キャッチ&リリース
「性格診断の結果だが……君は素晴らしく独立心の強い人間のようだ。なのでサトーくん、君には新しいコロニーを任せたい!」
「えぇ?!」
僕はてっきり、どこぞのコロニーに新入りとして送り込まれると思っていた。まさか即座にキャッチ&リリースされるとは思っていなかったので、ランドさんの言葉に面食らった。うーん、どういうことだろう?
「新しいコロニーですか? 僕、サバイバルとかよく知らないので、そこらへんに放り出されたら普通に死にますよ」
「そんな追放みたいなことはしないよ! 新しいとは言え、ある程度のものは揃っている場所だ。そこへ行ってもらおうと思ってだね……」
そう言ってランドさんは地図を取り出した。手書きの地図を何枚も繋げた、パッチワークみたいな地図だ。ランドさんは地図の上に人さし指を滑らせると、ある一点を指差した。
「ここだ。『フサフサしたコアラ崖・久美子』にある、無名のコロニーだ。」
「どういう地名ですかそれ。ていうかコアラ居るんですか?」
「いや、いない。カンガルーやサイはいるが」
「カンガルーはいるんだ……では久美子は?」
「いないと思う。久美子部分の意味は私にもわからん。気付いたらこの場所はそう呼ばれていた」
「謎すぎる。誰だよ久美子」
「あまり気にするな。地図の作成者が気を回して、覚えやすいようにインパクトのある単語をつなげたのだろう」
「気の回し方が間違ってる気がする。……あ、それでその新しいコロニーとやらへ行けば良いんですか? 何があって、何をすれば良いんですか?」
「あーまずその場所だが、基本的な物はある。屋根のあるベッドと、食料加工機。そして荷物を入れるための倉庫だな」
「ベッドや倉庫はわかりますが、食料加工機?」
「墜落者ギルドが作成した調理用機械だ。牧草や生肉といった有機物を殺菌して、フードペーストとして提供する。文明世界から来た墜落者には、料理を知らない者も多いのでね」
「料理が出来ないじゃなくて、知らない、ですか? 料理なんて、食材を煮たり焼いたりすれば良いだけでは?」
「その『食材』の作り方を知っているかね? 魚や動物のさばき方は? ウサギを肉にする方法はわかるか?」
「うん、絶対無理です」
「だろう?」
なるほど、言われてみれば確かにそうだ。
この辺境世界ナーロウで、パックに入った清潔なお肉が手に入るとは思えない。お肉は当然、生きた動物からとるものだ。だが、生き物を殺し、血の滴る死体から肉や皮を剥げと言われても、僕には無理だ。
あー。だからその食料加工機とやらを作ったのか。
「ここは元々休憩所として設営された。墜落者ギルドのキャラバンが一時的に足を休める場所としてね。だが、そろそろコロニーにしたくてね」
「はぁ、何故です?」
「キャラバンが運ぶ荷物も最近増えてきてね。それに伴い、水や食料の補給がより多く必要になってきた。小さな休憩所のままでは不都合なのだ」
「あーなるほど、キャラバンや旅人をおもてなしする場所として、ここをコロニーにしたいと。そういうわけですね?」
「そうだね。ナーロウはキャラバンだけでなく、旅人も多い。君のコロニーは色々な人の助けになるだろう」
ふむふむ、大体見えてきたぞ。
一人でコロニーを経営するなんて無理だと思ったけど、頻繁にキャラバンや旅人が来るなら話は変わってくる。
そう、彼らにコロニーの仕事を手伝ってもらえばいいじゃないか。
そういえば、キャラバンってどんな連中で、どんなことをしてるんだろう?
ちょっと聞いてみるか。
「墜落者ギルドのキャラバンって、何をしているんです?」
「ギルドのコロニー同士や、他勢力との交易だね。ひとつのコロニーが調達できる資源の種類は知れている。キャラバンを維持することはギルドにとっても重要なんだ。君もコロニーに必要なモノがあったら注文すると良い」
「なるほど、覚えておきます」
「技術開発にはいろんな物資が必要だからね。キャラバンは私たち墜落者ギルドが今目標にしている、電気技術の獲得にも関わっている」
「僕がそのコロニーを運営すれば、脱出も早まるってことですね?」
「うん、サトー君の言う通りだ。君の仕事は重要だよ」
主役ではないが、縁の下の力持ちってことか。
うん、僕に合ってるんじゃないかな?
「わかりました。では早速、取り掛かりましょう。ナーロウ最高のおもてなしが受けられる、最強のコロニーにしてみせましょう」
「う、うん? やる気があるのは良いことだが、あまり気負いすぎないようにね」
「ええ、もちろんです。適当にだらけながらやろうと思います」
「それがいい。この辺境惑星ナーロウはかなり気難しい。なかなか人の好きにはさせてくれないからね。――そうだ、これも持っていきなさい」
ランドさんは懐から何かの金属部品と鉄製の機械を取り出した。
機械の方は僕でもわかる。「銃」だ。
銃はそれぞれのパーツの表面に、何かで削ったような跡が残っている。本体中央には穴の開いたシリンダーがあり、赤銅色の弾頭がひょっこり頭を覗かせているのが見える。リボルバー拳銃か。気分は西部劇だね。
だが、もう一方の金属部品はなんだろう?
文庫本くらいの大きさをした銀色のパーツは、まるでその正体がわからない。
「銃と、もう一つは?」
「これはアルミのスクラップだ。この辺境世界ナーロウでは、スチールやステンレス、アルミといった金属スクラップが通貨の代わりになっている」
「つまり……お金?」
「そうだ。この量なら銃弾1ダース、食料なら3日分になる。持っていきたまえ」
「どうも」
「コロニーまでの案内と護衛は、君をココまで連れてきたオークたちに頼むとしよう。現地はここから2日ほど行った場所になる」
「何から何まで……ありがとうございます」
「そうだ、最後に――」
「なんです?」
「墜落者ギルドへようこそ。新しい仲間を迎え入れられて良かった」
「こちらこそ」
僕はランドさんと握手を交わし、別れた。
そして、オークたちと合流し、フサフサしたコアラ崖・久美子へと向かった。
――だから久美子って誰だよ?!
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