始めての料理とひらめき

「何してるんだ?」

「キュキュ?」


 足元にいるのポチに僕は声をかけてみた。

 連中が持っていた壊れかけのバッグに略奪品を入れて、僕はニートピアに向かっている。だが、僕の後に続くポチが何かをしている。

 その様子に疑問を持ったのだ。


 彼は胴体下の足を使って、砂の上に残った僕の靴の跡を掃除して砂をならしている。なるほど、これは――


「そうか、足跡を消してるのか。ポチ、お前気が利くなぁ」

「キュイ!」


 気を利かせたポチは、僕のいた痕跡をしているようだ。

 建設ロボにしては気が利いているね。工事現場はキレイに整ってたほうが事故を防げるし、前の所有者にそこらへんを厳しくしつけられたのだろう。


 まあ、ゴブリン連中がニートピアを目的にしていて、位置を知っていたとしたらこの行為に意味はない。でも、やらないよりはマシだ。


 バッテリーの節約のため、掃除を止めても良かったが、僕はポチの好きにさせることにした。ポチの犬っぽい動きは見ててほっこりするし。


 さて、ニートピアに到着した時には、かなり日が傾いていた。

 完全に日が落ちて真っ暗になる前に食事を済ませよう。


 僕はひとまず昼間に採ったアロエの皮を剥くことにした。この鎧みたいな皮がついたまま食料加工機に突っ込むと、なんか機械が壊れそうな気がしたからだ。


 獣や魚をさばくのはキツイが、野草や野菜の皮を剥くくらいなら、僕でもなんとかなるはず。アロエをバッグから取り出すと、それをテーブルの上に置いた。


「うわ、コレ大丈夫かな?」


 見るとアロエの葉を採取するために切った部分、断面が真っ黒になっている。

 鼻を近づけてみるが、腐臭のようなものはしない。

 うーん、空気に触れたせいで酸化したとか、そんな感じだろうか?


「見た目が悪いし、ここは削いでおくか」


 黒くなった部分を断ち切って、太い葉を5センチ間隔で切っていく。小さなナイフでは骨の折れる仕事だ。しかし、この次からは断面からナイフを当てる事ができるようになるので、大分仕事がやりやすくなる。


 というのも、アロエの葉っぱを普通に切る場合、それは繊維を横から切る形になる。繊維自体を切らないといけないので、大変苦労するのだ。


 しかし、切った断面からナイフを縦に入れる場合、繊維と繊維の間に刃を差し込む形になるので、カニの身を裂くような具合になる。そうすると、さっきまでの苦労がウソのように、楽々とアロエの皮が切れるのだ。


 僕は断ち切ったアロエの塊をテーブルの上に立てると、左右のトゲの部分を縦に切り落としていく。うーん、サクサク切れるぞ。


 皮を剥きおわると、半透明のゼリーっぽい中身があらわとなった。手で触れるとちょっと粘つく。手についた粘液を回で見るが、きゅうりみたいな臭いがほんのりするだけで、ほとんど無臭と言って良いな。


「野草だからちょっと心配したけど、ほとんどクセがないっぽい?」


 僕は念のためMRでアロエの情報を確認する。MRの情報によると、アロエは大量に食べない限り、生食しても大丈夫らしい。

 そして僕の手についたこのネバネバ、アロエの粘液にはアロインという物質があって、これには火傷の治癒や下剤といった効果があるらしい。へー!!


「アロエの成分を使った包帯とか作れば、キャラバンに売れないかな?」

「キュイ?」

「ほら、この世界ってケガする人多そうじゃん、簡単な医薬品の需要がありそうだなって思ってね」


 アロエならここらへんにアホみたいに自生している。これをニートピアの特産物にするのはアリではないだろうか? もちろん、他のコロニーでもアロエを加工することに着手している可能性はある。でもせっかくなら、自分たちが使う分は自分たちで用意したほうが節約になるからね。


「ちょっとネバネバがひどいな。いったん水にさらしたほうが良いか」


 僕はコロニーの中央にある井戸から水を汲んで近くにあったタライに注ぐと、そこにアロエをつっこんで水にさらして粘りをとることにした。


 このネバネバに薬効があって健康に良いと言っても、お腹がゆるくなるってのはちょっとね。それと食料加工機に突っ込んで加工すると、全部「アレ」になりそうだったので、今回は生食する方向で行くことにした。


 10分ほど水にさらして上げたアロエの果肉をいただくことにした。


「うーん、見た目は悪くないんじゃない?」

「プイ!」

 

 ぷりぷりとしたアロエの果肉は半透明で松明の色を受けて琥珀色に輝いている。陳腐な言い方だが、まるで宝石のようだ。


「さて、お味は……うーん?」


 野生のアロエの果肉を食べたのは始めてだが、ほとんど味がない用に思えた。

 文明の濃い味に慣れているせいだろうか?


 ほんのりとした苦味と青臭さはあるが、味のないこんにゃくゼリーって感じだ。

 食感自体はチュルチュルしていて、噛むと小気味よくちぎれて、飲み込む時の喉越しも悪くない。だが食感の豊かさに比べると、味があまりにも貧弱だ。


「せめて砂糖とか……あ、それでリュウゼツランのシロップか」


 なるほど、僕の中で色々繋がってきたぞ!

 このアロエのお刺し身にリュウゼツラン、アガベのシロップを足してやれば、かなりいい線に行きそうだ。少なくとも、あの食料加工機の排泄物に非常によく似た何かよりは全然良い。


「アロエ以外のバリエーションも必要だけど……ひとまず道筋は立ったぞ」

 

 あとは作業の優先度をどうするかだなー?

 ポチがいるとはいえ、基本一人で何でもやらないといけない。とにかく人手だ。人手が足りないなぁ。誰でも良いからニートピアに来てくれないかなぁ?

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