え? エルフもいんの?

 馬に乗ったオークたちは一列になり、古代遺跡みたいになったアスファルトの道を進む。


 この星の由来は知らないが、かつて高度な文明があったらしい。ひび割れたアスファルトの道路には折れたり先端のライトが壊れた街灯が等間隔に並び、道の左右には、角が風化して丸くなったコンクリートのブロックが並んでいる。


 それだけならワビサビだねぇ、で済むのだが……時々、銃で撃ったような跡が残ったブロックが目に入る。やっぱ荒っぽい世界なんだな。


「この星って一体どういう?」

「オレも詳しくはわからんガ……テーマパークだったらしイ」

「テーマパーク?」

「ウム。なんでも、昔の物語の世界『ナーロッパ』を再現したとかデ、遺伝子操作された生物たちでテラフォーミング……ようは惑星を改造したらしイ」

「なるほど……その改造が失敗したとかで、この姿に?」

「イヤ、惑星改造は上手くいっタ。だが、普通に人気にんきがなくなって倒産した。親会社も管理を放棄しタ。その間に色々あったらしク、たらい回しにされて登記が混乱しテ、所有者不明。管理するやつもいなくなっタ」

「めっちゃリアルで世知辛い理由だった」


 なるほど、この星は「ナーロッパ」とかいうテーマパークの残骸なのか。

 遺伝子操作された生物ってのは、まあ彼らオークのことだよなぁ……。


 ――ナーロッパ。


 たしか、母なる地球の一地域の「ヨーロッパ」と、ナロウとかいう空想世界を掛け合わした言葉だったかな? で、それをテーマパークにしたが、経営難かなんかで惑星ごと廃墟になったってコトか。


 困ったのはスタッフたちだろう。惑星規模の従業員を、倒産した企業が助けるとは思えない。経営者連中はがっぽり退職金をもらって逃げ出して、弱い立場だった彼らはこの星に捨てられ、そのまま生きるために野盗となった、てな感じか。

 わぁヒデェ。


 あれこれ星の歴史を僕が考えてると、突然、ピタリと馬の足が止まった。


「どうしたんです?」

「問題発生ダ……オマエは頭を下げてろ」


 ボス(仮)の脇腹から前の道を除くと、細面で長い耳を持った人間が並んでいる。まさか、ファンタジー定番のエルフか?!


 ……いや、エルフか……アレ?


 僕の想像するエルフって、「私達は戦いを好まない」とか「我々は木々を愛し、森と共に生きていく」みたいな感じなんだけど……。


 目の前のエルフ(?)は、体に銃弾のベルトをジャラジャラ巻き付けて、手には重そうな機関銃と狙撃銃を持っている。頭にはトゲの付いた黒いヘルメットを被っていて、その額にはギザギザの歯を剥き出しにした口と、血走った目玉が描いてあった。


 どーみてもエルフって言うより、反政府ゲリラやテロリストにしか見えない。


「我々は血みどろの戦いに生きる」とか、「炎と硝煙の香りを愛し生きていく」そんな言葉が似合いそうなエルフたちだ。


 花の香りより、火薬の匂いを嗅いでそう。


(なんですかアレ? エルフ……なんですか?)

(よく知ってるナ。あいつらは砂エルフっていう連中ダ。喧嘩ッ早くて欲深イ)


 ボス(仮)と話してると、一人の女エルフが僕たちの前に進み出てくる。

 わぉ。


 進み出てきたエルフは、形の良い顔を波打った長い金髪で飾り、胸を強調した世紀末風ボンテージファッションに身を包んでいた。革のベルトで体のシルエットがやたら強調された衣装は、独身者が夜のお供にする動画共有サイトに出てくる、質の低いコスプレみたいだった。


 下半身の血流を活性化するその姿に、実にけしからんと僕はうなった。


 金髪のいかにもおねーさまとか女王様って感じのエルフは、ピストルを持ったままモデル立ちして、僕らの前に立ちはだかる。


「これはこれは……『ブーブーボゥイ』が、ウチの獲物を横取りかい?」

「先に見つけたのはこっちダ。ギリー。荒野の掟を守るんだナ」

「そうダ。ボスの言うとおりダ。荒野では拾ったもの勝チ」


 エルフが口にした名前は、このオークたちの派閥かなんかの名前だろうか?

 「ブーブーボゥイ」っていうんだ。なんかカワイイ。

 で、ギリーてのがあのおねーさまの名前か。たしかにギリギリ感はあるが。


「へぇ、じゃああんたらは、このあたしを手ぶらで家に返そうってんだね?」


 彼女の背後に居た手下がわざとらしく「ガチャリ」と銃を動かす音を立てる。するとオークとエルフの間に剣呑けんのんな雰囲気が満ちた。


 ヤバイ。このままだと勝手に争い始めて、巻き添いで穴だらけにされる! 共倒れは願ったりだが、ボス(仮)の後ろにいる僕の方には、間違いなく弾が飛んでくる。何か、何か……僕にできる打開策はないか?!


「あの、これで良かったら……」


 僕は唯一の財産。脱出ポッドから持ち出した荷物を差し出す。 


 つまり、ビニール袋代わりにしてるぶっ壊れたテントと、プロテインバーに医療キット、そしてオモチャの電話だ。我ながら悲しいくらいにショボい。


 僕の差し出した荷物をひったくるように手に取ったボス(?)は、えぇ……マジで? みたいな顔をしたが、しょうがないでしょ。これしか無いんだから。


(こんなもんしか無いですけど)

(うむむ……惜しいガ、仕方がなイ)


 え、そっち? どんだけ貧乏なのこの人たち?


「分け前をくれてやル。コイツの持ってた荷物ダ。」

「素直で何よりだね。弾代が浮いたよ」

「ふン」


 受け取ったビニールをガサガサするエルフの手下。すると、手下は驚愕した表情で手に持ったそれを女エルフに見せた。


「あ、姉さん! これって!!」


(あ、それ500年前の……!)


 エルフたちはプロテインバーを手に取ると、その場で包装を剥いてかじり付いた。いやー、それ食べるのは、やめたほうが良いと思うなぁ?

 

「いいねぇ、文明の味ってやつだよ」

(うん、文明は文明でも、古代文明の味ですけどね)

「土かじってるみてぇですが、これが文明なんですかい?」

「ハッ! アンタにはまだ早かったかねぇ?」

(……いや、うん、キミの反応は正しいよ、エルフその1くん。多分、文明の味の中でも最底辺だからそれ)


 しばらくして僕らはカツアゲエルフと別れた。

 銃を持った追い剥ぎが平然と闊歩かっぽしてるとか、警察ポリスメンとか、いらっしゃらない感じですかね?

 この星、思った以上にヤバそうだなぁ……。

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