5 奴等に勝てない訳
第21話 拐われた女子
#1
古書に「サイケデリック」と言う言葉があったが、夜の歓楽街のイルミネーションは見てる居ると目眩のするサイケデリックなロケーションだった。
既に馴染みに成っていた道を躊躇無く歩いていく二人。
「確認は良いけど」
リアンは何を今更と言う表情で此方を見た。
「ーー談判は無駄なんじゃない?」
黙って先へ進むリアン。
3m程前で振り替える。
「出直していられるほど時間はない」
#2 大学
「え?没してる?」
リアンが少し大袈裟に、だが本当に驚いているように黒音を見た。
「二週間ほど学校来てない」
沈痛な面持ちで黒音が俯いた。
「何?」
「大体さ、この前の舌戦で警察が取り仕切って事は片付いたんじゃなかった?」
「其の件はリアンが」
「追跡調査したら当該女子は別の湯没会社にスカウトされ、って例によって例によるが、其の会社の系列店に編入されたらしい。」
「らしいって言うのは?」
「警察が教えてくれた情報で未だ未確認だからだ」
「女子高、辞めちゃったらしいわよ」
「・・・・・・」
深刻な話で、深刻な、と言うと深刻に聞こえないので言わなかったが、深刻な問題だった。
三人とも沈黙した。
平教室の学生控え室には太平楽風な日常が展開されていて、他所の話し声は、対比的に明るかった。
後期の授業が始まって一週間、窓の外の通りでは既につぎの学祭に向けてサークル活動が行われていて、其れがかえって何か非日常的な感じだった。選挙戦を控えた学生運動の拡声器の声の方が嘘臭いにせよ合っている気がした。
「で、じゃどうするの?」
「確認までに視察に行って、談判しようと思う」
「談判?」
「予約しさえすれば確認は出来る」
湯没女子学生
#3 湯没店
当該の店は復トーチカのような堅牢な構造だった。
「普通じゃ落ちんな」
「まぁ、知っての通りだよ」
「行こ」
ドアを開けるとフロアの人が出てきた。
「お客様、当店では三人は」
「あ、じゃ出てるよ」
「何かあったら電話する」
「一時間後に」
リアンは階段を上がっていった。
裸、ではないものの、薄いシャツ一枚で眼前に立たれると、若干の当惑を覚えた。
長いストレートのロング。幼さの残る顔。華奢な身体。何処と無く怯えた様子。シンメと呼ばれた女の子は間違いなく、この前の舌戦の当該の女の子だった。
「ああ、しんめ、ちゃ、さん?」
女の子は無表情に此方を見た。
「シンメです宜しく」
少し遅れた反応。周囲を気にしているのは、何処かにモニターがあるからだろう。
座っていたソファーを立って、シンメが手を取ってくる。この後は浴室へ、だった筈だ。
動かないで居るとシンメは戸惑ったようだった。
「お客さん?」
「リアン、です」
確認は出来た。
「ーー今日、若しくは後日、時間あかないかな。其れとも此処で話すようか」
薄く笑ったような気がした。
変な客だな、と思ったのか、其れとも。
「復学、する気とかないの?」
#4 チェーンの珈琲店
戻ってきたリアンは複雑な表情で、
「なかなか難儀だ」
と席に着いた。
結局突っ込んだ話をする前に、店員に差し止められて、なにもしない内に帰ってくるはめに成ったらしい。
「へえ、脱出する気ないんだ」
「わからん」
「湯没女子と関わるの、はじめてだし」
「何か信頼関係築けない」
「安直な結論けど、人間不信か」
「どうかな」
「どうする?」
「通常どうり、法対処してみようと思うが」
あまり期待が出来ない気がするのは、何故なのだろう。
歓楽街は夜11時を回るところだった。
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