The 16th act

 私とレイミアは大浴場でオズを待っていた。


 「レイミア、今日はのぼせないようにね」

 「うん……気をつける」


 確かさっきレイミアはタオルを濡らしてたっけ。おそらく頭を冷やす用だ。

 そんなことを考えていると、オズが入ってきた


 「う、うう……やっぱり恥ずかしいな……」

 「気にする必要なんてないから。男もいないし」


 逆にいたら問題だぁ……と心の中で自分にツッコミながらオズを手招きした。


 「し、失礼します……」


 簡単に身体を流してからオズが隣に座ってきた。


 「……どうしてオズはユクスのことが好きになったの?」


 早速レイミアがそう切り出した。


 「……オレが魔撃手になったばかりの頃、1番最初の訓練が的に当てる、っていう内容だったんだ」

 「うん、ユクスから聞いているよ」


 レイミアがそう返すと、オズは頷いて話を続ける。


 「その時、クレシアはもう知ってると思うけど、ユクスの魔法発動のフォームが綺麗だったんだよな。そこからアイツと仲良くなろう、って思った」

 「……なるほど」


 ここまでなら私も知っている。でもここから先が重要なはずだ。


 「あの日……『エネミー』がロードに擬態していた時、オレはロードの近くにいた。それで一番最初に狙われて、オレは怖くて足が動かなかった。その時に助けてくれたんだよ、ユクスが」

 「……それが理由なの」


 オズは小さく頷いた。すると、いきなりレイミアはオズに顔を近づけると、じーっとオズの目を覗き込んだ。


 「な、なんだよ……」

 「……うん、いいんじゃない、それで」

 「「……?」」

 私もオズも訳がわからない、というふうに首を傾げた。


 「どういうことだ?」

 「……いいから」


 レイミアはこれ以上取り合う気はないらしい。目を瞑ってしまった。

 とりあえず私はオズと会話を続ける事にしよう。


 「オズは、ユクスのどういうところが好きになったの?」

 「え? えっと、オレの話をちゃんと聞いてくれるところとか、オレが怪我した時とかに本気で心配してくれたりとか……」

 「うん、そういうところがユクスだよねー、優柔不断なところを除けば良い人だよ」

 「あ、あはは……」

 「ま、でもオズと気が合うところもあると思うし、私もそれでいいと思うな」


 私の考えをそのままオズに伝える。彼女は少し黙ってから、


 「……ありがとう」


 と呟いた。


 「さーて、レイミアがのぼせちゃうと困るからもうそろそろ出ようか」


 と風呂から上がろうとすると、


 「え、まだオレ入ってきたばかりなんだけど!?」

 「私も一応対策はしてきたんだけど……」


 と二人から反対の声が聞こえてくる。でも、


 「ほらほら、オズ? ユクスに会いたいんでしょ?」


 と少し試すように言うと、オズは少し考え込んでから風呂から上がった。それを見てレイミアもため息をつくとオズに続くのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「ユクス、ただいまー」

 「ああ、おかえり。早かったねクレシア。あ、オズ、レイミアも来てたんだね」

 「お、お邪魔します……」

 「私はクレシアに連行されただけなんだけど……」


 オズは相変わらず恐る恐る、レイミアは少しげんなりしながら部屋に入ってきた。


 「それにしても、どうしてこんなに大勢」

 「オズとレイミアがユクスに会いたいんだって」

 「え、だから私は連行……」

 「そ、そうだな! みんなユクスのことが大好きだからな!」

 「みんな? どうして私がユクスのことを好きだということになっているの?」

 「え? レイミア、ユクスのことが嫌いなの?」

 「……っ、そういう意味で言ってるわけじゃないから」

 「だよね! だから寝る前にみんなでお話ししようね〜って感じ!」

 「う……うん」


 なんだか僕だけ話についていけてない気がする……とりあえず、仲がいいんだな、ということだけはわかる。

 というかちょっと待って? そういえばオズ、女の子なんだった。つまり……

 一つの部屋に女子3人と男1人!? それは状況的にマズいのでは!? ああ、こんな時にロードがいればなぁ……


 「そ、それで、何かしら用はあるでしょ? なんか話したいこととか」

 「えーっと……レイミア、決めてきた?」

 「え? なんで私? 私は特に何も……」

 「じゃあ、オズ」

 「あー、考えてきてなかった……」


 ん!? 特に用もなくここに来たって流れなの!?


 「うー、あー、じゃあ、アレだ。今日のことについて!」

 「それさっき食堂で話さなかった?」

 「うっ……いいんだよ!」

 「はあ……私帰ってもいい?」

 「「ダメ」」

 「………」


 ダメだ、気を抜くとすぐに置いていかれる!


 「よ、よし、じゃあオズがそう言うんだし、今日のことについてもっと詳しく話すことにしようか」


 僕が宥めるようにそう言うと、オズは目を輝かせて、


 「やっぱユクスだよな!」


 とはしゃぐのに対して、


 「あー、完全にオズが最優先になってるね、これ」

 「………」


 僕は冷ややかな視線を向けられていた。レイミアに関しては無言の圧がすごい。

 気にしてしまうと押しつぶされそうなので僕は無理矢理にでも話を始めることにした。


 「まずは今日の授業から!」

 「……しょうがないなぁ、ユクスは」

 「……仕方がない、付き合ってあげる」

 「なんか僕が君達を呼んだことになってない!?」


 そんなこんなで賑やかな夜を過ごしたのだった……





 次の朝、クレシア、オズと一緒に食堂に行くと、そこには見知った顔がいた。


 「ロード君!」


 クレシアがロードのところに走って行く。


 「ああ、おはよう、クレシア。本当に心配をかけたね」


 といつも通りの笑顔で対応した。


 「このロードは本物だから大丈夫」


 先に来ていたレイミアがロードのことをチェックしてくれていたらしく、その言葉で僕達は完全に安心した。


 「ああ、そうだった。レイミアから話を聞いたよ。みんな、本当に迷惑をかけた。すまない」


 とロードは頭を下げた。


 「ロード君のせいじゃないよ。だから謝る必要なんて……」

 「いや、俺が不甲斐ないばかりに『エネミー』につけ込まれてしまった。そこは俺にも責任はあると思っている」


 そう言うロードの顔は真剣だ。僕達は言葉を失ってしまった。


 「……とにかく、こうしてロードも戻ってきたし、あの『エネミー』のせいで誰も死んでないから良かったでしょ」

 「ああ……オレは死にかけたけどな……」

 「結局助けてくれたんでしょ? なら問題なし!」

 「えぇ……」


 時間帯を選ばない女子達の掛け合いに僕とロードは顔を見合わせて苦笑いした。


 「あ、そういえば、オズ」

 「あ! そうだった……今度こそ初めまして、だな。オレはオストゥルだ。オズって呼んでくれ」


 とロードに手を差し出した。


 「うん、よろしく。俺はロード。確か同じ歳だったよね?」

 「……!? どうしてわかるんだ?」


 うん、僕も驚いている。初対面のはずなのに歳がわかるなんて……


 「え? ああ、なんだか見たことあるな、と思って訊いてみたら見事的中、ってやつさ」

 「お、おう……」


 ものすごい観察眼だ……僕なんて同じ教室で授業を受けている人の姿は思い出せない……


 「うーん、そうだな……オズ、さん、で良いかな?」

 「「えっ」」


 まさか一発で女子とわかった!? ということは騙された、と言うか気づかなかったのは僕だけ……?


 「あ……い、いや、呼び捨てでいいよ」

 「そうかい? じゃあオズで」


 まずいまずい……と勝手に考えながらとりあえず僕は朝食を取りに行くのだった。






 「外付け型の魔力器官はいくつかの型がある」


 僕達は今『戦士バトラー』の講義を受けている最中だ。今回は補助器官のことについてらしい。


 「まずは、今お前達訓練生が訓練時に使用している腕輪型魔力器官だ」


 これは最もオーソドックスかつシンプルな型の器官で、常に身体と接触しているから安定した魔法行使が可能となっているそうだ。


 「次は武器などに魔力器官を埋め込んだ武器型魔力器官」


 これは主に剣や銃の形をしているもので、それぞれの武器に特化した型にできるのが特徴だ。使用者に合わせて変更できるのも魅力の一部とも言える。


 「最後に非接触のアクセサリー型魔力器官だ」


 それは初めて聞いた時に「なんだそりゃ!?」と思った。アクセサリー型の魔力器官!? そんなものがあるの?

 講師の話によると、これはとある『戦士バトラー』の一人の要望によって開発されたもので、見た目こそ良いものの非接触型故にあまり安定していない、とのことらしい。

 その『戦士バトラー』……おしゃれ好きすぎない?

 それはそうとして、僕はどの型にしよう……

 特に使いたい武器はないから腕輪型かなぁ。アクセサリー型、ってのも気になるけど……

 色々と迷っているうちに、講義の終わりを告げる鐘が鳴った。






 「ユクスー! この前のやつ、できるようになったぞっ!」


 『戦士バトラー』の訓練中、オズが嬉しそうに走ってきた。


 「あ、ついにできるようになったんだ。ということは身体強化も?」

 「当然! ……じゃあ、見てろよ。『基礎身体強化』!」


 オズの周りに少し魔力が纏われたのがわかった。

 そのままオズは右手で銃の形を作る。人差し指と中指の先数センチ程先でエネルギーが収束する。


 「……行けっ!!」


 オズの手が少し弾き上げられるのと同時にエネルギーはまっすぐものすごい速さで的の方に飛んでいった。そのままエネルギー弾は的を破壊した。


 「よし、成功だ!!」

 「いや、ちょっと……威力威力」


 的が破壊されるほどの威力ってなんだよ……そりゃ身体強化も必要だ。


 「これは僕も負けてられないね」

 「ああ! 望むところだ!」


 また僕達は練習に臨むのだった。ちなみに的を破壊したことで教官に怒られたのはまた別の話だ。

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デフィートエネミーバトラーズ イードラ @e-dragon

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