。

 やり手だわい。


「おまけの薬草の種の袋をくれるんですか? ありがとうございます!」

「おうとも! おりゃ兄さんのことを気に入った! ささ、もってけ!!」


 僕はオッチャンと固く握手を交わし、小さな袋を手渡された。


 ピロリロリン♫


 サトーは「<バキューン>な草の種」を手に入れた!


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