第25話 奴らに勝てない訳
#1 オジ-の町
「いらっしゃいませ」
スマイル、スマイルと先輩につつかれる。
ぎこちなく笑うと、アルカイックスマイルに成りそうだった。注文を復唱して会計を済ませる。ぎこちなく笑って客を待機列に送ると次の客がもう待っていた。
「休み時間は?」
迂闊に私語は出来ない。ひきつった笑いを浮かべつつ、
「いらっしゃいませ」
と言うと、日乃は
「チーズバーガーとコーラS」
とそっけなく言った。
何でこんな忙しい時間にと呟くと、アガリだからて聞いてたからだよ、と呟かれた。
黒音さんアガっていいわよ、と先輩に言われカウンターから出る。
「お先ですーーリアンは?」
「男が出てきては仕事にならンだろうと」
「遠慮?」
「配慮だろ」
クロークの階まで階段を上がる。
日乃も一緒に上がってくる。
「何処で合流?」
「駅。食べながら待ってるよ」
二階で別れて日乃は席に着いた。
#2 私鉄沿景
流れ去っていく沿線の景色。
オジ-の町から10駅程通過。
御彼岸も過ぎてるが塔婆が立っていたり、煙が上がっていたりする寺。人気の絶えた無人を思わせるマンション。大きな病院。幾つかの駅がステンドグラスで、地下鉄と接続しているジャンクションもある。高速は通ってないので、自動車よりは電車の方が早い。
電車の中は静かなので三人とも話さない。
只流れ行く景色を見ていた。
#3 深理の事務所
クローズの西側、環状線の南西の町に深理の事務所はあった。東口に出ると、秋はもう深まって来ていたが、人々の服装以外あまり季節を感じられなかった。其だけ都会なのだろう。
「駄目でしたよ」
「敗因は判った?」
「良く判らないですが、法律ではないような」
「勝ててたと」
「大体」
「其でも結局救助不能、と」
テレビではRCSW法制定を巡って与野党が論陣を張っていた。
「権力に負けたんじゃないかと」
「権力?」
「法律どうり事が動かないんですよ」
「脱法されてるだけじゃ?」
「解りません、難しいです」
深理は奥のデスクに深く座っていたが身を乗り出して机に両肘を突いた。
「仏弟子に成ってみる?ーー権力にも勝てるかもしれない」
#4 アントレ
大陸全体を巡る環状線と海の接点にある町アントレ。暖流の暖かい水の流れるアントレ海には時おり全長100前後のフェリーが通る。夕方山脈に沈む夕日の残照を受けて船は赤く染まっている。さほど人気の無い漁村のようなアントレの人口密度1000㎡に一人か二人程度。人口の殆どは駅周辺に集中しているようだった。
人影は疎ら。しかしどの建物にも明らかに密集した人の気配があった。海風ではない「声」。
活動家の改革運動も此処では影を潜めていると言うのに。
足首に嵌められた小さな重りを煩わしそうに同僚が近づいてくる。
「なに見てるの」
「海。じゃなくて人かな」
「待ち人は?」
「ーー」
足枷が無い分遠くまで移動できる。
「いいわね、自由で」
足枷はないが、首輪は嵌まっている。特殊な首輪。
「そうね」
そろそろ戻らないと夜に成るわよ、と同僚が揶揄る。
「何て言ったっけ待ち人」
未だそう遠くないのに遠く感じられる待ち人の名。
「日乃君よ」
ああ、はいはいごちそうさまと言って同僚は目を瞑った。
「戻ろ、羽夢」
日の入りで青くなった海。
風は凪いでいた。
待ち続けては居られない。
待ち人は本当に来るだろうか。
#5 ファーストフード at オジー
「日乃?」
「どうかしたの」
「いいや」
ブラインドを摘まんで外を見る。
青白い月に照らされて曇った空がまるで海のようだった。
「ちょっと出てくる」
空を仰ぎたくて駅前の空中回廊に向かった。
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