ポチの能力

「さて、この子のスペックはと……」


 略奪の終わった降下船のドアを封鎖した僕は、船を離れることにした。そして乾いた大地を歩きながら、ポチのことを詳しくチェックしている。

 まず調べないといけないのは、この子が何を建てられるかだ。どれどれ……?

 

「――ッ! ポチお前、結構すごいな」

「プイ?」


 ポチの建設指示メニューを開くと、役立ちそうなモノがたくさん出てくる。どうやらポチは発電機といったバッテリーといった大きな機械だけでなく、イスやテーブルといった細々した家具も作れるらしい。


「でも、ちょっと気になるのは、この空欄かな」

「キュイ~」


 そう。大抵のものをポチは建てれるようだが、いくつかのレシピが抜け落ちているようだなのだ。指示メニューにはポツポツと空欄が目立つ。

 建築物のデータがエラ―か何かで破壊されたのだろうか? ポチは墜落してから随分長いこと休眠状態だったみたいだしな。

 あるいは、前の持ち主、久美子が消したのかも知れない。


「建設メニューのいくつかが消えてるみたいだけど、何かわかる?」

「キュ~? プイプイ!」

「確かに。消えたモノのことなんて、わからないよね」


 僕が疑問を口にすると、ポチは語尾を上げたような鳴き声を上げる。

 何が消えたのかは、ポチにもわからないらしい。ま、無いものを悔やんでも仕方がない。後から設計図をインストールして入れてやればいいだけの話だ。


「キュイ!」

「そうだね、まだ伸びしろがあるってコトだ」


 レシピの他にも問題はまだある。シンプルで至極当然の問題。

 そう、施設を作る材料がないってことだ。


 このあたりに金属や電子製品は無い。当然ニートピアにも。

 もちろん降下船や、久美子が身に着けていた義肢を解体することも考えた。


 だが、進んだ技術で作られた降下船や、人間以上の精細な動作をする義肢を解体して、その場しのぎの発電機や調理台にするのは、僕には文明に対する冒涜ぼうとくに思えた。暖を取るために本を焼くようなものだ。


 特に久美子が身に着けていた義肢は貴重だ。あの金属の腕は鋼鉄の棒を折り曲げるパワーと、米粒に米国独立宣言書の全文を書き込める精密動作性を持っている。そんなものをスクラップにするのはあまりにも惜しい。


 さすがに骨と皮になるまで飢えたら考えるが、僕にはまだ余裕がある。降下船はそのままにしておいて、別の手段で金属と電子製品を調達することにした。


「っても、特にアテがあるわけじゃないんだよな……」

「キュイ?」

「いや、こっちの話」

「プイ」


 ひとまず思いついたのは、ポチを使って寝泊まりする場所をでっち上げる。

 で、旅人やキャラバンからスクラップを集め、それで直接作るか、キャラバンと取引してパーツを集めるといった具合だろうか?


 いまのところ建材として使える材料は石や草しか無いが、ポチならなんとかしてくれるだろう。情けないがポチを頼りにするしか無い。僕は建物の作り方なんか知らないからね。


「キュ、キュキュ!」

「ん、どうした?」


 突然、僕の足元のポチが騒ぎ出した。

 一体何だ? クルクルと回るこのジェスチャーは……、何かに気付いた?

 僕は目を細めると、あたりを見回す。すると――


「アレか!」


 ゆらゆらと陽炎で歪んだ空気の向こう、茶色い水平線に居た集団に僕は気がついた。緑色の肌をした、人間に似た生物たちだ。一見するとオークたちに似ているが、筋肉質な彼らに比べると貧弱な印象を受けた。特に身長は顕著に異なる。連中の周囲にあるアロエと比べても、その背は低く見えた。


 ナーロウの現住生物か? たしか似たような生物がナーロッパを舞台にした物語の中に居たような……。


「そうだ、思い出した。ゴブリンってやつか?」


 ゴブリン。肉体的に貧弱で、いやしい性格をしており、数で攻めてくるのが特徴の生物だ。


 目の前のゴブリン達は全部でひぃふぅ、10体くらいか? 結構な数がいるし、他の特徴からいっても、あれはゴブリンで間違いなさそうだ。


 大抵のナーロッパ物語でゴブリンはザコ扱いされている。物語やゲームでゴブリンは最序盤の敵、いわゆるやられ役にすぎない。しかし、僕は物語の主人公と違って、チートスキルなんてものは無い。

 

 ゴブリンがザコなら、僕はそのザコ以下だ。

 リボルバー拳銃一丁とナイフしかない今、あれと戦うのは馬鹿げている。


 待てよ、本当に戦う必要はあるか?

 もしかしたらオークさんたちみたいに会話や交渉ができるかも知れない。

 そもそもゴブリンの目的も不明なんだ。まずは様子を見よう


 ひとまず僕は手近にあったアロエの茂みに隠れた。ゴブリン達はまっすぐこちらに向かってくる。連中が近づくにつれて、その姿が詳しく確認できるようになった。


「あぁ……アレはなんかダメそう」


 200メートルくらいの距離まで近づいてきたので、連中の装備が僕の肉眼でも確認できるようになった。ゴブリンは鉄製の胸当てを身に着け、背中に鉄の竿を指している。問題はその竿の先端に、人間によく似た形状の頭蓋骨が突き刺さっていたことだ。もうこの時点で明らかにヤバイ連中とわかった。


 ゴブリン達は肩に不細工な形をした長銃を担いでいる。見た感じとても正規の工場で作られたとは思えない。連中の持っているものに注意を向けて、MRで情報を表示させると、「その場しのぎの機関銃」と出てきた。

 えぇ……あれ機関銃なのか。もう、ちょっとした軍隊じゃん。


 ランドさん? こんな物騒なご近所さんが居たなんて、聞いてないよ?


 連中が向かう先、つまり僕の背後にはニートピアがある。

 いまから降下船に避難してもいいが、そうすればきっとニートピアは連中の手でメチャクチャにされるだろう。


「不味いぞ、どうしたらいい……?」

「キュイ~……」

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