The 14th act
「今回遠征から戻ってきたチーム『オライド』だ」
エン教官が4人を指し、それと同時に4人がお辞儀をした。一人は何か重そうな鎧と派手なヘルメットを被っている。
次の一人はシルクハットに黒いコート、長い髪をしていた。帽子で目元が見えないけど口元は笑っているのが見える。
その隣には……なんと言うか、上半身は筋骨隆々な肉体がほぼ露出していた。強いて言うなら……原始人のような格好をしていた。
最後の一人は、深緑色のパーカーを着ている黒髪だった。
「では一人ずつ自己紹介を頼む」
とエン教官が言うと、まずは赤い鎧を来た人が一歩前に出た。
「拙者はハジンと言う者である。この鎧は『甲冑』と言い、頭の物は『兜』と言う。拙者は
と言うとまた一歩下がった。
次に黒コートの人が前に出た。
「ククク、ワタクシはキーラと申します。
と空気が微妙になったところで隣の人が前に出た。
「おれ、レブナ。
最後に緑パーカーの人だ。
「あたしはマボム。
と言ったところで一通りの紹介は終わった。
……ん? ちょっと待って、この4人、全員
「……では、今から実演を行ってもらう。訓練生は少し離れろ。お前達は位置について」
僕達がバーチャルバトルルームのさらに壁の方に寄り、4人がそれぞれ位置に着く。
「用意、始め!」
エン教官がボタンを押すと、たちまちさまざまなサイズの『
「セヤッ!」
ハジンさんが両腰から片刃の剣を抜き放ち、『
「ククク、やはり楽しいですねぇ!」
キーラさんが両手に持った何かを『
あれは……銃?
「………」
レブナさんは黙々と手で持った石斧(本当に石斧だった)で『
その石斧は『
マボムさんはと言うと、まだ何もしていないかのように見える。どこから取り出したのかフーセンガムを噛んでいるようだ。
「ハッ!」
「クククッ!!」
「ぬん!」
あれ、『
「……弾けな」
マボムさんの作った風船が割れる。
その瞬間、
轟音と共に集められた『
その後、全ての『
「……すごい」
クレシアがそう呟いた。
本当に同感だ。個人の戦闘能力が高くてそれぞれ別々の動きをしているのかと思いきや、チームで纏まっていて全ての統制が取れている。話し合いもせずにここまで……これが『オライド』の力……
しばらくした後、訓練生全員が拍手をし、4人は礼をした。
「……さて、これを見て分かってくれた者がいるかもわからないが、彼らがクテレマイスの中で最も強いチームだ。今回忙しい時間を縫ってこの場を設けさせていただいた。感謝する」
エン教官が礼をしたのに対しキーラさんは首を振った。
「いえいえ、こちらこそありがとうございます。訓練生の方々にこのような形で指導させていただけるなんて光栄ですよもう。まあこれを訓練生の皆さんに見せて『これくらいできるよね』的なプレッシャーを与えたりすることが目的の一部でもあったんですけどねおっと口が」
途中から自分の話になってた……キーラさんはキーラさんで色んなところが濃いなぁ。
「キーラはもうこれ以上喋るな。……ったく、後はあたしがやるよ。しばらくあたし達があんた達を見る。回復手と奇術手は力になれないかもしれないけど……役に立てたら良いな、と思ってる」
続きはマボムさんが引き継いだ。
この人、優しいところもあるみたい。最後の方なんて声が別人だった。
「でも、だからと言って甘くは見ないから! しっかり鍛えてもらうからそのつもりで」
「「「「はい!!!」」」」
「本日のところはこれで解散とする。午後より通常の訓練を実施するからいつも通りクラス別で集合だ。では解散!」
今日の『
「私達はどうする?」
「うーんそうだな……『オライド』のみんなと話をしてみよう。こんな機会、滅多にないよ!」
今のうちに聞きたいことは聞いておきたいからね。
「私も同感」
僕の意見にレイミアも頷いた。
「あれ? オズは?」
あ、本当だ。さっきまでここにいたのに……
「あそこじゃないか?」
ロードが指差した方向を見ると、いた。キーラさんの方に向かっている。
「僕達も行こう」
4人はオズを追いかける形になった。
「この2つの武器は、銃と言うんですか?」
訓練生の一人がキーラさんに質問をしていた。
「ええ。ワタクシの愛銃、スパラとリプレですよ。本当に可愛い子達なんですからもう……クククッ」
今にも銃に頬擦りしそうだ。質問した訓練生も言葉を失っていた。
「では、次の質問は……おや?」
キーラさんが辺りを見回すと、何かに気づいたように首を傾げた。その視線の方向には……オズがいた。
「いたのですね、ここに」
「兄さん……」
「え、兄さん?」
キーラさんってオズのお兄さんだったの!?
「兄さんっ!」
オズは堪えきれなくなったのか、キーラさんに飛びついた。
「おっと……」
キーラさんは少しよろめいたけど、最初からなのか生き別れた兄弟の再会が嬉しいのか口角は上がっていた。
「なるほど……アナタもこの決断をしたのですね」
オズの頭を撫でながらキーラさんはそう呟いた。
「ああ、すいませんね、ウチのオズが失礼いたしました。まあしばらく会ってなかったので仕方ないところもあるかもしれませんが」
「オズとキーラさんが……家族ってことですか?」
「そうですそうです。アナタ達がオズの友達ですか?」
「はい。僕はユクスです。で、こちらがクレシア、レイミア、ロードです」
僕の紹介と同時にみんなが礼をした。
キーラさんは「ナルホド」と頷いて、
「そうですかそうですか。人見知りのアナタがこんなに友達に恵まれるなんて、成長しましたね」
オズを見下ろしながら感慨深げにそう言った。
「ああ。全部ユクスのお陰だよ」
オズが鼻をすすりながら僕達のところに戻ってきた。
「……では、ワタクシの特技を一つお見せいたしましょう」
ん、なんだろう、いきなりキーラさんの雰囲気が変わったような……
静かにキーラさんは続ける。
「ワタクシの特技は……『
と言うと、突然銃を構えると、発砲した。
訓練生が少しどよめく。キーラさんが銃口を向ける先には……
額に穴の空いたロードがいた。
え……?
「なんで……」
クレシアも口を塞いでいる。その場にいる訓練生全員が息を呑んでいるのが分かった。
「兄、さん……?」
全く状況がわからない。なんの前触れもなくキーラさんがロードに銃を向けた後、躊躇もなく発砲した。
「一体どういうこと」
こんな状況でも冷静なレイミアの声がキーラさんを問いただす。
「言ったでしょう。ワタクシは『敵』を撃ち抜くのが特技だと」
『
「つまり、ロードは……?」
「いいえ。ロード君は今部屋で寝ているでしょう。つまり何が言いたいのかというと、このロード君は偽者、ということです」
キーラさんが倒れたロードを指差した。
「このロードが、偽者……?」
「ええ。実は昨日訓練生の報告書を読んでいましてね。ロード君は魔力中毒を引き起こしていたんですよね?」
「は、はい」
僕がそう答えると、キーラさんは頷いて続ける。
「ワタクシの知人も魔力中毒を経験しておりましてね、彼によると『魔力中毒は基本1日2日で治る代物ではない』とのことでした。気になって調べてみましたが、魔力中毒になった者で2日後に復帰した人はいなかったんですよ。つまり、そういうことです」
そんなことが……ずっと気づかなかった。
「それと、今のは魔弾です。通常の人間には全く影響がないはずなんですよ。このように」
キーラさんは自らの頭に銃を当てると、そのまま引き金を引いた。破裂音がする。みんな目を塞いだけど、キーラさんには傷一つなかった。
「この通りです。これで証明完了ですね」
今日、ずっと『
僕はさっきロードにノートを貸したのを思い出した。もしそのままだったら、『
「ク……ソ………」
「えっ!?」
頭部を撃ち抜かれたはずのロード(?)が声を発した。
「ウマク……イッタトオモッタノニ……ジャマガハイルナンテ……クソ……!」
ロードの身体が形を崩していく。流動性を持つそれはだんだん盛り上がっていくと、蠢く大きな塊になった。
「モウイイ!! ダレデモイイカラコロシテヤル!!!!」
と言うと、『
「なっ……!?」
「オズ! 危ない!」
僕はオズにありったけの力でダッシュすると、そのまま自分ごと倒れ込んだ。狙いを外したところをすかさずキーラさんの魔弾が捉える。
「ユクス……?」
「オズ、大丈夫かい!?」
「お、おう。ありがとう……」
オズの手を取って立ち上がらせる。そのまま僕達は一旦壁際へと退避した。
「あ、ありがとう。もう手を繋がなくても良いから」
「あ、ごめん」
クレシアのところに辿り着くと、オズは僕の手を離した。
「こんな時にも君達は仲がいいんだね」
クレシアは僕のことを呆れた表情で見ていた。
「仕方ないでしょ!? 状況が状況なんだからさ!?」
僕達が言い合いをしている間にもキーラさんと『
「なるほどです、弾力性のある身体は弾丸を通さない、と」
「ソウダ。ソノコウゲキハモハヤオレニハキカナイ。オレヲタオスシュダンハキサマニハナイ」
『
『
やっぱり銃の攻撃はその『
「あたし達も加勢するよ! ……ったく、なんでこんなところにヤツが!」
「話は後ですよ! ひとまずコイツを倒しましょう!」
チーム『オライド』のメンバーが集結した。
「『切断:刹那・乱』!」
ハジンが両手の片刃剣を閃かせる。床に着地した直後、『
「倒したか?」
「いや……あれを見て」
バラバラになったはずの『
「コレも効果なし、と。アイツ、なかなか面倒ね」
「全くですよ。弾丸も効きませんのでワタクシはもう手も足も出ません」
キーラさんがお手上げといったふうに肩をすくめた。
「チッ……弾けな! 『爆烈境』!」
『
これならやれる! ……と思ったけど、やっぱりダメージは小さいようだ。
「これも効かないなんて……」
「どうする?」
勝ち誇ったかのように『
もうダメなのか……?
と思ったその時、
その『
「グ……グググ!? ドウシテ……ドウシテオレノカラダガモエテイルッ……!?」
「私が燃やしているからだ」
とてつもなく頼もしい声がして、みんなが振り向く。そこにはエン教官がいた。
「バカナッ!? オレニハマホウガキカナイハズナノニッ!?」
「ただ耐性が高いだけだろう。ならばその耐性すらも越える力を出せばいいだけのことだ」
エン教官は腕を組んでいるだけだ。それなのに『
「グ……ギ、ギ、グオオアアアアア!!!!」
ついに『
「……すごい」
誰かがそう呟いた。僕も同感だ。『オライド』のみんなが手も足も出なかった『
「ククク、流石はチーム『エレメンツ』のエースですねぇ」
「現役時代はとうの昔に終わったさ。……とりあえず、話は後で聞かせてもらうとしよう。ユクス、クレシア、レイミア、オズ、キーラ、マボム、レブナ、ハジンは今日の訓練終了後に教官室へ来い」
「「「「はい」」」」
そんなこんなで一旦部屋に帰ることになった。
「まさか『
ベッドに寝転びながらクレシアがそう呟いた。
「うん……全然気づかなかったよ」
今日の授業でやったことを別のノートにまとめながら頷く。
「どこから入ってきたんだろうね」
「うーん、アイツは液体状だったから侵入は簡単だったはずだよ」
後ろからため息をつく音が聞こえてきた。
「こんなところにも『
「………」
たしかにそうだ。僕らが『
それからは勉強に集中することはできなかった。
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