馬上面接

「さぁ乗るんダ」

「あ、これはどうも」


 僕はリーダーっぽいオークにうながされて、彼の馬に同乗した。


「ブッヒュルルルルン!」「わわ!」

「馬に乗るのは初めてカ?」

「はい、生き物に乗ったのが初めてです……」

「現代っ子ってヤツだナ」

「はぁ」


 きっと彼らは極悪人に違いないのだが、話してみると悪いやつに見えなくなるから不思議だ。ストック何とか症候群ってやつだろうか。


「お前は運がいい。ギルドはここから半日もない場所ダ。すぐにつけるぞ」

「えぇ……」 


 最悪だ。近いってことは、逃げるチャンスがほぼ無いってことじゃないか。

 夜になったらこっそり逃げ出そうと考えていたが、ギルドとやらがそんなご近所にあるとは思わなかった。完全に当てが外れた。


 クッ! どうすれば……?! ――そうか!


「乗り物酔いするタチなので、ゆっくり行ってくれると助かります」

「オマエ……見た目通りのモヤシっ子だナ。ワカッタ」


 よし、上手く行ったぜ。このオーク、悪人にしてはわりと良い人だ。お馬さんの足並みをポッカポッカとのんびりとしたものに抑えてくれた。


「オマエ、名前ハ? 墜落する前は何してた?」


 リーダーらしきオークから、世間話に見せかけた質問が飛んできた。

 むむむ……これは気をつけて答えないといけないぞ。


 彼らが奴隷商的な存在だとしたら、奴隷の技能はとても重要なはずだ。

 奴隷の技能=値段だ。


 もし、たいしたこと無いヤツとなったら、コイン一枚で売り払われ、劣悪な環境の鉱山に送られるなんてコトは、十分有りえる。

 すくなくとも、


 といっても、どうしよう? 僕はただのサラリーマンだから、特別な技能は持ってない。そもそも、このサバンナみたいな荒野が広がる辺境世界で役に立ちそうな技能って何だ?


 ぱっと思いつくのは医者だ。この荒っぽい世界なら、病気やケガには事欠かないだろう。医者の需要が高いのは間違いない。次に重要そうなのは、その怪我を作るための道具を作る人だ。刃物や鉄砲を作るための工芸の技術を持つ者も高い価値を持つだろう。


 残念ながら、どちらも僕にはできない。

 うーん、じゃあ……3番目でいこう。


「名前はサトーです。某ブラック企業で、経理を担当していました」

「あー……そんな感じはしたナ。ツルハシ握ってるタイプには見えなイ」


 経理とは平たく言えば「数を数える仕事」だ。

 金品の数、その出入りを記録し、企業や個人の財産を管理する。それが経理だ。

 こういった世紀末世界でも、この仕事は必ずあるはず。


 というのも、彼らオークが口走った「ギルド」という単語。この言葉がそれを裏付けている。臓器密売ギルドか何かはしらないが、売買を行い、金が集まる場所があるなら、それを記録する必要がある。

 経理のできる人手は、いくらあっても良いはずだ。

 

 過酷な肉体労働を避けつつ、比較的環境の良い場所にいくなら「経理」がベストだろう。金はもちろん重要だが、その情報も大事なものだ。


 経理がいじくり回すのは数字の集合体に過ぎないが、それ自体に価値がある。そういった価値あるものが集まる場所には偉いやつ、つまりボスがいる。


 つまりだ、金の情報を触っている限り、僕の安全も確保できるということだ。

 うむ。我ながらクールな回答じゃないだろうか。


 ちなみに、経理は僕の専門じゃない。というか、僕は専門分野というものがない。僕が務めていたブラック企業では、一通りの業務を雑用として行っていたから、自分でもどの業務が専門なのか、まったくわからないのだ。


 ――クッ、自分で言ってて悲しくなる。


「サトー、仕事は経理。なるほど、マスターが喜びそうダナ」

「へへへ、文明世界では働き者で有名でしたので、よろしくお願いします」

「オー?」


 僕は早速こびを売り始めていた。ブラック企業に努める僕は、圧倒的従順さでもって漆黒の縦社会を生き延びた。暴力と長いものには巻かれるタチなのだ!

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