第22話 法の支配

March of law

#1

「本当に法律で解決できるのか?」

「法治国家、だからさ」

リアンは若干自嘲気味だった。

「其の、法治国家でーー」

「お待たせしました」

ウェイトレスが料理を運んでくる。


正午過ぎ、クローズの大学近くの交番前のファミリーレストラン。ガラス張りの店舗の外は快晴で、平日の割に通行人は多かった。

「襲撃されたら終わりだな」

「其のための駐在所だろ」

ガラスの向こうに見える3mの鉄心入り煉瓦作りの建物。入り口前に金属の盾を立て、鉄杖を持った警官。物々しいと言えば物々しい。

厄介なことに首をつっこんでいるなと言う気がする。


#2 

「法律で風俗嬢救助?」

外は秋の雨で室内は少し寒かった。

「変ですか?」

「風俗嬢救助、だろ?」

「笑いますか?」

「いや笑わんよ」

そう言って深理は少し笑った。

「ーー手助けはしないが忠告はしておく」

「何でしょう」

「同じ、だと思わないように」


#3  

ピザが少し冷め始めている。

溢れ落ちそうだったポテトも固まり始める。

時刻はもう少しで一時に成るところだった。

外は相変わらず明るい。

「ホントに来るのか?」

「黒音が呼びに行ってる」

「危ない。」

ああ、まぁ確かに迂闊と言えば迂闊だな、とリアンはピザを口にした。

「あ」

リアンの視界が真っ暗に、成ったのだろう。

「こんな時に古風な」

黒音が両手でリアンの目を目隠ししていた。

「連れてきた」

黒音の後ろに例の女子高湯没嬢が控えていた。

母と娘には年齢差が足りないので姉と妹と言うところだろうか。

六人掛けのテーブルに二人が着こうとすると、地味なカジュアルの男がゆっくり近付いてきた。

「混ぜて貰って良いですか?」

客は二人が座るまで立ったまま待って、二人が席に着いたところで、全体に一礼して席に着いた。


fight against

#4

湯没女子高生は運ばれてきたフライドポテトに手を付けず、無表情に黙って座っていた。

黒音も黙って座っている。

客は誰も手を出さないポテトを口に運ぶと、ブラックの珈琲を一口啜ってテーブルに置いた。

「御用件をどうぞ」

「・・・・・・其の女の子の辞表を受け付けて欲しいのですが」

少し圧されながらリアンは言った。

「困りました、ね」

「受け付けて貰えない?」

「うちとしては損害は避けたい」

「どうしても辞めたい、と」

「本当ですか」

「辞表を」

リアンが黒音の腕をつつく。

「はい」

黒音が白い封筒を取り出して渡す。

「シンメが書いた、と」

「ええ」

「嫌だそうですよ、湯没」

「強要は困りますよ」

「事実ですよーー

リアンが割り込んで話を先に進めようとする。

ーー辞表、受け取って貰えますね」

湯没業者の男はポケットから電話を取り出す。

二言三言話して切る。

湯没業者とおぼしき若い男がやってきた。

「じゃ、行こうか」

若い男はシンメの左手をとって立ち上がらせる。

「あ、ちょっと」

立ち上がろうとしたリアンを男が制す。

「辞表は社で判断しますので」

「連れていって良い訳ないだろ?」

「三時から出勤ですので」

若い男がシンメを連れて店を出る。

年嵩の男は座ったまま動かない。

「ーー引き続き私がお相手しますが」

法律の話にも成らなかった、と思ったが最初からこういう予定だったらしい。

「リアン」

「黒音、宜しく」

リアンは席を立って、シンメの後を追った。

付いていくと危ないだろうから黒音を残して。

「では、法律の話、しましょうか」


男を見据えると、薄く笑った気がした。







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