第一村人は緑色
ささやかな全財産を前に、僕はボーッとしていた。
このサバンナで生き抜くには、目の前の装備はあまりにも貧しすぎる。
(クソ! ブラック会社が非常用品に金をかけるわけ無いよなぁ……)
闇よりも深い黒をした、暗黒ブラック会社のやることだ。
払下げとは言えこんな装備はありえない。非常食がプロテインバーなんて聞いたこと無いし、無線機は無線機ですら無かった。音割れした人工音声が再生される、女児用の電話のオモチャだ。ナメてんの?
もとからあった装備は売ったか何かしたに違いない。
この装備では絶対死ぬから、クレームも絶対来ないと踏んだのだろう。
この時代、企業といえば大体こんなものだが、あまりにもひどすぎる。きっと僕は誰にも看取られること無く、このサバンナで乾いていくのだ。
絶望した僕は、いっそ自分で命を絶とうとも考えたが、手持ちの道具ではそれも難しい。プロテインバーで喉をつまらせる以外に方法がなさそうにみえる。
「窒息死って一番苦しい死に方って聞くし、それは嫌だなぁ」
変色したパッケージを手の上で転がしながら、僕は見るともなく、サバンナの大地を見る。すると、さっきまで何もなかった水平線に砂煙が見えた。
「まさか、人?!」
うっかりしていた。生身で生存可能な惑星なら、人がいてもおかしくない。きっと彼らは脱出ポッドが落ちるのを目撃して、救助に来てくれたのかも知れない。僕は残骸となったビニールテントの骨を手にすると、旗の代わりにして一心不乱にぶん回す。
(頼む! こっちに気づいてくれ!!)
相手が何者かは分からないが、見知ったブラック企業の上司よりは、辺境の蛮族の方がまだ信用できる。僕の願いが通じたのか、横に向かって伸び始めていた砂煙は、まっすぐ立ち上るような形になった。
砂煙の主が、こちらに気づいて進行方向を変えたに違いない。
数分の
だが、彼らは平均的な人間とは、ちょっと異なる姿をしていた。
まず、肌がちがう。緑色の肌だ。身長は僕よりずっと高く、2メートルを越えている。そして3人ともボディービルダーみたいな屈強な肉体を持っていて、顔も人間とは異なっていた。
潰れたように低い鼻と、口元には白い牙。彼らの顔はファンタジー世界をテーマにしたゲームに出てくる「オーク」を想起させる。
いや、というかオークそのものだ!
オークが馬に乗った姿の違和感もすごいが、装備も……なんとも言えない。
なめし革のカウボーイハットにベストを着て、腰のホルスターにはリボルバー拳銃が無造作に刺さっている。まるで4000年前の西部開拓時代のようだ。
しかし、その古風な格好にも関わらず、ブーツに突っ込まれたナイフは軍用の単分子ブレードだし、リーダーらしきオークが身につけている粗雑な鋼の胸当ての表面にペタっと貼られているのは、
ここで僕の脳裏に浮かんだのは、彼らが「略奪者」の類なのでは? ということだったが――どうやらそれは正しかった。
馬から降りた二人のオークに両脇を固められ、僕は体をまさぐられる。
そういう趣味かと思ったが、もっとえげつない理由だった。
「インプラントはなさそうダ」
「人工心臓とか、つけてるカ?」
「いえ……生身です!」
「ふーむ、見た感じは健康そうだし、まだ若イ、いろいろ取れそうダ」
この会話の意味は……つまり、このオークたちは僕の体に強化視覚や内臓のインプラント、義肢なんかがあったら、それを引っ剥がして売るつもりだったのだ!「いろいろ取れそう」とは、僕の内臓を取り出す気にちがいない。
明らかにヤバイ連中だ。そして、黒いカウボーイハットのオークから、極めつけのセリフが僕に投げかけられた。
「ギルドがお前にいくらの値をつけるか楽しみダ」
ヤバイ、ギルドがどういうモノか分からないが、これは絶対にヤバイ。
このオークたちは、僕をギルドとやらに売る気だ。ギルドとはシーフギルド、強盗ギルド、そんなものに違いない。
オークたちの隙を見つけ、なんとか逃げださなくては……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます