お肉パーティ(2)

 僕はしばらく放心していたが、ポチに膝をつつかれ、ハッと正気に戻る。


「プイ!」

「そうだね。ポチの言う通りだ。とにかくお肉の用意をしよう」

「前から気になってたんだけどねぇ、アンタそれと本当に会話できてるのかい?」

「ええ。大体は出来てますよ」

「……まあ、いいけどね。肉の用意には賛成だ。とにかくやっちまおうかね」

「保管場所に運ぶのは僕とポチがやるので、切り分けをお願いします」

「やれやれだね」


 ジャッカロープの肉の切り分けはギリーさんに任せて、僕とポチは切り取られた肉を水で洗ってゴミを取り、母屋の中へとしまっていく。


 ニートピアには冷蔵庫がないから、ひとまずここに常温で置いておくしか無い。


「冷蔵庫もそのうち作らないとだな」

「キュイ!」

「ああ、そのときはお願いするよ。いまはまだ資材がないからね」


 ギリーさんによるキリシ……干し肉の作り方だが、この肉をさらに薄く切る。

 そしてカンカンに晴れた日に、ザルに乗せて天日で干す必要がある。


 そのまま干すだけでも良いとの事だが、香り付けのための香辛料、豆を砕いてペースト状にしたモノがあると、さらに良いそうだ。


 今のニートピアにはどっちもない。なので、クロとハク待ちだな。


「今できることは、これくらいですかね―」

「ところでサトー。カマドはどこだい?」

「あっ」


 うっかりしていた。

 ニートピアにはカマドやコンロといった「調理場所」がまだなかった。


 食料加工機はあるが、あれはなぁ……。

 せっかくの新鮮なお肉をピンクスライムにしたら、台無しどころじゃない。


 僕はMRからポチの建築メニューを見てみる。

 ……ふむふむ、うーん……なるほど。


 コンロは無理そうだが、原始的なカマドなら今すぐ作れそうだ。

 多量の金属を必要とするコンロと違って、カマドの素材は木や粘土といった原始的な資材でいい。これならニートピアにあるもので十分間に合う。


「カマドなら、ポチが今すぐ作れそうですね」

「キュイ!」

「へぇ、やるじゃないか。無いなら焚き火でも、って思ってたんだけど」

「せっかくですし、色々やりながらニートピアに揃えていきましょう」


「……それって、行き当たりばったりって言わないかねぇ?」

「ウッ」


 めちゃくちゃ痛いところをブッスリやられた。

 でも、実際そのとおりだから仕方がない。


 日が落ちるまで時間がない。土を集めてポチにカマドを作ってもらうとしよう。


「じゃあ始めるか」

「プイ」

「ああ、二人(?)が帰ってくる前に終わらそう」

「プイプイ、キュイ!」

「土はあるのを使うから、集めなくて良い? それなら早く終わるね」

「キュイ!」

 

 どうやらカマドは少しの木材さえあれば、ポチが作ってくれるようだ。

 僕はニートピアの近くに生えている、手頃な低木を探す。


「うん、これがいいかな?」


 目の前にあるのは、僕の身長より低い葉っぱのとがった木だ。

 まだ若く、樹皮も柔らかい。これなら何とかなりそうだ。

 木を切り倒せる斧はないから、僕はナイフを使って枝を払うことにした。


「それっ」「パシッ! パシッ!」


 しかしまぁ、僕のもっているナイフはちびたものなので苦労する。

 手でやれるのは、手でやったほうが良いな。


 僕はナイフで切れ目のはいった部分に足をかけ、枝の先端を持って幹から枝を引き裂くようにして引っこ抜く。

 すると、メリメリと音をたてて、枝がちぎれた。


「……っと、こんなもんでいいかな?」

「プイ!」

「お、迎えに来てくれたの?」

「キュイキュイ!」


 どうやら僕が一人でしば刈りしているのが心配になったらしい。

 ポチ……なんていい子なんだ。

 ウッ、やっぱりぼくの気持ちをわかってくれるのは君だけだ。


「木材はこれで十分集まったし、カマドを作りに戻ろうか」

「プーイ♪」


 さて、ニートピアの中央に戻った僕たちは、早速カマド作りに取り掛ることにしたのだが、ここでちょっとした問題が起きた。


「カマド……置く場所がないですね」

「そういや、宿舎も母屋もいっぱいだったねぇ」

「うーん、外に置くしかなさそうですね」

「プイ!」

「まあ、それで良いんじゃないかね? 下手に家の中において、煙でいぶされるよりか、ずっとマシさ」

「ですね。バーベキューと思えば、外にあるのは大したことないですね」

「火を使うんだし、井戸の近くにおいたらどうだい?」

「あ、たしかに。家の近くにおいたら火の粉で火事がおきそうですね」

「だろう?」

 

 ギリーさんのアドバイスを受けて、カマドは井戸のそばに置くことにした。

 うん、すぐ水が手に入るし、いいんじゃないだろうか。


 もし後から邪魔になっても、材料は大したことない。

 そのまま壊すなり、移すなりすれば良い。


「たのんだポチ!」

「キュイ!」


 ぼくの指示でポチが作業に取り掛かった。

 ポチが土の小山にとりつくと、バチバチと火花を立てる。

 あっというまにカマドは完成した。


「さて、あとは火をつけてっと」


 カマドに薪を突っ込んだ僕は、ウサギの毛を少しもらうと、それを着火剤かわりにして火を起こす。


 あとは切ったお肉を焼くだけだな。


「大したもんだね、そのポチってやつ」

「うちの自慢ですから。僕以外の言う事は聞けませんけどね」

「キュイ!」

「やっぱり何言ってるかわからんねぇ。っと、あっちも終わったようだね」


 ギリーさんがそう言って眺めた方を見ると、夕日で真っ赤に染まった地平線から、白と黒、二対の翼がこちらに向かってくるのが目に入った。


 

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