この星ナーロウの状況

「君の名前は?」

「サトーです。」

「まず、この星についてだが、サトーくんはどこまで知っているかな?」

「あの人(?)たちから、元はテーマパークだったと聞きました」

「なるほど、基本的なことは聞いたんだね。ならば何が問題かわかるかな?」

「はぁ、まさか……助けが来ないとかですか?!」


 焦ってスツールから立ち上がる僕に、老人は落ち着きなさいと、しわがれた手で僕を制した。


「もっと悪い。この辺境惑星はテーマパークだったのだが、経営破綻からその所有者が混乱してうやむやになった。結果、法の空白によって無法地帯と化した」

「無法地帯……」

「君も知っての通り、星間犯罪は基本、申告制だ。連邦が監視して警察権を行使するには、あまりにも銀河は広いからね。惑星の所有者が訴えないといけない」

「だけど、この星は所有者がいない?」

「そうだ。だからこの辺境の惑星『ナーロウ』は危険にさらされている」

「危険、ですか」

「うん。所有者がいないのを良いことにやりたい放題さ。たとえば……廃棄物処理業者だ。彼らは軌道上からたびたび産業廃棄物や汚染物質を投棄してくる」

「うわー。うわ―としか言いようがないですね、それ」

「ありがたい部分があるのも確かだがね。汚染物質はともかく、産業廃棄物はまだ使えるコンポーネントや金属が取れたりするから」

「コンポーネント?」

「ナーロウにはとにかく文明の物資がないんだ。電子製品や半導体、アルミといった電気を必要とするモノは、特に欠乏している」

「あー……」


 なるほど、オークが勿体ないという顔をして、砂エルフたちが素直に引いたのはあの電話のオモチャのおかげか。

 電子製品には人と同じか、それ以上の価値があるんだろう。


「そうか、元がテーマパークだから、都市とか工場、人の生活基盤となるものは最初からココに無かったわけですよね?」

「うん、そうだ。精錬や加工はゼロから始めないといけなかった。墜落者ギルドの現在の目標は、第二次産業革命の時代に到達することだね」

「歴史に詳しくないんで、よくわかりませんが……あのオークたちの服装や装備を見る限り、今は大体19世紀くらいですか?」

「まあ大体それくらいかな? 今我々は燃料として石炭や炭を使っているけど、目指しているのはその先、電気が使える時代だね」

「それで、僕は何を……?」

「すまない、話がそれた。何も君に発電のために自電車をこいでくれというわけじゃない。私達、墜落者ギルドの話をしよう」


 咳払いをした老人は、襟元を直すと話を続けた。


「墜落者ギルドは、この星に墜落した人々によって組織された、お互いを助けあうための組織だ。ギルドの目的はただひとつ。この星からの脱出だ」

「星からの脱出……」

「そうだ、この星を脱出するための、宇宙船の建造だ」

「宇宙船ですか? 高出力の無線で他の星に助けを求めればいいのでは?」

「残念だが、それは無理なんだ。この星は無線を妨害するEMPフィールドに覆われている。地上での通信はできるが、星間通信はできない。通報を恐れた廃棄物業者か、彼らの親企業の仕業だろう」

「あー……後ろめたいことするなら、当然そういうコトもしますよね」

「ああ。それに妨害の発信源も不明だ。軌道上の人工衛星か何かだと思うが……」

「それを撃ち落とすにも、人工衛星まで届くロケットじゃないといけない。つまりどっちにせよ、宇宙時代の技術が必要ってことですか」

「そういうことだ」


 なるほど、思った以上に難しい状況にあるようだ。

 ん、っていうか――


「まさか、この星に僕が墜落したのって……」

「そのまさかだ。君の船はこの星を包むEMPに引っかけられたんだろう」

「えぇ……なんじゃそりゃ」

「君の気持ちはよく分かる。かつて私も君と同じ気持ちだった。この髪が白くなっても、あの時の困惑と怒りは覚えている」

「墜落者ギルドのマスターっていうくらいだから、ランドさんも墜落者……?」

「ああ。私が墜落者ギルドを組織した目的は、君や私のような不幸な巻き添えをくらった墜落者たちの手助けをし、共に助け合ってこの星を脱出する事だ」


 うーん、ランドさんは思ったより立派な人だった。

 ひとまず、彼の言うことを聞いたほうが良さそうだな。

 奴隷にされるわけではなさそうだし、どうせ行く当ても無い。


 僕はランドさんに、協力を申し出ることにした。


「わかりました。僕も墜落者ギルドに協力させてください」

「きっとそう言ってくれると思っていた。では、早速簡単なテストをしようか」

「テ、テストですか?」

「そんな難しく考えなくて大丈夫だよ。ほら、墜落者同士でも、気の合う、合わないは当然ある。それを判定するための性格診断だよ」

「性格診断ですか? あなたは勇者タイプ、賢者タイプみたいな?」

「そうそう、もっと具体的に言うと……菜食主義者ヴィーガンが肉食主義者のコロニーに入らないようにとか、特定の好き嫌いやくせを判断するためのものだ」

「ああ、なるほど。納得しました」


 ランドさんは背後にあったファイルキャビネットから用紙を取り出すと、僕に向かって問題を読み上げ始めた。族は注意深くそれに耳を傾ける。だが……。


「テストを始めよう。ではまず――」


 問1.君はおばあちゃんに拳銃を渡され、子供の頃から親しい隣人のトミーおじさんの暗殺を頼まれた。以下にある選択肢のうち、君がとりたい行動は?


 1・拳銃を受け取り、おばあちゃんの頭を撃ち抜く

 2・おばあちゃんに言われた通りに、拳銃を手に取って隣人を暗殺する

 3・失敗したくないので、ロケットランチャーとミニガンを要求する

 4・隣人を暗殺した後、口封じのためにおばあちゃんを始末する


「さて、何番にする?」

「……はい?」

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