墜落者ギルドへようこそ!ーエルフやオークがいる辺境惑星に遭難した俺、頼れる(?)仲間たちとコロニー経営して生き延びます!

ねくろん@カクヨム

遭難

「何だこりゃ……廃墟しか無いじゃないか」


 目の前に広がる大自然と、点在する石造りの家の廃墟を見る僕。

 ドキュメンタリー映像でみるようなサバンナの大自然。その中にはかつての人の営みが廃墟となってかろうじて残っている。

 そして、それを見る僕は、着ているシャツとズボンの他には何も持っていない。


 つまり、絶賛遭難中だ。


 落ち着こう。

 まず、なんでこうなったのかを思い出そう。


 僕ことサトーは宇宙船に乗っていた。目的は……通勤のため。

 西暦5500年の今、ブラック企業に出社するのも宇宙を旅しないといけない。


 3000年前と違うのは、冷凍睡眠によって体感的には一瞬でつけることだが――

 まあそれはいい。問題はドケチなブラック企業のせいで事故ったってことだ。


 うちの会社が通勤に使わせていた宇宙船は軍から払い下げられた1000年前のポンコツで、とっくの昔に安全保障期間が切れていた。

 前々からヤバイなとは思っていたが、案の定事故ったらしい。


「不安な気はしたんだよなぁ」


 誰でも宇宙旅行ができるこの時代でも、完璧な安全は保証されていない。

 とはいえ、自分がその立場になるとは。


 視界を真っ赤に染める赤色灯と、けたたまくわめきちらすサイレンに追い立てられ、目の前にあった脱出ポッドに乗り込んだことを思い出す。轟音とともにポッドが排出される衝撃で気絶した。で、目が覚めたらこの状況だ。


「……そうだ、脱出ポッド!」


 脱出ポッドには、墜落者が使うためのサバイバル用品、食料や無線機なんかが載せられているはずだ。まずはそれを探さないと。


 僕は降下ポッドの内部に備え付けられている金属製の箱を開くと、中に入っているものを確かめる。だが――。


 中に入っていたのは、賞味期限が500年前に切れたプロテインバーが5本。そして、品質保持期限が何枚ものテープで上書きされた緊急医療キットが1つ。最後に穴だらけのビニールテントが一張。


 何もかもがボロボロだよチクショウ!!


「でも、さすがに救助用の発信機や無線機は無事だろ……無事であってくれ!!」


 ポップなデザインをした無線機のダイヤルを僕は回す。緊急回線の3ケタを入力すると、手元の機械の通話状態を示すランプが光った。


「よし、つながったぞ!!」


 しかしこの無線機、随分クラシックな作りをしている。数千年前の電話タイプだ。僕が受話器を耳に当てると応答AIなのか、女性の声が聞こえてくる。


『こんにちわ!わたし、ミカちゃん、お話しましょう!』

「ミカ、僕は遭難しているんだ、現在地は不明、救助を――」

『ミカちゃんね、この間新しいお洋服をパパにかってもらったの』

「……は?」


 ミカと名乗った人工音声は、僕の助けを求める声に対して、服を買っただの、友だちと遊んだだの、自分の身の回りの日常の話を続ける。つまりこれは……。


「……ただのオモチャじゃねーか!!」


 僕に受話器をガチャンと叩きつけられたオモチャの電話は、ビーと異音を立てると、完全に沈黙した。


(500年前の保存食に、壊れたテントとオモチャ……これでどうしろと?)


 途方に暮れた僕は、サバンナの乾いた大地の上でしばらく立ち尽くしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る