はじめてのコロニー
「ついたゾ」
「わー、ありがとうございます」
「気にするナ、マスターから金はもらってるからナ」
僕は再びオークたちと旅路を共にして、二日かけて「フサフサしたコアラ崖・久美子」にほど近いコロニーに到着した。
ちなみに、崖は別にフサフサしてなかったし、コアラ的な要素もなかった。
何の変哲もない、普通の茶色い岩と砂しか無い崖だった。
そして、久美子に至っては――その真実は完全に闇の中だ。
この土地に名前をつけたものは、一体どこに久美子の要素を見出したのだろう。
もし命名者に会えたなら、そこの所を聞いてみたい。
まあ地名の話はもういいか、コロニーの方に注意を向けよう。
うん。ランドさんは休憩所と言っていたが、平地に在る山小屋って風だ。
石のブロックを積み上げた装飾のない壁に、平らな屋根がついている。家の大きさは工事現場のプレハブハウスくらいだろうか?
窮屈という程ではないが、大きくもない。フツーだ。
「ちょっと家の中を見てみますか」
「うム、俺たちも休憩しよウ」
さて、ドアを開けて中に入ると、まず目に入ったのは石のテーブルと椅子だ。そしてその奥には、赤と青のレバーと蛇口のついた灰色の機械があった。これが食料加工機ってやつかな?
部屋の中は当然電気がないので暗い。僕は照明器具を探して壁をみるが、ファンタジーRPGでみるような
これを使えってこと? マジ?
「どうしましょ、オークさんたち、火持ってます?」
「仕方がなイ。明かりをつけてやル」
「あ、どーも」
オークさんが何かの道具で火花を出して、松明に火をつけてくれた。ヂヂヂという焦げる音の後に、硫黄臭が僕の鼻をくすぐる。燃え上がった松明は柔らかいオレンジ色で室内を照らすが、電気の光に慣れた僕にはまだ暗く感じられた。照明一つとってもこれか。文明ってスゴイんだなぁ。
そういえば、僕はタバコをやらないのでライターの類を持っていない。今回はオークさんのおかげでなんとかなったが、コレもなんとかしないとね。
席について部屋の中を見回す。
しかしまぁ、話は聞いていたが、本当に金属製品が少ない。食料加工機はともかく、身の回りにあるモノのほとんどが石と木で出来ている。
電気どころか、これじゃ石器時代だよ。
「せっかくなので、何か食べていきます?」
「オー?」
僕は食料加工機の前に立つ。せっかくオークさんたちが居るので、この謎の機械を試しに使ってやろうと思い立ったのだ。
「ゴハンはこれ、どうすればいいんですかね?」
「説明書はないのカ?」
「えーと……あ、これかな?」
機械を調べると、本体の横に張り紙があった。
どうやらこれが説明書のようだ。なになに……?
ーーーーーーーーーー
■フードディスペンサーの使い方
1・ホッパーに付属の専用材料か、生の食材を積載する。
※注意※
ホッパーに
2・食材を積載したら、赤いレバーを引きます。ホッパーから機械の内部に食材が送り込まれ、粉砕されます。食材は3分間で完全に殺菌されます。
※注意※
ホッパーの吸い込みが悪くても、決して素手で食材に触らないでください。巻き込まれて指や手を失う事故が多数報告されています。もし、詰まってしまった場合は一時停止して、棒などで食材をかき出してください。決して無理に材料を送り込もうとしないでください。最悪の場合、圧力異常で機械が爆発します。
3・食材の消毒が終了したら、前部のランプが緑色に変わります。投入口にお皿やトレーを用意した後、青いレバーを引いて、フードペーストを取り出します。
4・食べます。
不具合の報告は墜落者ギルドまで
連絡先 周波数XXX.XXX
ーーーーーーーーーー
なるほど、大体使い方はわかったが……。
なんとなく危険な雰囲気を感じるのだが、気のせいだろうか?
でも他に食料をどうにかする方法はないからなぁ。不安だけど、説明書通りに使えば大丈夫だろ。まずはホッパーに材料を載せろとあるが……。
「材料を載せろってありますけど、何かないですかね?」
「ふム。そこにあるロッカーに、何か入ってないカ?」
「どれどれ……なんだろうこれ? 干し肉かな」
僕が部屋の片隅に合ったロッカーを開くと、独特の臭いがする茶色い物体があった。見た目はビーフジャーキーっぽいが、紙みたいに薄っぺらい。なんだこれ?
鼻を近づけて、注意深く匂いを嗅いで見る。
ふむふむ、この臭いは……ピーナッツっぽい臭いがするね。
妙な匂いだけど、腐ってはいなさそうだ。
見ようによっては、ビック◯ツとか蒲◯さん太郎の仲間に見えるな。
「なんでしょうこれ?」
「それは『キリシ』だナ」
「
「キリシ、ダ。動物の肉を削いデ、ナツメヤシや豆をすりつぶしたのを塗って干したやつダ」
「そのままでも食べれそうですね」
「うム、うまいゾ」
「でもせっかくなので機械に入れてみましょう」
「エー?」
僕は不満そうな声を上げるオークを無視して、機械のホッパーに香ばしい干し肉を投入する。赤いレバーを引くと、バリバリと音を立てて干し肉が破砕された。飛び散る破片からは、とても美味しそうな香りがした。
「うーん、いい香り。これだけ素材がいいんですから、機械を通したらもっと美味しくなるはずですよボス」
「そうかナ? そうかもしれなイ」
キリシを機械に吸い込ませた僕は、食品加工機の前についているランプの色が変わるのを待って、青いレバーを倒す。すると――
<<ブリ!ビチビチビチ!!!ブリュルルルル!!!>>
機械は盛大に脱糞のような音を出した。
おい!!! 食べ物を扱う機械が出していい音じゃないだろ!!!
しかも、備え付けのトレーの上に出されたモノがコレまたひどい。
素材の色を継承したのか、茶色いペースト状のものがトグロを巻いている。
……最悪の見た目なんだけど? ランドさん????
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