君が好きなのはわたしじゃない。

西出あや

プロローグ

 ねえ、みんなはこんなこと言われて信じられる?

 この世には、人間のフリをして暮らしている、人間じゃない人たちがたくさんいるんだよ、なんて話。

 わたし葉月はづき瑠子るこはね、人間じゃない人たちがわかっちゃうんだ。

 どうやって見分けるのかというと……。


 ひぃっ!!

 あの先輩たちって、全員悪魔なの⁉

 体育館のステージ上でライトに照らされ、四方八方に伸びた影が不気味な形に揺れる。

『おめえら! 俺らの演奏、しっかり聴きやがれ!』

 会場をあおるように叫ぶと、ジャーン! とギターをかき鳴らして演奏がはじまる。

 だけど。

 なんなの、この不協和音……。

 頭の中がぐわんぐわんする。ダメ、このままじゃ吐きそう……。

 わたしは人混みをかき分け、体育館の出入り口によろよろと向かった。

 なんでみんなアレを聞いても平気なの?

 平気どころか、みんな体を揺らしてノリノリ。信じられない。

 体育館を出るときに、刺すような視線を感じておそるおそる顔をそちらの方へ向けると、ステージ上でスタンドマイクにかみつくような勢いで歌うギターボーカルの目が、わたしのことを睨みつけていた。

 体がビクッと大きく震える。

 過去にも一度、あんな悪意に満ちた目に睨まれたことがある。

 あのときのことは、もう二度と思いだしたくない……。

 歯を食いしばってステージから顔をそむけると、体育館の外へと飛びだした。

 がしゃんと扉を閉めると、その場でうずくまる。

 体の中にたまった悪いものを全部吐き出すように深く息を吐くと、新鮮な空気を肺の中いっぱいに吸い込んだ。

 一体どうなってるの、この学園⁉

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