第24話 Rule
#1 大使館
煉瓦造りの三階建て建築物。
強化ガラスの窓に露が点く程暖房が効いている。
顎髭を蓄えた老紳士と眼鏡の中年男性が応接セットで向かい合っている。
「里帰りした御姫様は」
老紳士は蒸かした芋の類の揚げ物を一口食べる。
「彼氏とは上手く行って無いようですね」
同じものを食べていた中年男性は食を止めてグラスのレモン水に口を付ける。
「結ばれても困る」
姫と御曹司の恋愛をマスコミは未だ知らない。
中年男性は音楽の掛かった部屋を見回す。
二人の他に使用人も居ないしドアは閉まっている。
治外法権とは言え間諜の危険を避けきれない。
確認してメモリを老紳士に渡す。
「未だしばらくね」
♯2 国家公安委員会
「社が一つ潰れそうじゃないですか」
「驕りだったんでしょう、老舗の」
社とは湯没の社。先ごろ社全体で違法に薬物使用していたことが発覚し、国家公安委員会の議題となり正式に営業停止になった。
「対策不足と」
闇の闇に因る闇な対策。
「テロに発展しかねない様ですが」
事態を知った国民が一部武力闘争に打って出ていた。
「活動家が目を付けだした」
選挙前で煮え立った国の全域であらゆる活動が活性化していた。
公安委員会にしてみれば不穏な状況としか言いようがなかった。
各地とも司法勢力による取り締まりは行われていたが、味方の取り締まり迄は出来なかった。
「少し取り締まりを厳しくしますか」
「凍結、と言う訳ですか」
一旦脱法経済活動を凍結してほとぼりの冷めるのを待つ。古今東西よく在る危機回避方法。話は収まったようで誰も凍結に異を唱えなかった。
話が変わる。
「八世が帰ってきたそうじゃないか」
「先祖返りされてもな」
此処はもともと八世の先祖が知行していた国だった。
「国家には忠誠を誓っているのだがね」
原則既得権益は手放なさない、其れがポリティクスと言うものだった。
♯3 湯没
煉瓦造りの三階建ての建物。此処ではこう云った建物は多い。
防音設備が完備され中から見た外は模型のように静かだった。
服を着ていないような女を前に男は見定めるように視線を上下した。
「如何です」
秘め事に他人は無用でも殺されては叶わない。常に傍にいるのが側近だった。
「ああ、まぁ」
女は明らかに安堵したようだった。店を貸切るような大物は貸切って何をするか解からない。危ない遊びに走られたら困るのは従業員だった。嫌な話ではある。
「取り替えますか」
店貸し切りなのだから好き放題にチェンジすればいいものを。
しかし、男の不機嫌は女の良し悪しではなく。
「法が通過するそうだな」
「ええ。恐らく」
「閉じた者は閉じたままに」
「ご采配次第です」
♯4 宇宙港
アントレ海を渡ると無人の荒野が広がる。
人類の版図の外にある辺境領域。
上陸して100㎞程北上したところ、カルデラ風の盆地の中に其処は在った。
「コイル等亡んだものと思っていたが」
「軌道エレベータでは」
「発見されるか」
「貨物船は?」
「三時間後に射出です」
「食事にしよう」
♯5 Rule
「消えたは」
何の話かと思えば、食堂で黒音が切り出した話は湯没女子高生の話だった。
「シンメちゃん?」
「あらゆる情報網に引っかからない」
「警察調べ?」
「行方不明になった」
高度情報管理社会の此の街で人が居なくなるとは文字どうり蒸発でもしない限りあり得ないと言えるはずだった。その情報探査を駆使して人探しできるのが警察。だから警察の情報網に引っ掛からなくなったと言う事は「行方不明」に成ったと言う事だった。黒音は未だ食事に手を付けていない。
「当面お手上げ」
嫌な現実でも直面していることが現実だった。
現実を現実と認めて其れを対象とすること。
其れが現実を生きる最初のRuleだった。
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