サトーの性格

「えーと、聞き間違いかな? 問題をもう一度お願いします」

「ああもちろんだ。もう一度読み上げよう」


 問1.君はおばあちゃんに拳銃を渡され、子供の頃から親しい隣人のトミーおじさんの暗殺を頼まれた。以下にある選択肢のうち、君がとりたい行動は?


 1・拳銃を受け取り、おばあちゃんの頭を撃ち抜く

 2・おばあちゃんに言われた通りに、拳銃を手に取って隣人を暗殺する

 3・失敗したくないので、ロケットランチャーとミニガンを要求する

 4・隣人を暗殺した後、口封じのためにおばあちゃんを始末する


(なんもまちがってなかったぁ?! 何この問題!!)


 いや待て、無茶苦茶な問題だが、これには何か理由があるはずだ。

 性格診断と言っていたし、答えのない問題を突きつけて、アレっぽいのとかソレっぽいのを判断する、トロッコ問題的なやつに違いない。


「えーっと……」

「ちょっと難しかったかな? サトー君の直感的な判断でもいいよ」

(直感的に殺人させないでッ?!)


「うーん、『4』で」

「ほう、それは何故かな?」

「トミーおじさんを暗殺した後、おばあちゃんにとって残る邪魔者は、暗殺の秘密を知っている僕になるわけです。なので先手を打って殺します」


 ランドさんは「エッ」みたいな顔をしている。

 いや、そういうテストじゃないの?


「なら『1』のおばあちゃんだけを殺す方法を取らないのは何故だね?」


 ふむ、論理的な判断力もテストするのか。就職面接みたい。いや、面接でこんな事フツー聞かんわ。どんな蛮族カンパニーだよ。


 ともかく、僕はこの問題の背後関係を考えてみる。

 ……うん、こういうのはどうだろう。


「僕の家族であるおばあちゃんが暗殺したい相手は、僕にとっても敵である可能性が高いからです。トミーおじさんが子供の頃から親しいということは、昔から僕の家に来ていたということですよね?」

「そうだね、それが何か?」

「他人にも関わらず、親しげに寄ってくる。下心のある人物なのは間違いないでしょう。暗殺を依頼するおばあちゃんはもちろん、おじさんも普通じゃない。両方とも始末しないと、僕の身の安全を守れません」

「……な、なるほど、次の問題だ――」


 僕はランドさんが次々と繰り出す質問に、僕なりに誠実に答えた。つもりなのだが、僕が質問に答えるたびに、ランドさんの顔色が悪くなってくる。

 うーん、何か間違えたかな?


「これで私からの質問は以上だ。あくまでも参考、参考だからね……」

「どうでしょうか?」

「う、うーん、サトーくんはユニークな性格をしているね」

「はぁ」


 ランドは診断書の結果を見ながら、心の中で頭を抱えていた。

 彼の手にある、墜落者ギルドお手製の診断書には、こう書かれていた。


【名前】サトー

【性格】サイコパス/精神的無反応/鋼の意志

【技能】得意>雑用/機械操作 苦手>射撃/格闘/工作/農業/etc…


 えーっと……サトーくんと言ったか、こ、これはどうしようかな?


 【性格】にあるサイコパスは、簡単に言えば極端に自己中心的で冷淡な性格のことだ。つまり、サトー君は他人がどんなにひどい目にあっても、一切気にかけない。


 この辺境惑星ナーロウは過酷かつ、悲惨な土地だ。昨日まで肩を抱いて笑いあった仲間が、次の日に病気や銃弾で死んだとしても、何もおかしくない。


 そうしたことがあれば、普通の人間ならショックを受ける。

 しかし、彼のようなサイコパスは、平然と普段と同じ生活を送るだろう。


 自分勝手で他人に興味を持たない性格、それがサイコパスだ。一見すると好ましくないように思えるが、この星の過酷な環境に適応しやすい性格とも言える。


 しかし、サイコパスは他人と問題を起こしがちだ。

 先述したような行動は、普通の人にとっては異常者にしか見えないからね。


 彼をすでにあるコロニーに新人として送り込んだ場合、何らかの問題トラブルを起こす可能性が高い。彼の性格はデメリットとメリットが極端なのだ。


 精神的無反応も、メリットとデメリットの激しい性格だ。


 彼は精神的な作用に対して、あまリ反応しない。例えば「汚いから不快」「美味しくないものを食べて悲しい」といった感情を持たないということだ。


 しかしこれは、逆のことでも同じことが起きる。つまりサトーは、キレイな空や美しい美術品を見ても、まったく心を動かされないということだ。


 この性格も、他人と問題を起こしやすい。

 人は「自分と感性が違う」と感じた人に対して、嫌悪感を持つからだ。


 最後の「鋼の意思」これもまぁ……なんで彼ってこう極端なんだろうね?

 この性格は、何があろうと己の意思を突き通す頑固さがあるということだ。


 彼は何があっても簡単に諦めたりせず、なすべきことをやり通すだろう。

 どんなひどいブラック企業に勤めていたとしても、彼なら耐えられる。


 しかし、これにも問題がある。

 鋼の意思を持つ人間は、普通の人なら無理と感じる事も平然とやり続ける。


 こういった性格の人間をリーダーにすると、周りの人間に無理をさせて疲弊させてしまう。最悪の場合、反乱やボイコットを引き起こしてコミュニティが崩壊する。


 そして技能面だ。彼は雑用をしたり、言われたことをやる能力は極めて高い。

 だが、誰かの指示に正確に従うということが苦手だ。


 彼がすべての責任を負うリーダーなら問題は無い。しかし、彼はサイコパスであり、誰かの命や財産に対して興味がなく、責任を持てない。


 これが彼個人の問題なら良い。だが墜落者ギルドはそうではない。

 リーダーとしても部下としてもサトーくんは不適格だ。

 上につけても、下につけても、間違いをやらかすだろう。


 うん、間違いなく銃や権力を持たせてはいけない人間だ。


 ……正直なところ、私はサトーくんの扱いに困っている。

 彼は人と触れ合ったり協力することが出来ないだろう。


 うん、ならいっそ――でなんとかしてもらうか!!

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