ゴブリンとの戦い

「まずは連中をよく見て考えよう……」


 ブラック企業で働いていた時、トイレの便器の上に貼られていたポスターの標語を僕は思い出した。


「足らぬ足らぬは工夫が足りぬ」「見て、聞いて、感じて、考えて」


 あの時は鼻で笑っていたが、言葉自体は正しい。

 何もないなら、考えるしかない。


 ああクソ、うん、ポスターの言葉は正しい。正しいんだけど、アレを喜んで貼ったであろう社長の顔が思い浮かんできて、なんか無性に僕は腹が立ってきた。


 いけない、目の前のことに集中しよう。僕は生きて帰らないといけない。

 そんで、会社のアレとかコレとかを全部暴露して、社長に報いを受けさせる。

 社長を社会的に抹殺するためにも、生き延びねばならない。


 僕はしゃがみこんでしばらくゴブリンたちの様子をうかがって気付いたが、気付いたことがある。連中の装備はてんでバラバラだ。銃を持っているものも居れば、原始的な槍や棍棒しか持っていない者も混ざっている。


 ふーむ、なんで奴らの装備は軍隊のように一定じゃないんだろう。

 ……戦いで略奪したものをそのまま使っているとか? 椅子に長く座っていられそうな性格には見えないもんな。


 落ち着いて数えてみると、ゴブリンの装備は銃と原始的な武器が半々といった感じだ。バランスが取れていると言えば聞こえが良いが、遠くから攻撃されると、半分は役立たず。入り乱れた乱戦になれば、半分は役立たずってことだ。


「ひょっとしたら、お前の力でなんとかできるかもしれないぞ?」

「キュイ?」



「コラ! まっすぐ歩くんだーよ!」

「そしたらガチャガチャとキラキラいっぱい、もらえーる?」

「もらえるーよ! だからマジメに歩くーよ!」

「でもお腹すいたーね?」

「ゴチャゴチャうるさい―ね!」


 まったくだーね。

 兄弟たちゴブリンを集めて、「カゲキな泥棒一家」を旗揚げしたは良いけどーね、皆好き勝手言って、リーダーも楽じゃないーね。


 でも今回はピカピカから


 普段のピカピカは、よくわからないことばっかり言うけどーね。

 アイツの言う通りにしたら、兄弟たちの生活も上向いてきたからーね。

 

 ピカピカのお陰で、弓しか使えなかったうちのハナタレにも「ダカダカ」が手に入ったし、服もカチカチなのが使えるようになったーね。


 ピカピカの言う通りにすれば、きっとうちの一家もそのうち砂エルフやブーブーボゥイも目じゃない、一流のビッグなワルになれるーね!


「ん、あれは何ーね!」

「ボス、何かキラキラしてるーね?」

「何ーね?」


 横に広げた隊列の左側のハナタレが何かに気付いたーね。一体何事ーね?

 そう思ってワタチがみると、そこには奇妙なものがあったーね。


 まるっとした形をした、ツボみたいなモノだーね。


「リーダー、コレ何だろーね?」

「よくわからないーね?」


 そうして、一家の全員でそれを取り囲んだ瞬間だったね。


「キュイ!!」

<バチバチバチ!!!バチンッ!!!>


 空気の破裂する音と一緒に、青い稲妻が走って、皆の体を通っていったーね。



「よし、思った以上にうまくいったぞ!」


 僕はポチをこっそりとゴブリンたちの側面に回り込ませ、連中がポチの周囲を取り込んだ瞬間に、工業用の高電圧の電気をバチッと放射させたのだ。


 バッテリーを消耗するのは勿体ないが、この際そんなこと言ってられない。なにせ命がかかってるからね。


 警告が書かれているだけあって、ポチの電撃は凄まじいパワーだった。まともに電撃をくらったゴブリン達は、ピンと体を伸ばしたまま、地面で痙攣している。


 そしてポチの放電はもう一つの効果を発揮した。


 連中が持っているマシンガン、その弾に電気が通ったショックでパンパンと弾けだしたのだ。爆竹のように弾けて飛び回る弾丸は、電撃を受けてなお立ち上がろうとした連中を大混乱に陥れる。


 さらに運のないヤツは、その弾けた弾の直撃を食らってしまい、尖ったアロエの茂みに頭から突っ込んでいた。うわぁ、あれは痛そう。


「一体何がおきたーね!!」

<パパパパン!!!>

「うわーん、助けてーネ!!!」

「ダカダカから勝手に弾が出るーね?!!」

「もう捨てるーね!!!」


 ゴブリンたちの半数はパニックになって武器を捨てて逃げ出しはじめた。


 連中が背負っているバッグにも大量の弾が入ってたのだろう。バッグを背負ったまま逃げている奴がいるのだが、そいつが暴発する弾丸で横を走る仲間を倒している。


 やっといてなんだけど、悲惨極まりないなぁ。

 もうめちゃくちゃだ。


「ここまでするつもりはなかったんだけど……なんか勝っちゃったな?」

「キュイ!」


 電撃を食らわして僕のもとに帰ってきた、ポチの姿は何か誇らしげに見える。


 僕はアロエの茂みに隠れ、逃げ出したゴブリンたちが帰って来ないのをしばらく確認していたが、どうやら帰って来る様子はなさそうだ。


 おそるおそる、奴らが残していった物資や戦利品を僕は漁ることにした。


 パニックになってゴブリンが捨てていったのは、間に合せの機関銃や短機関銃と言った銃器とナタや槍だ。あとは身につけていた鎧か。

 お、少しだけどスクラップもあるね。


 死体は……そのままにしておこう。持って帰っても特に使い道はなさそうだし、人の形をした生き物を食べるのはちょっと、ね。


 しかしこれは大収穫だね。銃はもちろんのこと、原始的な槍といった武器でも、その一部に金属が使われている。


 ゴブリンたちのおかげで少なくない量の金属と武器、そして弾が手に入った。

 これを使って拠点をすこし改善できるかもしれない。


 一時はどうなることかと思ったが、よかった。

 こんな一方的に勝利できるなら、また来て……ほしくはないな。

 とにかく、暗くなる前に急いでニートピアに戻ろう。

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